ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 男性に案内されるままについて行くと、窓側の、景色が一望できるカウンター席にコースターが2枚並べて置いてあった。

「どうぞ、こちらへ。高嶺は少し遅れるとのことでございます。何をお飲みになりますか?」
「あ、では支配人が来られるまで、待ちます」
「先にお飲み物をお出しするように、言われております」

 男性の表情は読めないが、その口調には有無を言わせないものがあった。

「えっと……では、ビールを」
「──かしこまりました」

 窓の外は、暗くなりかけていた。
 日が落ちる直前の、青い靄が街全体に降り始めている。沈みゆく太陽が放つ黄金色と溶け合って、とても美しかった。

(こういうの、トワイライトって言うんだっけ……)

 久しぶりに見たな、と奈津は思った。忙しい日常では、こうした何気ない瞬間に気付かず過ごしているものだ。

 ゆったりとした店内には、やはり時間が早いのか、客はあまりいなかった。

 フロアの中央に、白いグランドピアノが置いてある。大屋根と呼ばれる蓋が斜めに大きく開かれてあり、鍵盤の蓋も上がっていた。

「お待たせいたしました」

 程なく、スマートなビアグラスに注がれたビールがウェイターによって運ばれてきた。底からぷつぷつと細かい気泡が、揺れながら浮き上がる。

 窓の外は寒いと思うが、ホテル内は空調が行き届いていてどこも暖かく、まして披露宴会場の奈津がいた音響スペースは機材から発する熱で暑いくらいだった。

 ごくりとひと口飲むと、冷えたビールは爽やかに喉を通過していく。

(仕事のあとの1杯は美味しいっていうけど、本当だな)

 奈津はごくごくと半分くらい飲み干して、ふぅと息を吐いた。

(そうだ、今のうちに)

 奈津は本城に報告のメールを書こうと思い、スマートフォンを取り出した。ふと、成瀬からメッセージが届いていることに気付く。

『どこで飲むんだ?』

 1行だけのメッセージに、18階のラウンジだと返信を送り、本城に報告のメールを書き出した。

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