ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 男の問いに答えないでいると、更に耳元に唇を当てられた。

「俺が分かるか? 久しぶりだな……玉蘭ギョクラン
「っ!」

 首だけでバッと振り向く。口元を歪めた男は、目を細めて私を見た。

「……リュウ
「思い出してくれて嬉しいよ、玉蘭」

 この男は、香港の邸にいた時、そこにいた。

 久しく呼ばれなかったその名の響きが、じっとりと熱を帯びて鼓膜に沁みた。

 とうに忘れた過去が、ゆっくりと蓋を開ける。いや、この邸に着いた時から、それは少しずつ開いていたのだ。湯を含んだ上質の絹が、首元をゆっくりと撫でるように。絵の中の男児が、いつしか媚びてゆくように。

 前の男から顔を背けるように後ろを向いた私の首から、ここに来る前雅巳さんが締めてくれた桜色のネクタイが、しゅる、と抜かれる。揃いだった桜色のタイを放られ、雅巳さんの手を放した気がした。

 シャツのボタンが、上から順に外される。劉が手首まで下ろしたシャツを、くるりと捻った。

「縛られたい?」

 黙って首を振ると、あっさりと引き抜かれる。あの頃も、劉は私が嫌がることをしなかった。そうしておいて、私が切望してゆく様を、じっくりと愉しんでいた。

 露わになった胸を、男の温かい手が這う。左の乳首に飾られた小さな金の輪に小指が掛かると、ぴり、と刺激が躰を走った。

「左だけ、大きい」

 そう、私の乳首は左側だけ、少し大きい。一番感じるそこにつけられたピアスは、私を否応なく追い詰める。

 雅巳さんに引き取られた時には既についていたそれを、彼は責めたりしなかった。それどころか雅巳さんは、執拗にそこを愛してくれた。

 男は、ピアスをくるくると弄んだ。

「っ、」

 輪に引っ掛けた小指を引いて、尖らせた舌で抉られ背中が撓った。ぴりぴりと、快感が走る。

「相変わらずだ、変わってない」

 くくっと笑った劉が、背後から手を伸ばし、右の乳首を抓った。

「っ、っ、」

 人差し指と中指で乳首を挟み、親指でぐりぐりと先端を抉る。両方の胸に与えられる快感に滲んだ目でソファーを見ると、優しそうに微笑んだ雅巳さんとマスク越しに目が合った。

「みんな、玉蘭を見てる」

 部屋は暗くて、ステージに一番近い雅巳さんの表情は見えたが、その向こうはよく見えない。

「良かったな、玉蘭」

 劉が耳に息を吹き込んで、ねっとりと舐めた。

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