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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
初めてのダンジョン遺跡
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町で魔王の情報を集めたらいいのだろうか。
そう思って振り返った目の前に、信じられないというかちょっと予測していた光景が広がる。
町角にいかにも怪しげな黒ローブの人物。紫の布がかかった机にある水晶という名のガラス玉は今日もピカピカしている。
一瞬の間の後ミズイロは叫んだ。
「何やってるのおばあちゃーーーん!!?」
「次の目的地がわからず悩んでおるのだろう?」
「何で知ってるのおばあちゃーーーん!!?」
アズラルトは思う。やっぱこいつがラスボスじゃね?と。
「たわけが!!」
びゅん、と飛んできた突っ込み風魔法をさっと避け油断した後ろ頭にスコーン、と当たった。この野郎、意地でも当てに来やがった。腹たつ。
「それで?アズラルト王子……ミズイロのお尻のホクロは見たのかえ?風呂に一緒に入ったのじゃろ?ん?」
うりうり、と肘で小突いてくるオババに無言で剣を抜いて斬りかかったのだが、無駄に元気で素早い婆は高笑いしながら全て避けてしまってますます腹立たしい。絶対こいつだって。こいつがラスボスだって。
アズラルトの中の魔王=占いオババの図式は確立しつつある。
「そんな興味のない物誰が見るか。それより、次の目的地を言いに来たんじゃないのか?」
ひとまず目的地を聞き出してとっとと去ろう。
「おお、そうじゃったな。次の目的地はここから北の遺跡都市マーケリアス。その遺跡にて魔王城の地図を手に入れるのじゃ」
「魔王城の地図?」
そんな物が何故序盤の遺跡に。
二人は揃って首を傾げる。
「地図はあっても行き方がわからねば意味はないがのう」
「おばあちゃん、どういう事?」
「それは見てのお楽しみじゃ」
無理にでも吐かせてやる、というアズラルトの殺気を感じたかオババはサッと飛行魔術道具に跨ると「ファーファっファ……ゴフォ……ッ」と高笑いしつつ噎せながら去っていった。
「絶対あいつだって。あいつが魔王だって」
「どちらかと言えば、魔王の前に出てくる魔導士っぽくないですか」
確かにそれも一理ある。
二人は何だか勝手に納得しながら、とりあえず言われた通りに遺跡都市マーケリアスに向けて出発したのだった。
遺跡都市マーケリアス。
数々の古代遺跡や古代文明の痕跡が出土し、考古学者たちが集まり、その学者相手に商売をする人々が集まり、学術的価値がなく売りに出される文明の欠片を求めに来た旅人が集まり、その旅人に宿を提供する宿屋が集まり……そうして都市になった場所である。
もちろん遺跡そのものが損なわれることがないように厳重管理され普段は学者以外入れない。
その遺跡に、今ミズイロ達は踏み込んでいた。
遺跡内部に魔物が巣を作ってしまい学者達が入れないでいるという。冒険者を雇うつもりでいたのだが、内部は貴重な文化財も多くあり、壊されたり盗まれたりしたら事だと渋っていた所へやって来た王族に学者達は歓喜した。
見ず知らずの冒険者でない。しかも王族である。やましい事などしないだろうし、絶対あり得ないが何か盗んだ等あれば請求先も知れている。
そんなわけで二人は今遺跡内部を進んでいる。
石で組み立てられた回廊はとても今より魔道具も充実していなかったであろう時代に建てられた物とは思えないほど均一に均されており、そんな場合ではないがミズイロはウキウキと松明の炎をあっちに向け、こっちに向け忙しい。
ミズイロは遺跡が大好きだ。遺跡専門の考古学者のナルソン・ヴィクサムの著書は出るたび買っているくらい大好きだ。しかしその臆病な性格の所為で一度も実物の遺跡を見たことがなかった。人生初遺跡である。これがウキウキせずにいられようか。
「王子様、王子様!見てください!古代ヤーマの壁画ですよ!ここはヤーマ人の遺跡なんですね!」
目をキラキラさせて言われるが、アズラルトは古代文明にはあまり興味がない。もちろん先人からの教えを生かす事には賛成であるし国の成り立ちなどは子供の頃散々教わった。だからもういい、という感じだ。遺跡を観光で眺めて、おお~、と感嘆の声はあげるがそれだけである。石の組み方がどうとか、城壁の作り方がどうとかにはあまり興味がない。
「ソーナンダー」
必然的に返答する声が棒読みになる。しかしそもそもアズラルトの返答なんてどうでもいいのか、ミズイロは
「ああ!これは!ナルソン博士の著書にあったかの有名な死者の行進の壁画……!!!」
と悲鳴のような声をあげてその壁画を感動の面持ちで見つめている。
興味がないながら、アズラルトも壁画を見上げた。半人半獣の死の神アドロスが布でぐるぐる巻きにされた死者をランプで誘導しながら死者の都市へ向かう様子を描いている、と言われているそうだ。隣でミズイロがそう語っている。
「お前、お化け怖~い!とか言うくせにこれはいいのか?」
曲がりなりにも死者が列をなして歩いていく絵なのに。
「壁画はお化けじゃありませんよ!!」
普段ならこんな暗いところ終始死にそうな顔で歩いていると言うのに、実にウキウキと生気溢れているものだからついいたずら心が芽生えた。
「いいや、壁画のふりした幽霊かもしれねぇ。この遺跡は王の墓場なんだろ?暗殺された王だっていただろうし、ほら、今にもその恨みで動き出しそうじゃないか?」
「何て罰当たりな!王子様には遺跡からのメッセージが……」
ふとミズイロは背後を振り返った。何やら視線を感じたからである。しかし背後には死者の行進と言われる壁画しかなく、生き物の気配はない。おかしいな?気のせいかな?不安に思いつつも視線をアズラルトに戻そうとした時、背中にぶわりと冷や汗が浮かんだ。
それは何十回とナルソン・ヴィクサムの著書を読み、何十回と壁画を描いた挿絵を見たからわかった小さな違和感。
「……王子様……」
「何だ」
アズラルトはミズイロの気付いた違和感には気付かなかったけれど、ぴり、と張りつめた空気で何かが起きていることを察し警戒態勢だ。
「……死の神アドロスは、死者を導くため視線は死者の国を向いているんです」
壁画でいえば首を180度曲げて前方へ向いている頭と目線。それが今。
「何で目が合うんでしょう……?」
頭は前を向いたまま目線は完全にこちらを見ていた。
そう思って振り返った目の前に、信じられないというかちょっと予測していた光景が広がる。
町角にいかにも怪しげな黒ローブの人物。紫の布がかかった机にある水晶という名のガラス玉は今日もピカピカしている。
一瞬の間の後ミズイロは叫んだ。
「何やってるのおばあちゃーーーん!!?」
「次の目的地がわからず悩んでおるのだろう?」
「何で知ってるのおばあちゃーーーん!!?」
アズラルトは思う。やっぱこいつがラスボスじゃね?と。
「たわけが!!」
びゅん、と飛んできた突っ込み風魔法をさっと避け油断した後ろ頭にスコーン、と当たった。この野郎、意地でも当てに来やがった。腹たつ。
「それで?アズラルト王子……ミズイロのお尻のホクロは見たのかえ?風呂に一緒に入ったのじゃろ?ん?」
うりうり、と肘で小突いてくるオババに無言で剣を抜いて斬りかかったのだが、無駄に元気で素早い婆は高笑いしながら全て避けてしまってますます腹立たしい。絶対こいつだって。こいつがラスボスだって。
アズラルトの中の魔王=占いオババの図式は確立しつつある。
「そんな興味のない物誰が見るか。それより、次の目的地を言いに来たんじゃないのか?」
ひとまず目的地を聞き出してとっとと去ろう。
「おお、そうじゃったな。次の目的地はここから北の遺跡都市マーケリアス。その遺跡にて魔王城の地図を手に入れるのじゃ」
「魔王城の地図?」
そんな物が何故序盤の遺跡に。
二人は揃って首を傾げる。
「地図はあっても行き方がわからねば意味はないがのう」
「おばあちゃん、どういう事?」
「それは見てのお楽しみじゃ」
無理にでも吐かせてやる、というアズラルトの殺気を感じたかオババはサッと飛行魔術道具に跨ると「ファーファっファ……ゴフォ……ッ」と高笑いしつつ噎せながら去っていった。
「絶対あいつだって。あいつが魔王だって」
「どちらかと言えば、魔王の前に出てくる魔導士っぽくないですか」
確かにそれも一理ある。
二人は何だか勝手に納得しながら、とりあえず言われた通りに遺跡都市マーケリアスに向けて出発したのだった。
遺跡都市マーケリアス。
数々の古代遺跡や古代文明の痕跡が出土し、考古学者たちが集まり、その学者相手に商売をする人々が集まり、学術的価値がなく売りに出される文明の欠片を求めに来た旅人が集まり、その旅人に宿を提供する宿屋が集まり……そうして都市になった場所である。
もちろん遺跡そのものが損なわれることがないように厳重管理され普段は学者以外入れない。
その遺跡に、今ミズイロ達は踏み込んでいた。
遺跡内部に魔物が巣を作ってしまい学者達が入れないでいるという。冒険者を雇うつもりでいたのだが、内部は貴重な文化財も多くあり、壊されたり盗まれたりしたら事だと渋っていた所へやって来た王族に学者達は歓喜した。
見ず知らずの冒険者でない。しかも王族である。やましい事などしないだろうし、絶対あり得ないが何か盗んだ等あれば請求先も知れている。
そんなわけで二人は今遺跡内部を進んでいる。
石で組み立てられた回廊はとても今より魔道具も充実していなかったであろう時代に建てられた物とは思えないほど均一に均されており、そんな場合ではないがミズイロはウキウキと松明の炎をあっちに向け、こっちに向け忙しい。
ミズイロは遺跡が大好きだ。遺跡専門の考古学者のナルソン・ヴィクサムの著書は出るたび買っているくらい大好きだ。しかしその臆病な性格の所為で一度も実物の遺跡を見たことがなかった。人生初遺跡である。これがウキウキせずにいられようか。
「王子様、王子様!見てください!古代ヤーマの壁画ですよ!ここはヤーマ人の遺跡なんですね!」
目をキラキラさせて言われるが、アズラルトは古代文明にはあまり興味がない。もちろん先人からの教えを生かす事には賛成であるし国の成り立ちなどは子供の頃散々教わった。だからもういい、という感じだ。遺跡を観光で眺めて、おお~、と感嘆の声はあげるがそれだけである。石の組み方がどうとか、城壁の作り方がどうとかにはあまり興味がない。
「ソーナンダー」
必然的に返答する声が棒読みになる。しかしそもそもアズラルトの返答なんてどうでもいいのか、ミズイロは
「ああ!これは!ナルソン博士の著書にあったかの有名な死者の行進の壁画……!!!」
と悲鳴のような声をあげてその壁画を感動の面持ちで見つめている。
興味がないながら、アズラルトも壁画を見上げた。半人半獣の死の神アドロスが布でぐるぐる巻きにされた死者をランプで誘導しながら死者の都市へ向かう様子を描いている、と言われているそうだ。隣でミズイロがそう語っている。
「お前、お化け怖~い!とか言うくせにこれはいいのか?」
曲がりなりにも死者が列をなして歩いていく絵なのに。
「壁画はお化けじゃありませんよ!!」
普段ならこんな暗いところ終始死にそうな顔で歩いていると言うのに、実にウキウキと生気溢れているものだからついいたずら心が芽生えた。
「いいや、壁画のふりした幽霊かもしれねぇ。この遺跡は王の墓場なんだろ?暗殺された王だっていただろうし、ほら、今にもその恨みで動き出しそうじゃないか?」
「何て罰当たりな!王子様には遺跡からのメッセージが……」
ふとミズイロは背後を振り返った。何やら視線を感じたからである。しかし背後には死者の行進と言われる壁画しかなく、生き物の気配はない。おかしいな?気のせいかな?不安に思いつつも視線をアズラルトに戻そうとした時、背中にぶわりと冷や汗が浮かんだ。
それは何十回とナルソン・ヴィクサムの著書を読み、何十回と壁画を描いた挿絵を見たからわかった小さな違和感。
「……王子様……」
「何だ」
アズラルトはミズイロの気付いた違和感には気付かなかったけれど、ぴり、と張りつめた空気で何かが起きていることを察し警戒態勢だ。
「……死の神アドロスは、死者を導くため視線は死者の国を向いているんです」
壁画でいえば首を180度曲げて前方へ向いている頭と目線。それが今。
「何で目が合うんでしょう……?」
頭は前を向いたまま目線は完全にこちらを見ていた。
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