109 / 160
109
しおりを挟む
◇
メルローズの披露宴は、順調に進んでいった。音響台や照明機器の仕様は基本的にメルメリーと同じだったので、問題なく扱えた。
担当キャプテンは、先日会った増本だった。ノアールは大きな会場ということもあり、チーフキャプテンの増本が担当することが多いのだという。
増本は、進行が乾杯まで進んだところで一度だけ、音響台を覗きに来た。
「問題なさそうですね。音量も大丈夫だし、今日はマイクもいつもよりクリアに入ってますよ。さすがですね、このあともよろしく」
「……はい、よろしくお願いします」
奈津はちらりと、隣の本城を見た。マイクの周波数と音質の設定は本城にやってもらったのだが……小さく頭を下げる。本城にはいつも助けてもらっていると思う。
やがて前半のプログラムも進み、新郎新婦はお色直しのため退場していった。
「よし、大丈夫そうだな。じゃあ俺は行くから、あとはしっかりやれ。帰りに宴会とサロン、挨拶忘れんなよ。終わったら報告のメールを入れてくれ」
本城は、初めから最後まで立ち会えないと言っていた。帰り支度を始める忙しいマネージャーを、心細いからといって引き止める訳にはいかない。
「はい、今日はありがとうございました。お疲れ様です」
「何かあったら電話しろ」
本城は増本をつかまえて、少し挨拶したのち会場をあとにした。
奈津の緊張とは裏腹に、披露宴は後半も無事に進行していった。キャンドルサービスも花束贈呈も、いつものように感動する余裕もなかったのだが、それが良かったのかもしれない。
「──以上をもちまして、めでたくお開きとさせていただきます。本日は、誠におめでとうございました!」
司会者の一際明るいコメントに、誰よりも拍手を送ったのは、奈津だったかもしれない。無事に初仕事が終わったという安堵の拍手を、心の中で。これまでにも色んな会場を回ってきたが、今回は妙なプレッシャーもあり、いつにも増して緊張していた。
(お……終わった……)
ざわざわとゲストが帰り支度を始め出した頃、奈津は半ば放心しながらも、ようやく音源の整理を始めた。気持ちがすっかり緩んでしまい……誰がが自分に近付いていることに、全く気が付かなかった。
メルローズの披露宴は、順調に進んでいった。音響台や照明機器の仕様は基本的にメルメリーと同じだったので、問題なく扱えた。
担当キャプテンは、先日会った増本だった。ノアールは大きな会場ということもあり、チーフキャプテンの増本が担当することが多いのだという。
増本は、進行が乾杯まで進んだところで一度だけ、音響台を覗きに来た。
「問題なさそうですね。音量も大丈夫だし、今日はマイクもいつもよりクリアに入ってますよ。さすがですね、このあともよろしく」
「……はい、よろしくお願いします」
奈津はちらりと、隣の本城を見た。マイクの周波数と音質の設定は本城にやってもらったのだが……小さく頭を下げる。本城にはいつも助けてもらっていると思う。
やがて前半のプログラムも進み、新郎新婦はお色直しのため退場していった。
「よし、大丈夫そうだな。じゃあ俺は行くから、あとはしっかりやれ。帰りに宴会とサロン、挨拶忘れんなよ。終わったら報告のメールを入れてくれ」
本城は、初めから最後まで立ち会えないと言っていた。帰り支度を始める忙しいマネージャーを、心細いからといって引き止める訳にはいかない。
「はい、今日はありがとうございました。お疲れ様です」
「何かあったら電話しろ」
本城は増本をつかまえて、少し挨拶したのち会場をあとにした。
奈津の緊張とは裏腹に、披露宴は後半も無事に進行していった。キャンドルサービスも花束贈呈も、いつものように感動する余裕もなかったのだが、それが良かったのかもしれない。
「──以上をもちまして、めでたくお開きとさせていただきます。本日は、誠におめでとうございました!」
司会者の一際明るいコメントに、誰よりも拍手を送ったのは、奈津だったかもしれない。無事に初仕事が終わったという安堵の拍手を、心の中で。これまでにも色んな会場を回ってきたが、今回は妙なプレッシャーもあり、いつにも増して緊張していた。
(お……終わった……)
ざわざわとゲストが帰り支度を始め出した頃、奈津は半ば放心しながらも、ようやく音源の整理を始めた。気持ちがすっかり緩んでしまい……誰がが自分に近付いていることに、全く気が付かなかった。
1
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる