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序章
第4王子
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何とか魔法を駆使してスタッ、と城門前に降り立ったミズイロは考える。
ーーこのままバックレてもいいんじゃね?と。
だって突然城に召集という名の拉致をかまされて、インチキ占い師に勇者とか言われて、挙げ句拳の風圧で城の外に放り出されたのだ。これ、いいんじゃね?バックレても。
いやいや、しかし一応は王命。人を風圧で吹っ飛ばしてくる王様とは言え国の最高権力者の命令だ。逆らえば今度は首が飛んでく事になるのでは?
いやいやいや、だって先に無理難題を吹っ掛けてきたのは向こうだし、こっちはやるなんて一言も言ってないし。
ーー良いんじゃね?このままさらっ、と家に帰っても。
城門前でうんうん唸り天使と悪魔の戦いに耳を傾けているミズイロは気付かない。背後の門番が、あ、と言う顔をした後ミズイロに向かって合掌した事に。
「うん、聞かなかった事にして帰ろぅぎゃぁぁーーーーー!!!」
そして元気良く立ち上がったミズイロの頭を何者かがガッチリ掴む。
「なぁにバックレようとしてんだ、こらてめぇ」
【???が現れた!ミズイロは逃げられない!🔽】
「いたたたた!!どなたですかぁ!」
パッと手を離されべしゃあ、と地面に崩れ落ちたミズイロは相手をキッ、と睨み付けかけてーーばたりと仰向けに地面に倒れた。丁寧に胸の上で手を組んで。
「おい!死んだふりすんなこのメガネ!」
ミズイロには持病があった。そう、『美形怖い病』という恐ろしい病である。
美形に間近で話しかけられると動悸息切れ目眩に襲われ倒れてしまうという、それはそれは恐ろしい病なのだ。
そんな恐ろしい病を持つミズイロを、おいこら、と揺さぶっているのはこの国の第4王子。名をアズラルトという。
21才という年に似合わず鍛え上げられた肉体に金髪碧眼を持ち、ひとたび甘く微笑めば道行く貴婦人が頬を赤らめバタバタ倒れていく美貌の持ち主である。但し性格は少々乱暴。虐げられたいMの人にはたまらない、そんな王子だ。
しかし第4王子である故に玉座からは遠く、普段は騎士団に所属している彼はゆくゆくは王となる兄を軍事面で補佐する役目を担う立場。その為に見識を広めよ、と父王に回し蹴りの風圧で吹っ飛ばされ渋々ミズイロを追ってきたのだった。
しかしどうだろう。このミズイロと言う男。
「う~んう~ん美形コワイ……」
死んだふりかと思えば本格的に気絶しているらしいこのチビ助が世界を救う勇者だと?
認めない。俺は絶対認めない。
アズラルトはとりあえずむにゃむにゃ言っているミズイロを小脇に抱えると下町へと向かう。
目的は一つ。薬師であるミズイロの店から役に立つ薬をかっぱらってくる為である。
ついでに薬師としての道具やらなんやらをこの同一アイテムが99個、別アイテムが999個詰められる原理が謎のマジックパックに詰めて持っていかせる為だ。
冒険序盤の勇者御一行は大抵貧乏。回復アイテムを買えば装備が買えない。装備を買えば回復アイテムが買えない。そんな悲しい事態にならない為にも、アイテム生成スキルを持つ薬師とその道具は貴重なのだ。何だったら途中で売り払ってしまえ。
シンプルに金くれ、と言ったら、序盤の貧乏は冒険の醍醐味である、とウキウキして500ゴールドしかくれなかった父王を頭の中で3回抹殺した所で小脇に抱えた荷物が呻いた。
「うぅ~ん……ハッ!?ここはどこ!?僕は一体何を……!!?」
パッと手を離すとべしゃあ、と地面に落ちる荷物……もとい勇者(仮)ミズイロ。ずり落ちかけた眼鏡を直してまたキッ、と相手を睨み付け……かけて、
「あぁ……」
ふぅ、と倒れてしまった。
「振り出しに戻るな!!起きろ!こら!メガネ!!」
ガクガク揺さぶられついでに関節技を決められて物理で叩き起こされたミズイロはシュババ、と側にあった木箱の影に隠れる。
【ミズイロ HP655/700🔽】
「何するんですかぁ!HPちょっと減ったんですけど!!」
「やかましいわ。お前が気絶しやがるからだろうが!!」
「知りませんよぉ!っていうか貴方は誰ですか!?」
「そのお方こそ我が国の第4王子、アズラルト様じゃ」
いつもの街角に怪しげな黒ローブの人物。紫の布がかかった机にある水晶という名のガラス玉は今日もピカピカしている。
一瞬の静寂。そしてミズイロは叫ぶ。
「何でここにいるのおばあちゃーん!!!」
さっきまで城にいたはず。
え?何で?僕そんなに長いこと気絶してた?でも太陽の位置は変わらない。もう何なのこの人。
「ふぁふぁふぁ、ワシに不可能はないのじゃ」
「だったらおばあちゃんが魔王倒してきてよー!」
「おぉ……っ、持病の腰痛が悪化したわい……。医者は医者はどこかえ……」
「うわーん!!さっきまでピンピンしてたもんー!!バカー!!」
辺りをキョロキョロしていたアズラルトは薬屋の看板を見つけ、イヤだー!人さらいー!と騒ぐミズイロを引きずって連れていく。
呆然と成り行きを見守っていた下町の人々は良くわからないながら、とりあえずミズイロがまた何かに巻き込まれたのだろう、と皆ソッと合掌した。
【現在のパーティーメンバー
勇者(仮)ミズイロ LV2
魔剣士 アズラルト LV10 🔽】
ーーこのままバックレてもいいんじゃね?と。
だって突然城に召集という名の拉致をかまされて、インチキ占い師に勇者とか言われて、挙げ句拳の風圧で城の外に放り出されたのだ。これ、いいんじゃね?バックレても。
いやいや、しかし一応は王命。人を風圧で吹っ飛ばしてくる王様とは言え国の最高権力者の命令だ。逆らえば今度は首が飛んでく事になるのでは?
いやいやいや、だって先に無理難題を吹っ掛けてきたのは向こうだし、こっちはやるなんて一言も言ってないし。
ーー良いんじゃね?このままさらっ、と家に帰っても。
城門前でうんうん唸り天使と悪魔の戦いに耳を傾けているミズイロは気付かない。背後の門番が、あ、と言う顔をした後ミズイロに向かって合掌した事に。
「うん、聞かなかった事にして帰ろぅぎゃぁぁーーーーー!!!」
そして元気良く立ち上がったミズイロの頭を何者かがガッチリ掴む。
「なぁにバックレようとしてんだ、こらてめぇ」
【???が現れた!ミズイロは逃げられない!🔽】
「いたたたた!!どなたですかぁ!」
パッと手を離されべしゃあ、と地面に崩れ落ちたミズイロは相手をキッ、と睨み付けかけてーーばたりと仰向けに地面に倒れた。丁寧に胸の上で手を組んで。
「おい!死んだふりすんなこのメガネ!」
ミズイロには持病があった。そう、『美形怖い病』という恐ろしい病である。
美形に間近で話しかけられると動悸息切れ目眩に襲われ倒れてしまうという、それはそれは恐ろしい病なのだ。
そんな恐ろしい病を持つミズイロを、おいこら、と揺さぶっているのはこの国の第4王子。名をアズラルトという。
21才という年に似合わず鍛え上げられた肉体に金髪碧眼を持ち、ひとたび甘く微笑めば道行く貴婦人が頬を赤らめバタバタ倒れていく美貌の持ち主である。但し性格は少々乱暴。虐げられたいMの人にはたまらない、そんな王子だ。
しかし第4王子である故に玉座からは遠く、普段は騎士団に所属している彼はゆくゆくは王となる兄を軍事面で補佐する役目を担う立場。その為に見識を広めよ、と父王に回し蹴りの風圧で吹っ飛ばされ渋々ミズイロを追ってきたのだった。
しかしどうだろう。このミズイロと言う男。
「う~んう~ん美形コワイ……」
死んだふりかと思えば本格的に気絶しているらしいこのチビ助が世界を救う勇者だと?
認めない。俺は絶対認めない。
アズラルトはとりあえずむにゃむにゃ言っているミズイロを小脇に抱えると下町へと向かう。
目的は一つ。薬師であるミズイロの店から役に立つ薬をかっぱらってくる為である。
ついでに薬師としての道具やらなんやらをこの同一アイテムが99個、別アイテムが999個詰められる原理が謎のマジックパックに詰めて持っていかせる為だ。
冒険序盤の勇者御一行は大抵貧乏。回復アイテムを買えば装備が買えない。装備を買えば回復アイテムが買えない。そんな悲しい事態にならない為にも、アイテム生成スキルを持つ薬師とその道具は貴重なのだ。何だったら途中で売り払ってしまえ。
シンプルに金くれ、と言ったら、序盤の貧乏は冒険の醍醐味である、とウキウキして500ゴールドしかくれなかった父王を頭の中で3回抹殺した所で小脇に抱えた荷物が呻いた。
「うぅ~ん……ハッ!?ここはどこ!?僕は一体何を……!!?」
パッと手を離すとべしゃあ、と地面に落ちる荷物……もとい勇者(仮)ミズイロ。ずり落ちかけた眼鏡を直してまたキッ、と相手を睨み付け……かけて、
「あぁ……」
ふぅ、と倒れてしまった。
「振り出しに戻るな!!起きろ!こら!メガネ!!」
ガクガク揺さぶられついでに関節技を決められて物理で叩き起こされたミズイロはシュババ、と側にあった木箱の影に隠れる。
【ミズイロ HP655/700🔽】
「何するんですかぁ!HPちょっと減ったんですけど!!」
「やかましいわ。お前が気絶しやがるからだろうが!!」
「知りませんよぉ!っていうか貴方は誰ですか!?」
「そのお方こそ我が国の第4王子、アズラルト様じゃ」
いつもの街角に怪しげな黒ローブの人物。紫の布がかかった机にある水晶という名のガラス玉は今日もピカピカしている。
一瞬の静寂。そしてミズイロは叫ぶ。
「何でここにいるのおばあちゃーん!!!」
さっきまで城にいたはず。
え?何で?僕そんなに長いこと気絶してた?でも太陽の位置は変わらない。もう何なのこの人。
「ふぁふぁふぁ、ワシに不可能はないのじゃ」
「だったらおばあちゃんが魔王倒してきてよー!」
「おぉ……っ、持病の腰痛が悪化したわい……。医者は医者はどこかえ……」
「うわーん!!さっきまでピンピンしてたもんー!!バカー!!」
辺りをキョロキョロしていたアズラルトは薬屋の看板を見つけ、イヤだー!人さらいー!と騒ぐミズイロを引きずって連れていく。
呆然と成り行きを見守っていた下町の人々は良くわからないながら、とりあえずミズイロがまた何かに巻き込まれたのだろう、と皆ソッと合掌した。
【現在のパーティーメンバー
勇者(仮)ミズイロ LV2
魔剣士 アズラルト LV10 🔽】
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