ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◆

 8月、最後の日曜日。
 今日で、Gホテルのヘルプも終わりだ。

 先日、ヘルプ依頼をしてきた音響会社からも電話があり、9月以降は別の人間を確保したと報告があった。

 今回のことについて文句の1つでも言ってやろうかとも思ったが、ハウリングの件もあるのでやめておいた。ちなみに、ハウリングのことは報告したのだが、その時逆に気まずそうに謝られただけだったので、何か察するものがあったに違いない。

「本城さん。おはようございます、ちょっといいですか?」

 今朝は、出勤すると会場にキャプテンの原田がいた。
 ……ひなのの姿は、見当たらない。

 男の子の姿もなかった。結局、薫が見た男の子は初めからソラで、噂のあった小学生ではなかったのだろう。

「こいつが、どうしても話を聞きたいらしくて」

 原田の隣には、配膳の制服を身に着けた大学生くらいの男の子が立っていた。

「すみません、黒川です。あの……ひなを見たって、聞いたので」
「ああ……事情を知らなくて、その。すみません」
「いえ。それで、あの……ひなは、どんな様子、でしたか」
「……ええと」

 ちらりと隣に目をやると、原田が小さく頷いた。

「黒川も、一緒に海に行く予定だったんですよ。墓参りは、黒川と2人で行ってきたんです」

 そういえば、前に見せてもらったスマートフォンの写真で、ひなのの隣に写っていたような気がする。

 薫は、ソラのこと以外で、覚えている限りひなのとの会話を全て黒川に話した。といっても、ごく短いものだったが。黒川は終始俯きがちに、薫の話を聞いていた。

「あの、坂下さんは、とても楽しそうに働いてらっしゃいましたよ」

 パタパタと忙しなく披露宴会場を行き来していたひなのの姿が思い起こされる。

「……そうですか、っ……」

 震える肩に、原田が手を添えた。

「……俺の前に、出て来てくれればいいのにっ……ひな、うぅ」

 とうとう泣き出した黒川を、原田が宥めながらバックヤードに連れて行く。
 しばらくして戻って来た原田は、薫に頭を下げた。

「すみませんね、あいつ……黒川は、坂下のことが好きだったから」

 薫の胸が、ちくりと痛む。

「海でね、告白するって言うもんだから、皆でお膳立てしてやろうって言ってたんですよ」
「……。そうだ、ヒマワリの柄の水着を買ったって、言ってました。すごく嬉しそうに……さっき、言い忘れました」
「そうですか。黒川が、坂下はヒマワリが好きだって言うんで、この前の墓参りの時に持って行ったんですよ。俺は、お供えにヒマワリはどうかと思ったんですけどね。本当だったんですね」

 頷く原田の目も、少し潤んで見えた。

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