8 / 30
第一章 勇者の聖剣が呪われてた
男か女か
しおりを挟む
飛行魔術道具で「ふぁっふぁっふぁゴホッ」と高笑いして噎せながらオババが去ったあと、空を見上げて二人は思った。空が青いなぁ。ーー現実逃避である。
しかしまぁ二人揃って現実逃避している暇もないので、アズラルトは仕方なくミズイロの頭にヘルメットを乱暴に被せ大型魔術二輪に跨がった。
行けと言うなら行ってやろうじゃないか。この泣き虫弱虫勇者が死んだって俺の知った事か。こいつが死んだって、こんな弱いやつを選んだ父王と聖剣のせいで俺のせいじゃない。
最早ヤケクソだ。
それにはまずミズイロ(抜刀時)の戦闘力の把握とデメリット発動条件と発動時間の長さの把握が必要だろう。先程のようにほんの少しの時間で戻るのなら問題はないだろうが、万が一戦闘中にデメリットが発動したら非常に困る。中身が成人とは言え、流石に幼子の姿のミズイロを危険な状態で放置して一人無関係を装う事は出来ない。アズラルトだっていくらなんでもそこまで非人道的にはなれない。
そうなれば足手まといを抱えて一人で戦う羽目になってしまう。それは困る。とてつもなく困る。アズラルトとて万能ではないから、剣に付加する魔術の属性変換時は無防備になるのだ。時間にしてほんの数秒とは言え戦闘時にはその数秒すら命取り。例えミズイロであろうともいてもらわなければ困るのである。やっぱりチェンジしてほしい。もしくはもう一人頼れる仲間が欲しい。アズラルトは切実に思った。
しかし今すぐ仲間がひょっこり出来るわけもないのもわかっている。
ならば魔物が現れるという目的の町に行く前に、そこら辺の弱い魔物とエンカウントしてミズイロのレベルを上げつつ向かうのが懸命か。
そう思ってまず最初に立ち寄ったのは一番近いダンジョンだ。
王家管轄の禁域にある洞窟とはまた違う小さな洞窟は、屑クリスタルやキノコ類の採取場になっているのだけれどそこを住処にしている魔物も勿論一定数はいる。何故だか討伐しても討伐してもまた増えているから戦えない市民は護衛に傭兵を雇うか、ミズイロのように魔物避けの香を焚き速やかに採取、速やかに去る、という方法で訪れるしかないのだが駆け出し冒険者にとっては腕試しの場となっているのだ。
「いつまでもグズグズ泣くなメガネ!」
「王子様のバカぁ……!」
「お前さっきからバカバカ言うけど、これが他の国だったらとっくに不敬罪で牢屋行きだからな!」
この国の王族は何故かみなフレンドリーで、国王や王太子ですら大衆食堂で庶民と世間話やバカ話、果てには恋バナに花を咲かせていたりするので、バカと言われたくらいで投獄はあり得ない。しかし為政者としても有能で、厳しくすべき事やその責任から逃れる事もない。だからこそ信頼され親しまれているのだ。それが国王の狙いなのか天然なのかは未だに良くわからないのだけれども。
「僕だってそのくらいわかってますぅ!」
ぷぅ、と尖った唇。そのぷるるんとした艶々しい薄い桃色の唇は、今日もお肌が荒れてるわ!唇もガサガサだわ!と騒がしい姉に見せたら発狂物の艶々しさである。
本当に男か?確かに声は低いけれど、男装の麗人が歌って踊る舞台のごとき中性的な低さだ。
肩幅だって女性的ではない。だけど男性的かと言われたらやっぱりそれも違う。これもまた中性的だ。
背だってそんなに高くはない。こういうのは個人差があるから仕方ないけれど。
今アズラルトが自分の手に収めたミズイロの手は、やはり女性的とは言えない。だけどゴツゴツした感じもなく、すらり、と形の良い長い指とすべすべと手触りのいい肌。節くれだった感じもなく、マメやタコの痕もない。
アズラルトの指の間にミズイロの指を入れ絡ませた状態でぎゅ、っと握るとそのすっぽり収まる手の平のなんと小さい事か。
「……あの、王子様……?」
困惑気味に見上げるパッチリとした目。小ぶりの鼻。
髭が生えるのかと疑わしいつるつるの肌。
……本当に男か?
アズラルトは思わずミズイロの胸にぺたりと手の平をくっつけていた。ついでに胸を揉んだ。
ミズイロは間違いなく生まれた時から男である。男女両方の象徴がついていたり、第二の性があったり、男しかいない世界の住人ではなく、生まれた時から立派な男である。同性だからまだすまんすまん、で笑って許されるこのセクハラ行為。相手が本当に女性だったらこの王子はどうするつもりなのか。
ミズイロはもみもみ揉まれる己の胸を見下ろしながら漠然と考え……アズラルトの足を思いっきり踏んづけた。
「いってぇ!!」
「男の胸揉んで何が楽しいんですかー!!」
「俺を変態みたいに言うな!!楽しくねぇわ!!!」
「なら揉まないでください!手も離してください!バカバカ!!変態王子!!!」
手?と見れば未だに恋人繋ぎのままアズラルトの手の平に収まっているミズイロの手。思わずぶん投げる勢いで手を離したものだから、ミズイロは文字通り吹っ飛ばされズシャア……っ!と顔面から転けた。
【ミズイロ HP649/700🔽】
何一つ戦ってもいないのに地味にHPは減って行く。
しかしまぁ二人揃って現実逃避している暇もないので、アズラルトは仕方なくミズイロの頭にヘルメットを乱暴に被せ大型魔術二輪に跨がった。
行けと言うなら行ってやろうじゃないか。この泣き虫弱虫勇者が死んだって俺の知った事か。こいつが死んだって、こんな弱いやつを選んだ父王と聖剣のせいで俺のせいじゃない。
最早ヤケクソだ。
それにはまずミズイロ(抜刀時)の戦闘力の把握とデメリット発動条件と発動時間の長さの把握が必要だろう。先程のようにほんの少しの時間で戻るのなら問題はないだろうが、万が一戦闘中にデメリットが発動したら非常に困る。中身が成人とは言え、流石に幼子の姿のミズイロを危険な状態で放置して一人無関係を装う事は出来ない。アズラルトだっていくらなんでもそこまで非人道的にはなれない。
そうなれば足手まといを抱えて一人で戦う羽目になってしまう。それは困る。とてつもなく困る。アズラルトとて万能ではないから、剣に付加する魔術の属性変換時は無防備になるのだ。時間にしてほんの数秒とは言え戦闘時にはその数秒すら命取り。例えミズイロであろうともいてもらわなければ困るのである。やっぱりチェンジしてほしい。もしくはもう一人頼れる仲間が欲しい。アズラルトは切実に思った。
しかし今すぐ仲間がひょっこり出来るわけもないのもわかっている。
ならば魔物が現れるという目的の町に行く前に、そこら辺の弱い魔物とエンカウントしてミズイロのレベルを上げつつ向かうのが懸命か。
そう思ってまず最初に立ち寄ったのは一番近いダンジョンだ。
王家管轄の禁域にある洞窟とはまた違う小さな洞窟は、屑クリスタルやキノコ類の採取場になっているのだけれどそこを住処にしている魔物も勿論一定数はいる。何故だか討伐しても討伐してもまた増えているから戦えない市民は護衛に傭兵を雇うか、ミズイロのように魔物避けの香を焚き速やかに採取、速やかに去る、という方法で訪れるしかないのだが駆け出し冒険者にとっては腕試しの場となっているのだ。
「いつまでもグズグズ泣くなメガネ!」
「王子様のバカぁ……!」
「お前さっきからバカバカ言うけど、これが他の国だったらとっくに不敬罪で牢屋行きだからな!」
この国の王族は何故かみなフレンドリーで、国王や王太子ですら大衆食堂で庶民と世間話やバカ話、果てには恋バナに花を咲かせていたりするので、バカと言われたくらいで投獄はあり得ない。しかし為政者としても有能で、厳しくすべき事やその責任から逃れる事もない。だからこそ信頼され親しまれているのだ。それが国王の狙いなのか天然なのかは未だに良くわからないのだけれども。
「僕だってそのくらいわかってますぅ!」
ぷぅ、と尖った唇。そのぷるるんとした艶々しい薄い桃色の唇は、今日もお肌が荒れてるわ!唇もガサガサだわ!と騒がしい姉に見せたら発狂物の艶々しさである。
本当に男か?確かに声は低いけれど、男装の麗人が歌って踊る舞台のごとき中性的な低さだ。
肩幅だって女性的ではない。だけど男性的かと言われたらやっぱりそれも違う。これもまた中性的だ。
背だってそんなに高くはない。こういうのは個人差があるから仕方ないけれど。
今アズラルトが自分の手に収めたミズイロの手は、やはり女性的とは言えない。だけどゴツゴツした感じもなく、すらり、と形の良い長い指とすべすべと手触りのいい肌。節くれだった感じもなく、マメやタコの痕もない。
アズラルトの指の間にミズイロの指を入れ絡ませた状態でぎゅ、っと握るとそのすっぽり収まる手の平のなんと小さい事か。
「……あの、王子様……?」
困惑気味に見上げるパッチリとした目。小ぶりの鼻。
髭が生えるのかと疑わしいつるつるの肌。
……本当に男か?
アズラルトは思わずミズイロの胸にぺたりと手の平をくっつけていた。ついでに胸を揉んだ。
ミズイロは間違いなく生まれた時から男である。男女両方の象徴がついていたり、第二の性があったり、男しかいない世界の住人ではなく、生まれた時から立派な男である。同性だからまだすまんすまん、で笑って許されるこのセクハラ行為。相手が本当に女性だったらこの王子はどうするつもりなのか。
ミズイロはもみもみ揉まれる己の胸を見下ろしながら漠然と考え……アズラルトの足を思いっきり踏んづけた。
「いってぇ!!」
「男の胸揉んで何が楽しいんですかー!!」
「俺を変態みたいに言うな!!楽しくねぇわ!!!」
「なら揉まないでください!手も離してください!バカバカ!!変態王子!!!」
手?と見れば未だに恋人繋ぎのままアズラルトの手の平に収まっているミズイロの手。思わずぶん投げる勢いで手を離したものだから、ミズイロは文字通り吹っ飛ばされズシャア……っ!と顔面から転けた。
【ミズイロ HP649/700🔽】
何一つ戦ってもいないのに地味にHPは減って行く。
40
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
神父様に捧げるセレナーデ
石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」
「足を開くのですか?」
「股開かないと始められないだろうが」
「そ、そうですね、その通りです」
「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」
「…………」
■俺様最強旅人×健気美人♂神父■
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる