151 / 160
151
しおりを挟む
「──失礼します。本日はありがとうございます、マスター」
ダークグレーのスリーピースを隙なく着こなした男性が、雅巳さんの側に来て慇懃に頭を下げた。
「ドールのご提供、感謝いたします」
「忍だ。丁寧に扱ってくれるね?」
「勿論でございます。──忍様、どうぞこちらへ」
手を差し伸べられて、体が固まった。
息が苦しい。縋るように雅巳さんを見る。
「忍? 行ってきなさい」
「あの、でも……」
雅巳さんの口端が歪む。
「忍。これはお仕置きだ。……分かるね?」
「っ、……」
ああ、雅巳さんは怒っているのだ。私は雅巳さんに──初めて、逆らった。
1002号室に、自分ではなく真一を向かわせたあの日。真一が気に入っている相川という子供みたいな彼を、雅巳さんが私と共有しようとしたあの日。
私は、真一に向ける雅巳さんの執着が許せなかったのだ。──どうしても。
『嫌だったのかい? 忍』
あの日、雅巳さんは私を見て驚いたように微笑んだ。
『自分の気持ちをちゃんと言えるようになったんだね、忍。嬉しいよ』
初めて雅巳さんに逆らったあの日、雅巳さんは私を優しく抱いてくれた。
これで良かったのだと、心から安心した。許されたと思った。──違ったのだ。
「マスターのお相手なら僕がするから、安心して行っておいで」
雅巳さんの腕に絡み付いた蛍が、ひらひらと手を振った。息が苦しい。雅巳さんは、時にひどく残酷だ。
「忍様」
再度の声掛けに、私はふら、と立ち上がった。これ以上、雅巳さんに逆らえない。雅巳さんは、私の全てだ。
ふらつく私を支えた男性は、そのままステージに向かおうとした。
「……あの、先に、トイレに」
喘ぐように声を発した私に、足を止めた男性は振り返り、目を細めた。
「ステージの上で、できますよ」
「っ、」
全身が、総毛立った。
ダークグレーのスリーピースを隙なく着こなした男性が、雅巳さんの側に来て慇懃に頭を下げた。
「ドールのご提供、感謝いたします」
「忍だ。丁寧に扱ってくれるね?」
「勿論でございます。──忍様、どうぞこちらへ」
手を差し伸べられて、体が固まった。
息が苦しい。縋るように雅巳さんを見る。
「忍? 行ってきなさい」
「あの、でも……」
雅巳さんの口端が歪む。
「忍。これはお仕置きだ。……分かるね?」
「っ、……」
ああ、雅巳さんは怒っているのだ。私は雅巳さんに──初めて、逆らった。
1002号室に、自分ではなく真一を向かわせたあの日。真一が気に入っている相川という子供みたいな彼を、雅巳さんが私と共有しようとしたあの日。
私は、真一に向ける雅巳さんの執着が許せなかったのだ。──どうしても。
『嫌だったのかい? 忍』
あの日、雅巳さんは私を見て驚いたように微笑んだ。
『自分の気持ちをちゃんと言えるようになったんだね、忍。嬉しいよ』
初めて雅巳さんに逆らったあの日、雅巳さんは私を優しく抱いてくれた。
これで良かったのだと、心から安心した。許されたと思った。──違ったのだ。
「マスターのお相手なら僕がするから、安心して行っておいで」
雅巳さんの腕に絡み付いた蛍が、ひらひらと手を振った。息が苦しい。雅巳さんは、時にひどく残酷だ。
「忍様」
再度の声掛けに、私はふら、と立ち上がった。これ以上、雅巳さんに逆らえない。雅巳さんは、私の全てだ。
ふらつく私を支えた男性は、そのままステージに向かおうとした。
「……あの、先に、トイレに」
喘ぐように声を発した私に、足を止めた男性は振り返り、目を細めた。
「ステージの上で、できますよ」
「っ、」
全身が、総毛立った。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる