ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「ま、それはいいんだけどね。今日は、ビッグニュースがあるのよ」

 にんまりと笑う櫻井は、顔の前で人差し指を軽く振って見せた。

「何と! 来月から、ホテル・メルローズに、音響で入ることになりました!」
「えっ、メルローズに??」

 満面の笑みで報告する櫻井に、奈津と本城は驚いて顔を見合わせた。

「そうなのよー。私もこんな年度の途中で珍しいと思ったんだけどね、高嶺支配人に直接電話もらったんだから。来月12月から、うちにひと部屋くれるって」
「あそこって、音響会社、確か2社入ってましたよね……部屋数って、どれくらいでしたっけ」

 本城が顎に手を当てながら、櫻井に聞いた。

 確かにこんな中途半端な時期の参入は珍しい。既存の音響会社が、余程の不手際でもしたのだろうか。

「披露宴会場は、全部で7部屋あるんだって。うちは3社目ってことになるわね。それでね、支配人が、音響にはぜひ相川くんに来て欲しいって言ってるんだけど、いいわよね?」
「え! 僕ですか?」
「そうなの。希望っていうか……条件ぽいのよね。メルマリーは系列だし、自社のところで慣れてる人がいいからってことなんだけど」
「………」

 いきなりの名指しに、奈津は動揺する。

「それはそうとして、相川くん、高嶺支配人って、どんな人?」
「え……会ったこと、ありませんけど……」
「ないの!? 一度も?」
「一度も、ないです」

 高嶺は、ホテル・メルローズとゲストハウス・メルマリーを兼任している支配人だ。

 しかし、実質メルマリーの責任者は成瀬に一任されているようで、高嶺はめったにメルマリーには来なかった。ブライダルフェアの時などにたまに顔を出しているようだが、奈津は会ったことがない。すれ違っているのかもしれないが、それらしい人に覚えはなかった。

「……変ねぇ。一度も会ったことないのに、指名なんてするかしら」
「成瀬さんから、評判を聞いたんじゃないですか?」

 首を傾げる櫻井に、それしか考えられない、と本城が言った。

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