ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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(成瀬さんに、メッセージ入れておこう)

 メルローズの初仕事を成瀬はとても心配していて、終わったら連絡するように何度も念を押されていた。

 今日は、成瀬の家に泊まりに行く予定だ。遅くとも、夜7時には行けると話してある。メルマリーは今日披露宴はなく、成瀬は定時に帰れるとのことで、一緒に夕飯を作ろうと話していた。

 ひとり暮らしのくせに料理はからっきしな奈津に、成瀬が簡単なものから教えてくれると言うので、楽しみにしている。成瀬は、いつか自分の店を持ちたいと話すだけあって料理の腕も良くて、ますます尊敬してしまう。

 奈津は、仕事が無事に終わったことと、支配人に誘われて1杯だけご馳走になるので少し遅れると、メッセージに書いた。

 披露宴後の片付けに忙しくしているキャプテンの増本と簡単に挨拶を交わし、ノアールをあとにする。宴会事務所とサロン事務所に挨拶をして、ラウンジに行くエレベーターが分からない奈津は仕方なくフロアに回り、客用のエレベーターで18階に上がった。ラウンジに向かうには時間がまだ早いのか、上階に向かう程乗り合わせた人は降りてゆき、到着した時には、エレベーターには奈津1人だった。

 扉が開くと、先程までの披露宴会場の賑やかさとは別世界のような、静かな空間が目の前にあった。奈津は少し戸惑いながら、柔らかいカーペットに足を踏み出す。そんなに長くはない通路の正面に、『Blue Moon』と書かれたバーラウンジがあった。

 奈津が近付くと、下を向いて書き物をしていたフロントクロークの男性が顔を上げた。

「いらっしゃいませ。お1人様でしょうか?」

 小柄で細身の男性は色が白く、整った顔立ちに縁のない眼鏡が神経質そうに見えた。黒髪を横分けにきれいに撫で付けてセットし落ち着いた雰囲気だが、こういう場にどうかと思う程若く、自分よりかなり年下に見える。さすがに成人はしているのだろうが、随分ときれいな子だな、と奈津は思った。

「あの、高嶺支配人と約束をしていまして……いらっしゃいますか?」
「──伺っております。コートをお預かりしましょう」

 少しだけ間を置くようにゆっくりと歩み寄った男性は、奈津に手を差し伸べた。コートを預かると、クロークのハンガーに丁寧に着せ掛ける。

「どうぞ、こちらへ」

 そして、奈津を促して薄暗い店内へと、足を踏み入れた。

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