ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「──失礼します。本日はありがとうございます、マスター」

 ダークグレーのスリーピースを隙なく着こなした男性が、雅巳さんの側に来て慇懃に頭を下げた。

「ドールのご提供、感謝いたします」
「忍だ。丁寧に扱ってくれるね?」
「勿論でございます。──忍様、どうぞこちらへ」

 手を差し伸べられて、体が固まった。
 息が苦しい。縋るように雅巳さんを見る。

「忍? 行ってきなさい」
「あの、でも……」

 雅巳さんの口端が歪む。

「忍。これはお仕置きだ。……分かるね?」
「っ、……」

 ああ、雅巳さんは怒っているのだ。私は雅巳さんに──初めて、逆らった。

 1002号室に、自分ではなく真一を向かわせたあの日。真一が気に入っている相川という子供みたいな彼を、雅巳さんが私と共有しようとしたあの日。

 私は、真一に向ける雅巳さんの執着が許せなかったのだ。──どうしても。

『嫌だったのかい? 忍』

 あの日、雅巳さんは私を見て驚いたように微笑んだ。

『自分の気持ちをちゃんと言えるようになったんだね、忍。嬉しいよ』

 初めて雅巳さんに逆らったあの日、雅巳さんは私を優しく抱いてくれた。
 これで良かったのだと、心から安心した。許されたと思った。──違ったのだ。

「マスターのお相手なら僕がするから、安心して行っておいで」

 雅巳さんの腕に絡み付いた蛍が、ひらひらと手を振った。息が苦しい。雅巳さんは、時にひどく残酷だ。

「忍様」

 再度の声掛けに、私はふら、と立ち上がった。これ以上、雅巳さんに逆らえない。雅巳さんは、私の全てだ。

 ふらつく私を支えた男性は、そのままステージに向かおうとした。

「……あの、先に、トイレに」

 喘ぐように声を発した私に、足を止めた男性は振り返り、目を細めた。

「ステージの上で、できますよ」
「っ、」

 全身が、総毛立った。

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