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序章
薬師ミズイロ
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カルヴァンラーク王国。
豊富な資源と豊かな人材を揃え、賢王が統治する国である。
魔術の使えない市民の生活が便利になるよう魔力を核に貯め、その核を嵌め込むことで誰でも魔道具が使える発明をしたのもカルヴァンラーク王国の研究開発機関であったし、城壁を持たない近隣の小国家に核を使った魔術障壁という技術を授けたのもカルヴァンラーク王国だ。そして魔道具の普及により仕事の減る魔術師達が路頭に迷わないよう、その核に魔術を溜めるという新たな仕事を作ったのも。
彼らは決してその知識を秘匿せず、誰もが平等に扱えるようにし、しかしそれを我が物とし悪用する輩には容赦ない制裁を加える。
いつしかカルヴァンラーク王国は西大陸一の国家となっていた。
しかし今彼らは滅びの危機に瀕している。
「まぁそんなわけで、魔王退治に行ってもらいたいのだ」
「嫌ですぅ!」
カルヴァンラーク王国の王都下町で薬屋を営む青年、名をミズイロという。年は23歳。
ミズイロとは即ちこの国の言葉で「勇気ある者」。勇気のある息子に育ってほしい……、そんな親の願い虚しく非常に気弱で臆病な青年だ。
異世界から召喚されたり死んで生まれ変わったわけではなく、間違いなくこの世界で生まれたカルヴァンラーク育ちである。
柔らかな淡い水色の髪は今朝も寝癖で跳ねとんでいるし、涙目になっている抜けるようなスカイブルーの瞳は垂れ目がち。小さな鼻は何度も鼻水をすすって赤くなっていて、薄い桃色の唇は恐怖でガチガチと震えていた。
年の割りに幼く、なかなかに愛らしい顔立ちではあるものの、その寝癖と大きな丸眼鏡がやや残念感を醸し出している。
「魔王が出た、ってそんな熊が出たと同じテンションで言われたって……僕にはどうにも出来ないですぅ!」
「いやいや、占いオババに占ってもらったが何度やってもそなたの名前しか出んのだ」
王の近くに厳かに控える黒ローブの占いを生業とする老婆を、ミズイロは精一杯の威圧感を込めてキッと睨んだ。
「下町のインチキ占い師じゃないですかぁ!おばあちゃんこんな所で何やってるの!?」
「ふぁふぁふぁ、下町の占い師とは仮の姿……。真実は王家専属の占い師だったのよ!!」
ふぁーっふぁふぁふぁ、とふがふが笑い出す彼女の占いが適当な事は下町では有名である。そして業突く張りの守銭奴、逆らったらちょっとした呪いをかけられて1日軽く不幸にされる悪の占い師だ。
ミズイロなんかはいつもちょっとした呪いでどぶに落ちたり犬に噛まれたり、ほんのり不幸にさらされてきた。
だから彼女が王家専属の占い師だなんて信じない。
「また呪いが必要かえ?」
「やだーー!!この間もワンちゃんに噛まれたんだから!」
お尻を噛まれてズボンを破られ恥ずかしい目にあったのはつい先日。本当に恐ろしい老婆だ。
「だ、大体僕はただの薬師ですよ。僕より強い人一杯いるでしょ!近所の子供だって僕より強いですよぉ!」
「仕方なかろう。この水晶にはお前の名しか出てこんのだから」
「嘘ですぅ!その水晶ただのガラス玉だっておばあちゃん自分で言ってたもん!」
「やかましい!」
ミズイロの頭にスコーン、と小さな風の魔術を当てて黙らせると再び国王は重々しく口を開いた。もはや大分手遅れ感はあるけれど、威厳は大切だ。
「国境付近に魔物の大群、そして凶暴化……。北の大地の氷は溶け、南の大地に雪が降り、小さな村には疫病が流行り、各地で起こる天変地異。さらにはオウムがマオウ、マオウ、と鳴く……。これはもはや魔王が復活した証拠に他ならぬ。ーーお前は神が定めた勇者なのだ、薬師ミズイロ。王命である。どうかこの国を救う為魔王を倒してくれ」
「えっ、嫌ですぅ……。魔王城なんておどろおどろしい怖い場所でしょ!?魔王だって怖いし、魔物も怖いし、ハッ!旅の途中でお化けとか出るかも知れないし…」
「やかましいわ!ごちゃごちゃ言わず黙って旅立てーー!!!」
【王の鉄拳が炸裂!薬師ミズイロは城外へ吹っ飛ばされた!🔽】
こうして勇者ミズイロの旅は(強制的に)始まったのであるーー
「我が息子、第4王子を旅の共につけてやるからなー!頼んだぞミズイロー!」
「最初からその王子様に頼んだら良かったじゃないですかーーっ!!」
豊富な資源と豊かな人材を揃え、賢王が統治する国である。
魔術の使えない市民の生活が便利になるよう魔力を核に貯め、その核を嵌め込むことで誰でも魔道具が使える発明をしたのもカルヴァンラーク王国の研究開発機関であったし、城壁を持たない近隣の小国家に核を使った魔術障壁という技術を授けたのもカルヴァンラーク王国だ。そして魔道具の普及により仕事の減る魔術師達が路頭に迷わないよう、その核に魔術を溜めるという新たな仕事を作ったのも。
彼らは決してその知識を秘匿せず、誰もが平等に扱えるようにし、しかしそれを我が物とし悪用する輩には容赦ない制裁を加える。
いつしかカルヴァンラーク王国は西大陸一の国家となっていた。
しかし今彼らは滅びの危機に瀕している。
「まぁそんなわけで、魔王退治に行ってもらいたいのだ」
「嫌ですぅ!」
カルヴァンラーク王国の王都下町で薬屋を営む青年、名をミズイロという。年は23歳。
ミズイロとは即ちこの国の言葉で「勇気ある者」。勇気のある息子に育ってほしい……、そんな親の願い虚しく非常に気弱で臆病な青年だ。
異世界から召喚されたり死んで生まれ変わったわけではなく、間違いなくこの世界で生まれたカルヴァンラーク育ちである。
柔らかな淡い水色の髪は今朝も寝癖で跳ねとんでいるし、涙目になっている抜けるようなスカイブルーの瞳は垂れ目がち。小さな鼻は何度も鼻水をすすって赤くなっていて、薄い桃色の唇は恐怖でガチガチと震えていた。
年の割りに幼く、なかなかに愛らしい顔立ちではあるものの、その寝癖と大きな丸眼鏡がやや残念感を醸し出している。
「魔王が出た、ってそんな熊が出たと同じテンションで言われたって……僕にはどうにも出来ないですぅ!」
「いやいや、占いオババに占ってもらったが何度やってもそなたの名前しか出んのだ」
王の近くに厳かに控える黒ローブの占いを生業とする老婆を、ミズイロは精一杯の威圧感を込めてキッと睨んだ。
「下町のインチキ占い師じゃないですかぁ!おばあちゃんこんな所で何やってるの!?」
「ふぁふぁふぁ、下町の占い師とは仮の姿……。真実は王家専属の占い師だったのよ!!」
ふぁーっふぁふぁふぁ、とふがふが笑い出す彼女の占いが適当な事は下町では有名である。そして業突く張りの守銭奴、逆らったらちょっとした呪いをかけられて1日軽く不幸にされる悪の占い師だ。
ミズイロなんかはいつもちょっとした呪いでどぶに落ちたり犬に噛まれたり、ほんのり不幸にさらされてきた。
だから彼女が王家専属の占い師だなんて信じない。
「また呪いが必要かえ?」
「やだーー!!この間もワンちゃんに噛まれたんだから!」
お尻を噛まれてズボンを破られ恥ずかしい目にあったのはつい先日。本当に恐ろしい老婆だ。
「だ、大体僕はただの薬師ですよ。僕より強い人一杯いるでしょ!近所の子供だって僕より強いですよぉ!」
「仕方なかろう。この水晶にはお前の名しか出てこんのだから」
「嘘ですぅ!その水晶ただのガラス玉だっておばあちゃん自分で言ってたもん!」
「やかましい!」
ミズイロの頭にスコーン、と小さな風の魔術を当てて黙らせると再び国王は重々しく口を開いた。もはや大分手遅れ感はあるけれど、威厳は大切だ。
「国境付近に魔物の大群、そして凶暴化……。北の大地の氷は溶け、南の大地に雪が降り、小さな村には疫病が流行り、各地で起こる天変地異。さらにはオウムがマオウ、マオウ、と鳴く……。これはもはや魔王が復活した証拠に他ならぬ。ーーお前は神が定めた勇者なのだ、薬師ミズイロ。王命である。どうかこの国を救う為魔王を倒してくれ」
「えっ、嫌ですぅ……。魔王城なんておどろおどろしい怖い場所でしょ!?魔王だって怖いし、魔物も怖いし、ハッ!旅の途中でお化けとか出るかも知れないし…」
「やかましいわ!ごちゃごちゃ言わず黙って旅立てーー!!!」
【王の鉄拳が炸裂!薬師ミズイロは城外へ吹っ飛ばされた!🔽】
こうして勇者ミズイロの旅は(強制的に)始まったのであるーー
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