ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 奈津は、きれいな青色の液体が揺れる小さなカクテルグラスを、そっと持ち上げた。

「いただきます」

 ひと口含むと、それはとても爽やかな香りが広がった。

「──美味しい」
「気に入った? 良かった」

 奈津は、もうひと口飲んだ。爽やかな香りが鼻から抜ける。かなり、口当たりがいい。

「ところで……うちの店は、どう?」

 高嶺に切り出されて、奈津はどきりとし、姿勢を正して向き直った。寛いでいる場合ではない。

「はい、思ったよりもリクエストが多くて驚きました。ジャズをお好きな方が多いんですね」
「そうなんだよ。マニアックな客がいて驚いただろう? でも、リクエストは1度も断らなかったって、チーフに聞いたよ。さすがだね」
「いえ、リクエストされるのは、好きなので……」

 これに関しては、櫻井と本城に感謝するしかない。出勤したら、きちんと礼を言おう。
 高嶺が、人懐こく目を細める。

「そうだね、私としてはこれからも相川くんに来てもらいたいと思うんだが、どうかな?」

 奈津の顔に、ぱっと笑顔が浮かんだ。

「ありがとうございます。がんばりますので、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ、よろしく頼むね」

 奈津は肩の荷が下りたようにほっと安心し、再び目の前のカクテルに口を付けた。

「相川くん、カクテル言葉って知ってる? それ、ブルームーンには『奇跡の予感』っていう意味があるんだよ」
「それは……ロマンチックですね」
「でもね、もう1つ……『できない相談』っていう意味もあるんだ」
「え、全く違う意味ですね」
「うん。青い月なんて滅多に見られない奇跡だから、それを幸運と捉える人と逆に捉える人がいたみたいだね。相川くん、青い月、見たことある?」

 一瞬窓の外に目が向いたが、そこは真っ暗で遠くに街の明かりが小さく煌めき、月は見つかりそうになかった。

「青い月ですか……昼間に見える、青白い月のことじゃないですよね?」
「はは、それなら私もよく見るよ。残念ながら、別物だ。いつか見てみたいね……ここの名前、ブルームーンって、このカクテルから付けたと思ってる?」
「違うんですか?」
「うん。──バラの品種だよ、ブルームーンは」

 高嶺の視線がふと手元のグラスに落ち、すぐに戻った。

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