ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 部屋の照明が一段階落ちると、静かだったざわめきさえも消えた。

「──本日はお越しいただき、ありがとうございます。館主の斉藤でございます」

 ステージ脇のスペースで私の肩を抱く斉藤が、にこやかに挨拶をした。

「お時間になりましたので、これよりの退出はご遠慮下さいませ。ご用の際は係りの者に、何なりと」

 薄暗い室内を見渡すと、ソファーに掛けているおよそ半数は、目元をマスクで覆っていた。その誰もが、スーツにネクタイを締めている。

 雅巳さんも、今日は濃茶のスリーピースに身を包んでいた。雅巳さんの、そのきっちりとした格好が好きだった。胸元の、桜色のタイが目を引いた。

「今宵のドールは忍様です。ご提供いただいた、マスターに感謝を」

 部屋の中から、拍手が起こった。
 雅巳さんはフルートグラスを軽く上げて、それに応えた。

 斉藤がちらりと横に目をやると、上半身裸の男が2人、こちらに近付いて来た。しっかりと筋肉を纏った逞しい体は浅黒く、妖しい艶を放っている。

「それでは、うたかた限りの至福の時を──」

 斎藤が頭を下げると、さらに照明が落ちた。同時に、ステージだけが照明を受けて浮かび上がる。ゆったりとした、どこかの民族音楽のような曲が流れ出した。

 逞しい腕が両側から私の手を引き、低いステージへと誘う。この邸へ来た時、観音開きの扉を開けたあの男たちだった。

 キングサイズのベッドの前に立つと、心臓がぎゅっと掴まれた気がした。
 男たちに促され、ベッドに浅く腰を下ろす。無表情の男がその場に屈み、私の革靴を足から外した。視線を落とすと、男たちは既に裸足だった。

 先にベッドに上がった男が、私の背後から両脇の下に腕を通し、引き上げる。靴を脱がした男性が、私の両足を抱えてベッドに上がった。

 今日は私も、雅巳さんが選んでくれた灰青のスーツを着用していた。その上着のボタンを外し、する、と腕を抜かれる。無造作に放られた上着を、見えない誰かが持ち去った。

「緊張しているのか」

 頭の後ろにいる男が、私の腕を捕らえたまま耳元で囁く。観音扉を閉めた時、口端を上げた男だった。

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