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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
魔物退治
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この魔物はこの洞窟に住むには体が大きく窮屈そうだ。恐らく元々はここまで肥えてはいなかったのだろう。それがここ最近“人間”という小さく弱い獲物を見つけた。人間の、それも女子供ばかり狙うのは力が弱く抵抗されても簡単に捩じ伏せられる事を知ったからだ。
ブン、とまた頭上を通り過ぎる出刃包丁を見送ってミズイロは地面を蹴る。普段の彼ならばありえない程身軽に岩肌を蹴り三角飛びの要領で魔物の頭上を捉えると聖剣を振り下ろした。
しかし流石にこうも大きく成長した魔物だけあって学習能力も高く、振り下ろした先にその巨躯がない。でっぷりした腹を揺らしながらする、と身を躱し再びミズイロに向けて錆び付いた刃物を振るう。もはやあの錆具合は刃物というより鈍器だ。ただもう何度か刃をたたけば使い物にならない状態には出来そうで、ミズイロ……というより聖剣の意志なのだろうか。聖剣は狙いを出刃包丁に変えた。
(王子様、まだですか……!?)
聖剣の所為で走り、飛び跳ね、地面を転がり……少しでも口を開けば舌を噛みかねない状況にミズイロはただ黙って歯を食いしばって耐えるしかない。
何度も間近に迫る、空洞に見える真っ黒な目が恐ろしく今にも失神しそうだ。
黒目がなく真っ白な瞳より、小動物でもないのに白目も瞳孔もない真っ黒な瞳の方が恐怖を感じるミズイロである。
ブツブツ詠唱しているアズラルトの手には徐々に光が集まって来ており、あと少しだろう……と信じて戦うしかない。
聖剣の激しい動きで何度もずり落ちそうになる丸眼鏡を直しながら次の一撃に備え身を低くしたーーその瞬間。
低くした体制をさらに上から押さえられてベシャ、と地面に崩れ落ちるミズイロの視界にアズラルトの革のブーツが映る。最後の詠唱部分なのか力強い言葉の後
「食らえ!!」
カッ、と眩いほどの光が洞窟を照らした。それは洞窟から光が漏れ、一瞬林を昼のように明るく照らす程の光だったという。
『ギャアァァァァァァァァァーーーーー』
耳をつんざく魔物の悲鳴。光の中出刃包丁を振り回しているのかガン、ゴン、と岩に固い物がぶつかる音が聞こえる。
アズラルトがクリスタルの剣を抜いたのが見えた。徐々に消えていく光の中、アズラルトの剣だけがその光を増していく。
光が消え、聖剣が動くより早くーーアズラルトが光魔法を付加した魔法剣は魔物の首を刈り取った。
あの後、服を剥ぎ取られ何かしらの香辛料っぽい物がふりかけられた少女を保護、さらに洞窟の奥で“残飯”を見つけ、身元が分かりそうな装飾品を集め、すでに腐乱したそれを持ち帰るわけにはいかないので火葬して。そして彼らは町へと戻った。
少女は無事家族の元へ戻り、彼らが持ち帰った装飾品も涙に濡れる家族の元へと還っていった。
そして今ミズイロ達は……。
「んんーーー、身に染みるぅ~」
「おっさんか」
あまりの腐臭に宿の主人が本日営業終了の札を下げた風呂屋の扉を叩き、彼らの為に風呂を用意させたのだった。
もちろん、夜中に近くなった非常識な時間に用意された風呂も無料である。貧乏勇者ご一行に断る理由はない。
ただし時間も時間なので二人まとめて入ってくれ、と言われた時には心底嫌そうな顔をしてしまったのだけど。主にミズイロが。
アズラルトは騎士見習い。訓練後にこうして同期達と大浴場で裸の付き合いをする事には慣れている。
対するミズイロは両親と3人暮らし。同年代と一緒に風呂に入る機会は無に等しい。
最初は初夜に恥じらう生娘の如くモジモジソワソワ落ち着かなかったけれど、入ってしまえば開き直ったのか暖かな湯をアズラルト以上に堪能している。
しかしふとアズラルトはミズイロの裸体を見やった。間違いなく男だ。湯にタオルを浸けるな、という注意喚起の貼り紙を忠実に守り頭の上に畳んで乗せたタオル。そのタオルで隠していた箇所は今丸見えである。
小さい(当社比)ながらきちんと男の象徴もついている。
だが湯で暖まりほんのり紅色になった胸の粒。滑らかな白い肌。僅かに上気した頬と湿気で潤む瞳。スラリとした足に華奢な肩。
やはり下に男の象徴が見えなければ中性的な容姿である。
そして実はミズイロもこっそりアズラルトの裸体を観察していた。
しっかり割れた腹筋、がっちりした肩幅。健康的に焼けた肌は、なまっちろいミズイロとは正反対。腕も足もしっかり筋肉がついていながら、決してムキムキしているわけではなくどこまでも美を追求した彫刻めいた均整の取れた体つきである。
あと顔を洗うふりをして指の隙間から覗いた男の象徴はどっしりしていて、しかし使い込んだ色ではない。
ミズイロは子供の頃その中性的な出で立ちから変質者に狙われた事が数えきれない程あり、裸でロングコートの男に恥部を晒された事が何度もある。
最後にはそういう生き物だと認識し、何故自分と変態の人のあそこの色はこんなに違うのかと父親に尋ねた程である。ちなみに父親は色の違いの理由をブルブル震えながら教えてくれた後、なんか家宝の短刀を持って出て行った。その後変質者は出ていない。
なので今でもミズイロはその時に父親が言った「あそこの色が黒いやつは悪い大人の証拠だから近寄るな」という言葉を信じ、アズラルトは黒くないから悪い人じゃない、と安心したのだった。
ブン、とまた頭上を通り過ぎる出刃包丁を見送ってミズイロは地面を蹴る。普段の彼ならばありえない程身軽に岩肌を蹴り三角飛びの要領で魔物の頭上を捉えると聖剣を振り下ろした。
しかし流石にこうも大きく成長した魔物だけあって学習能力も高く、振り下ろした先にその巨躯がない。でっぷりした腹を揺らしながらする、と身を躱し再びミズイロに向けて錆び付いた刃物を振るう。もはやあの錆具合は刃物というより鈍器だ。ただもう何度か刃をたたけば使い物にならない状態には出来そうで、ミズイロ……というより聖剣の意志なのだろうか。聖剣は狙いを出刃包丁に変えた。
(王子様、まだですか……!?)
聖剣の所為で走り、飛び跳ね、地面を転がり……少しでも口を開けば舌を噛みかねない状況にミズイロはただ黙って歯を食いしばって耐えるしかない。
何度も間近に迫る、空洞に見える真っ黒な目が恐ろしく今にも失神しそうだ。
黒目がなく真っ白な瞳より、小動物でもないのに白目も瞳孔もない真っ黒な瞳の方が恐怖を感じるミズイロである。
ブツブツ詠唱しているアズラルトの手には徐々に光が集まって来ており、あと少しだろう……と信じて戦うしかない。
聖剣の激しい動きで何度もずり落ちそうになる丸眼鏡を直しながら次の一撃に備え身を低くしたーーその瞬間。
低くした体制をさらに上から押さえられてベシャ、と地面に崩れ落ちるミズイロの視界にアズラルトの革のブーツが映る。最後の詠唱部分なのか力強い言葉の後
「食らえ!!」
カッ、と眩いほどの光が洞窟を照らした。それは洞窟から光が漏れ、一瞬林を昼のように明るく照らす程の光だったという。
『ギャアァァァァァァァァァーーーーー』
耳をつんざく魔物の悲鳴。光の中出刃包丁を振り回しているのかガン、ゴン、と岩に固い物がぶつかる音が聞こえる。
アズラルトがクリスタルの剣を抜いたのが見えた。徐々に消えていく光の中、アズラルトの剣だけがその光を増していく。
光が消え、聖剣が動くより早くーーアズラルトが光魔法を付加した魔法剣は魔物の首を刈り取った。
あの後、服を剥ぎ取られ何かしらの香辛料っぽい物がふりかけられた少女を保護、さらに洞窟の奥で“残飯”を見つけ、身元が分かりそうな装飾品を集め、すでに腐乱したそれを持ち帰るわけにはいかないので火葬して。そして彼らは町へと戻った。
少女は無事家族の元へ戻り、彼らが持ち帰った装飾品も涙に濡れる家族の元へと還っていった。
そして今ミズイロ達は……。
「んんーーー、身に染みるぅ~」
「おっさんか」
あまりの腐臭に宿の主人が本日営業終了の札を下げた風呂屋の扉を叩き、彼らの為に風呂を用意させたのだった。
もちろん、夜中に近くなった非常識な時間に用意された風呂も無料である。貧乏勇者ご一行に断る理由はない。
ただし時間も時間なので二人まとめて入ってくれ、と言われた時には心底嫌そうな顔をしてしまったのだけど。主にミズイロが。
アズラルトは騎士見習い。訓練後にこうして同期達と大浴場で裸の付き合いをする事には慣れている。
対するミズイロは両親と3人暮らし。同年代と一緒に風呂に入る機会は無に等しい。
最初は初夜に恥じらう生娘の如くモジモジソワソワ落ち着かなかったけれど、入ってしまえば開き直ったのか暖かな湯をアズラルト以上に堪能している。
しかしふとアズラルトはミズイロの裸体を見やった。間違いなく男だ。湯にタオルを浸けるな、という注意喚起の貼り紙を忠実に守り頭の上に畳んで乗せたタオル。そのタオルで隠していた箇所は今丸見えである。
小さい(当社比)ながらきちんと男の象徴もついている。
だが湯で暖まりほんのり紅色になった胸の粒。滑らかな白い肌。僅かに上気した頬と湿気で潤む瞳。スラリとした足に華奢な肩。
やはり下に男の象徴が見えなければ中性的な容姿である。
そして実はミズイロもこっそりアズラルトの裸体を観察していた。
しっかり割れた腹筋、がっちりした肩幅。健康的に焼けた肌は、なまっちろいミズイロとは正反対。腕も足もしっかり筋肉がついていながら、決してムキムキしているわけではなくどこまでも美を追求した彫刻めいた均整の取れた体つきである。
あと顔を洗うふりをして指の隙間から覗いた男の象徴はどっしりしていて、しかし使い込んだ色ではない。
ミズイロは子供の頃その中性的な出で立ちから変質者に狙われた事が数えきれない程あり、裸でロングコートの男に恥部を晒された事が何度もある。
最後にはそういう生き物だと認識し、何故自分と変態の人のあそこの色はこんなに違うのかと父親に尋ねた程である。ちなみに父親は色の違いの理由をブルブル震えながら教えてくれた後、なんか家宝の短刀を持って出て行った。その後変質者は出ていない。
なので今でもミズイロはその時に父親が言った「あそこの色が黒いやつは悪い大人の証拠だから近寄るな」という言葉を信じ、アズラルトは黒くないから悪い人じゃない、と安心したのだった。
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