ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「俺、初めの頃、高嶺さんに会ったことありますよ。何度か話しましたけど……30代後半くらいの、背の高い、穏やかそうな人でしたね」

 本城が、思い出すように首を傾げた。

「ただ、ちょっと何考えてるか分からないところもありましたけど。含んだ物言いをするというか……」
「そうなんだ。私も会ったことないのよねー。メルマリーの契約の時も、成瀬さんだけだったし。電話では何度か話したことあるんだけど」
「でも、相川がメルローズに行ったら、メルマリーどうするかな……」

 本城が奈津を見ると、つられるように櫻井も目線を向けた。

「そうねぇ。成瀬さん、気難しいんでしょ? やっと相川くんで上手くいってたのにねぇ」

 奈津が入る前は、メルマリーの音響は人が続かなかったと聞いている。成瀬が厳しすぎるのだ。

 それはもちろん奈津も例外ではないのだが、まだまだ初心者の自分としては、音響の知識もひと通り持っている成瀬のアドバイスは正直ありがたく、いつも素直に聞いている。それが良かったのだろうと、本城には言われたことがあった。

「まぁ、12月と1月は件数も少ないだろうから、被った日は本城くんにメルマリーに行ってもらうとして、その間にまた誰か考えないと……」

 当の本人を置いてけぼりに進んでいく話を、奈津はぼんやりと聞いていた。

 奈津は、何だか腑に落ちなかった。
 本当に、成瀬が自分を推薦するようなことを言ったのだろうか?

 奈津は、成瀬と一緒に仕事をすることが楽しかった。元々披露宴の仕事は好きだが、成瀬と共に作り上げていく披露宴には格別の一体感があり、毎回気持ちのいい達成感を味わう。

 ……成瀬も、自分程ではないにしろ、同じ気持ちだと思っていた。メルローズの音響に入るとなると、これまでようには一緒に働けなくなるだろう。全くなくなる訳ではないと思うが、回数は格段に減る。

 仕事ぶりを認めてくれたのだから、喜ばなくではならないのだろうけど……寂しいとは、思ってくれなかったのだろうか……

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