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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
キノコと戦う
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「ひ、酷い……横暴狂暴暴れん坊王子……っ」
地面に伏せてシクシク泣き出すミズイロに、流石のアズラルトもばつが悪そうだったのだが。ふ、と見るとシクシク、ちら、シクシク、ちら、とこちらを窺っている。これはあれだ。アズラルトの罪悪感につけ込んで帰ろうとしているやつだ。何て往生際が悪いんだ。
アズラルトはミズイロの首根っこを掴んで立たせるとそのままダンジョンへと向かった。
ミズイロは逃げられないのを悟り、バカー!人さらいー!!と喚いている。
「やかましい!俺だってお前みたいな弱虫泣き虫軟弱野郎の面倒なんかみたくねぇ!」
みたくないのだけれど、聖剣(呪)が認めたから仕方がなく付き合ってやっているのだ。それがなかったとうの昔にミズイロを放り出して一人でサクッと先に進んでいる。
何だかんだ言いつつも父王の言い付けを守る辺りが素直なアズラルトである。
そんなわけでズルズルズルズル大荷物もといシクシク泣くミズイロを引きずって魔物の跋扈する場所へと辿り着いた。
岩影に隠れ様子を窺うと、試練の塔で速攻叩き伏せられたキノコ型の魔物がモゾモゾ蠢いている。試練の塔での出来事などここの魔物には知るよしもないはずなのに、何故か並々ならぬやる気を感じる。何としてもモーションを全て見させてやろう、というやる気を。
「お前、ちょっとあの魔物退治してこい」
「一人でですか!?」
小声で叫ぶ、という技を披露するミズイロに無情にもアズラルトは頷いた。
あんな雑魚一人で充分だ。そしてあんな雑魚にやられる勇者なら勇者とは呼ばない。ここを切り抜けられないのなら王都へ戻り、ミズイロは勇者ではないと進言してみよう。
本音を言えば未だに今すぐ引き返して「チェンジでー!」と叫びたい。しかし理由なく叫べないので、ひとまず実戦で使い物になるかどうか見極めたい。
「ここからフォローしてやる」
行ってこい!と岩影から背中を押すと、ミズイロはたたらを踏んで魔物の前に躍り出た。
「……っ!キャーーーーっ!!?」
貞操の危機に瀕した乙女のような声をあげるミズイロに気付いたキノコ達が嬉々として集まってくる。胞子を撒き、飛びはね、かさ部分で浮く。モーションを全て見ろ、とばかりに全てのキノコが暴れ出す。
ミズイロはアズラルトを振り返ったけれど、彼はグッとサムズアップしたのみである。
「お、王子様の……っ!バカーーーーー!!!」
洞窟内にミズイロの叫びが木霊した。
しかしいくら最弱の魔物であろうとも、魔物は魔物。攻撃されたらダメージも食らうし、毒を食らえば死にかねない。あの横暴王子が毒消ししてくれるだろうか。ミズイロは自問した。
答えはーー否。自分で何とかしろ、とそこら辺にポイっ、と投げ捨てられるのが容易に想像できる。
流石にアズラルトとて毒を食らった人間を放置して去る程冷血漢ではないが、ミズイロの中では魔王に匹敵する悪漢なのである。
死にたくない。可愛いお嫁さんをもらって、可愛い子供や孫に囲まれて大往生するまで死んでやるもんか。
唯一の武器は聖剣(呪)のみ。一瞬悩むけれど……しかし背に腹は代えられぬ。ミズイロは呪われてなお銀に輝く刀身を掲げたーー瞬間。
(あぁぁぁぁ!!またーーー!!)
ぐんっ、と引かれる体は真っ直ぐに魔物達へ突進して行く。
右のキノコを斬り伏せ、その流れで背後のキノコも真一文字に両断し、ミズイロには出来ない素早い跳躍で後方宙返りを決め、追って飛び跳ねたキノコは串刺しに。残るキノコがモワモワ振り撒く胞子を風の魔法で吹き飛ばし、そのままキノコ達へは火炎を飛ばす。辺りは煙に覆われ、キノコの焼ける香ばしい匂いが充満した。
煙が晴れる頃にはこんがり焼けたキノコ達と……剣をしまった途端ぼふん、と縮んだミズイロが残る。
「うぅ……また子供になったぁ……」
シクシク泣くミズイロは他所に、アズラルトは懐から取り出した懐中時計で時間を計った。呪いが発動するタイミングは恐らくわかった。あとはどの程度で元に戻るのか、である。チクタクと時を刻む時計とミズイロを見比べながら腹が鳴る。キノコ食いたい。ああ腹がすいた。
トボトボ歩いてくるミズイロは未だに戻る気配はなく、キノコをバターで炒めて塩コショウで食べると旨い、という雑念を振り払って時計とのにらめっこは続く。
「王子様……倒しましたけど」
ちょこん、と側にやってくる小さなミズイロが小首を傾げて見上げてくる。アズラルトは思った。
やめろ、その小動物みたいな円らな瞳で見上げるな。
彼は大の小動物好きである。小動物的な魔物に容赦はしないがーー何せ小動物的な魔物は大概外見を武器に獲物を食らう厄介な部類だからーー、それでも小動物は大好きだ。何だったら普段の仏頂面が満面の笑みに変わる程好きなのだ。誰にも言わないけれど。
そんなわけでその円らな瞳は地味にアズラルトの良心を揺さぶる。こんな小動物みたいなミズイロを苛めるなんてそんなのーー、ぼふん、と元に戻ったのでアズラルトは対小動物モードから対役立たず勇者モードに切り替わった。変わり身は早い。
「……3分程か……。だが塔ではもう少し短かった気もするな。情報が足りん」
「え……」
「奥へ向かうぞ」
「イヤです!」
ミズイロ渾身の拒否は当然ながら無視された。
地面に伏せてシクシク泣き出すミズイロに、流石のアズラルトもばつが悪そうだったのだが。ふ、と見るとシクシク、ちら、シクシク、ちら、とこちらを窺っている。これはあれだ。アズラルトの罪悪感につけ込んで帰ろうとしているやつだ。何て往生際が悪いんだ。
アズラルトはミズイロの首根っこを掴んで立たせるとそのままダンジョンへと向かった。
ミズイロは逃げられないのを悟り、バカー!人さらいー!!と喚いている。
「やかましい!俺だってお前みたいな弱虫泣き虫軟弱野郎の面倒なんかみたくねぇ!」
みたくないのだけれど、聖剣(呪)が認めたから仕方がなく付き合ってやっているのだ。それがなかったとうの昔にミズイロを放り出して一人でサクッと先に進んでいる。
何だかんだ言いつつも父王の言い付けを守る辺りが素直なアズラルトである。
そんなわけでズルズルズルズル大荷物もといシクシク泣くミズイロを引きずって魔物の跋扈する場所へと辿り着いた。
岩影に隠れ様子を窺うと、試練の塔で速攻叩き伏せられたキノコ型の魔物がモゾモゾ蠢いている。試練の塔での出来事などここの魔物には知るよしもないはずなのに、何故か並々ならぬやる気を感じる。何としてもモーションを全て見させてやろう、というやる気を。
「お前、ちょっとあの魔物退治してこい」
「一人でですか!?」
小声で叫ぶ、という技を披露するミズイロに無情にもアズラルトは頷いた。
あんな雑魚一人で充分だ。そしてあんな雑魚にやられる勇者なら勇者とは呼ばない。ここを切り抜けられないのなら王都へ戻り、ミズイロは勇者ではないと進言してみよう。
本音を言えば未だに今すぐ引き返して「チェンジでー!」と叫びたい。しかし理由なく叫べないので、ひとまず実戦で使い物になるかどうか見極めたい。
「ここからフォローしてやる」
行ってこい!と岩影から背中を押すと、ミズイロはたたらを踏んで魔物の前に躍り出た。
「……っ!キャーーーーっ!!?」
貞操の危機に瀕した乙女のような声をあげるミズイロに気付いたキノコ達が嬉々として集まってくる。胞子を撒き、飛びはね、かさ部分で浮く。モーションを全て見ろ、とばかりに全てのキノコが暴れ出す。
ミズイロはアズラルトを振り返ったけれど、彼はグッとサムズアップしたのみである。
「お、王子様の……っ!バカーーーーー!!!」
洞窟内にミズイロの叫びが木霊した。
しかしいくら最弱の魔物であろうとも、魔物は魔物。攻撃されたらダメージも食らうし、毒を食らえば死にかねない。あの横暴王子が毒消ししてくれるだろうか。ミズイロは自問した。
答えはーー否。自分で何とかしろ、とそこら辺にポイっ、と投げ捨てられるのが容易に想像できる。
流石にアズラルトとて毒を食らった人間を放置して去る程冷血漢ではないが、ミズイロの中では魔王に匹敵する悪漢なのである。
死にたくない。可愛いお嫁さんをもらって、可愛い子供や孫に囲まれて大往生するまで死んでやるもんか。
唯一の武器は聖剣(呪)のみ。一瞬悩むけれど……しかし背に腹は代えられぬ。ミズイロは呪われてなお銀に輝く刀身を掲げたーー瞬間。
(あぁぁぁぁ!!またーーー!!)
ぐんっ、と引かれる体は真っ直ぐに魔物達へ突進して行く。
右のキノコを斬り伏せ、その流れで背後のキノコも真一文字に両断し、ミズイロには出来ない素早い跳躍で後方宙返りを決め、追って飛び跳ねたキノコは串刺しに。残るキノコがモワモワ振り撒く胞子を風の魔法で吹き飛ばし、そのままキノコ達へは火炎を飛ばす。辺りは煙に覆われ、キノコの焼ける香ばしい匂いが充満した。
煙が晴れる頃にはこんがり焼けたキノコ達と……剣をしまった途端ぼふん、と縮んだミズイロが残る。
「うぅ……また子供になったぁ……」
シクシク泣くミズイロは他所に、アズラルトは懐から取り出した懐中時計で時間を計った。呪いが発動するタイミングは恐らくわかった。あとはどの程度で元に戻るのか、である。チクタクと時を刻む時計とミズイロを見比べながら腹が鳴る。キノコ食いたい。ああ腹がすいた。
トボトボ歩いてくるミズイロは未だに戻る気配はなく、キノコをバターで炒めて塩コショウで食べると旨い、という雑念を振り払って時計とのにらめっこは続く。
「王子様……倒しましたけど」
ちょこん、と側にやってくる小さなミズイロが小首を傾げて見上げてくる。アズラルトは思った。
やめろ、その小動物みたいな円らな瞳で見上げるな。
彼は大の小動物好きである。小動物的な魔物に容赦はしないがーー何せ小動物的な魔物は大概外見を武器に獲物を食らう厄介な部類だからーー、それでも小動物は大好きだ。何だったら普段の仏頂面が満面の笑みに変わる程好きなのだ。誰にも言わないけれど。
そんなわけでその円らな瞳は地味にアズラルトの良心を揺さぶる。こんな小動物みたいなミズイロを苛めるなんてそんなのーー、ぼふん、と元に戻ったのでアズラルトは対小動物モードから対役立たず勇者モードに切り替わった。変わり身は早い。
「……3分程か……。だが塔ではもう少し短かった気もするな。情報が足りん」
「え……」
「奥へ向かうぞ」
「イヤです!」
ミズイロ渾身の拒否は当然ながら無視された。
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