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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
お金がないなら……
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「で、お前は何してるんだ?」
「今のうちに薬草を煎じておこうと思って」
薬草はそのままでも効果を発揮するが煎じてポーションにしておけば回復量もあがる。本来は町にある薬師の店でしか出来ないが薬師本人がここにいるので可能なのだという。道具もミズイロ共々かっぱらってきたし。
「今更だがお前がいなくてあの店は大丈夫なのか」
「めちゃくちゃ今更ですね!?ーー両親も薬師ですからお店は大丈夫でしょう。父は元々冒険者をしていたから材料がなくなっても自分で採れるでしょうし」
なのに彼らがあえてミズイロに任せていたのは、臆病な息子が自分達亡き後でもしっかりと切り盛りできるように鍛えていたらしい。
「へぇ。流石親だな。お前の事良くわかってるじゃん」
この臆病者が両親亡きあと一人であの店を切り盛りできるとは思えない。それまでにゴリラみたいな嫁を貰って守ってもらうか、金を積んで用心棒を雇うかしなければその辺のごろつきにあっさり騙されて色々売られてしまいそうな雰囲気をしている。店どころか本人すら闇オークションとかに出てそうである。
「血の繋がらない僕を育ててくれた優しい両親なんです」
「え、ミィちゃん……ご両親とは……」
流石に聞き流せない一言だがどう聞いていいかわからないアズラルトに代わってアナスタシアンが訊くと、ミズイロは特に気にした風もなく微笑んで言った。
「僕、赤ちゃんの時に森に捨てられてたらしくて。占いのおばあちゃんが見つけてくれて、子供が出来なかった両親の元に引き取られたんです」
だから占いオババはミズイロの命の恩人だし、オババにとってミズイロは孫のような物なのだろう。いつもからかって遊んではいるが。
そして下町の人々にとっては不憫な生い立ちの彼がこれ以上不憫な目に遭わないように大切にしてきた。
ミズイロのモンペ軍団は現在王都でアズラルト暗殺計画を立てているらしい。
流石に不敬罪だろうが、父王に暗殺しに行きます、と血涙を流しながら報告に来た為これも息子の試練、と父は大爆笑と共に許可した。
国王公認の暗殺計画である。もちろんお互い本気で命を取るつもりはないからこその公認だ。これが本気だったらそもそも王に報告に等来ない。
そんな計画は露知らず、うっかりミズイロの生い立ちを聞いてしまった彼らの間には気まずい沈黙が落ちた。ミズイロは慌てて言い募る。
「あの!僕は別に何も悲観してませんからね。両親は優しいし、町のみんなはいい人だし。唯一不満があるなら勝手に勇者にされた事ですかね」
「そこは仕方ねぇ。聖剣が選んだんだから、文句は聖剣に言え」
「どうやって!?」
しんみりした空気を吹き飛ばすかのように言い放つアズラルトにミズイロも勢いよく突っ込む。そしてアナスタシアンはその様に「尊い……」と呟いて両手を合わせてから言った。
「ひとまず、今日の所はここで休まない?先が後どのくらいあるかわからないし、幸いここは魔物が出てこないみたいだし」
少し休憩するつもりで火をおこしたが一度座ったらどっと疲れが出たようで正直動きたくない。
アナスタシアンのMPが切れるとこの先困るので二人もこのまま一旦休息を取るのに否やはない。
そうと決まれば野営の準備だ。寝袋と魔物避けの香を取り出して設置する。アナスタシアンは自身の荷物から簡易テントと寝袋を取り出した。
「うわ、ずるいな。テント持ってんのかよ」
「当り前じゃない。冒険者の必需品よ?まさかあんた達持ってないの?」
「……親父が500ゴールドしかくれなかったもんで」
装備を整えるのだって一苦労だ。魔物の落とすアイテムもこの辺のレベルの低い魔物だとそこまで金にはならないし、前回の町で防具を買った為再び貧乏勇者ご一行になっている。旅の序盤の金のなさ。辛い。辛すぎる。
しかし姉はきょとん、と
「お金がないなら魔物を狩ればいいじゃない」
どこぞの誰かのような事をより物騒にして当たり前のように言ってくる。
野生動物を乱獲するのは違法だが、魔物は生き物の形をしているが生き物ではない。あれは負の感情を寄せ集めた集合体である。何故負の集合体がアイテムを落とすかというのは謎であるが、魔物自体に感情はなく放置していると際限なく増える。よって見つけ次第駆逐するのが常である。
中には感情があるふりをして人を騙して食らう高位の魔物もいるというがそこまで来たらそれは恐らく魔王直属の配下だろう。
「私も駆け出しの頃はお金で苦労したわ……」
「王女が駆け出しとは」
もっともな突っ込みがアズラルトの口から漏れたが黙殺された。
この姉が時折長期で行方を眩ませるのは常だったがまさか王女たる者が冒険者の真似事をしていたとは誰も思うまい。
嫁入りしてからは落ち着いていたようだがこの度昔の血が騒いでしまったらしい。ちなみにアズラルトは知らないが冷静沈着なあの義兄は冒険者をしている姉に惚れた変わり者。今回も二つ返事で快く送り出してくれた。やはり男前でやり手な公爵に憧れを抱く弟にその事実は内緒だ。
姉は弟を散々弄るけれどこれでも弟が可愛くて仕方ないのである。
「今のうちに薬草を煎じておこうと思って」
薬草はそのままでも効果を発揮するが煎じてポーションにしておけば回復量もあがる。本来は町にある薬師の店でしか出来ないが薬師本人がここにいるので可能なのだという。道具もミズイロ共々かっぱらってきたし。
「今更だがお前がいなくてあの店は大丈夫なのか」
「めちゃくちゃ今更ですね!?ーー両親も薬師ですからお店は大丈夫でしょう。父は元々冒険者をしていたから材料がなくなっても自分で採れるでしょうし」
なのに彼らがあえてミズイロに任せていたのは、臆病な息子が自分達亡き後でもしっかりと切り盛りできるように鍛えていたらしい。
「へぇ。流石親だな。お前の事良くわかってるじゃん」
この臆病者が両親亡きあと一人であの店を切り盛りできるとは思えない。それまでにゴリラみたいな嫁を貰って守ってもらうか、金を積んで用心棒を雇うかしなければその辺のごろつきにあっさり騙されて色々売られてしまいそうな雰囲気をしている。店どころか本人すら闇オークションとかに出てそうである。
「血の繋がらない僕を育ててくれた優しい両親なんです」
「え、ミィちゃん……ご両親とは……」
流石に聞き流せない一言だがどう聞いていいかわからないアズラルトに代わってアナスタシアンが訊くと、ミズイロは特に気にした風もなく微笑んで言った。
「僕、赤ちゃんの時に森に捨てられてたらしくて。占いのおばあちゃんが見つけてくれて、子供が出来なかった両親の元に引き取られたんです」
だから占いオババはミズイロの命の恩人だし、オババにとってミズイロは孫のような物なのだろう。いつもからかって遊んではいるが。
そして下町の人々にとっては不憫な生い立ちの彼がこれ以上不憫な目に遭わないように大切にしてきた。
ミズイロのモンペ軍団は現在王都でアズラルト暗殺計画を立てているらしい。
流石に不敬罪だろうが、父王に暗殺しに行きます、と血涙を流しながら報告に来た為これも息子の試練、と父は大爆笑と共に許可した。
国王公認の暗殺計画である。もちろんお互い本気で命を取るつもりはないからこその公認だ。これが本気だったらそもそも王に報告に等来ない。
そんな計画は露知らず、うっかりミズイロの生い立ちを聞いてしまった彼らの間には気まずい沈黙が落ちた。ミズイロは慌てて言い募る。
「あの!僕は別に何も悲観してませんからね。両親は優しいし、町のみんなはいい人だし。唯一不満があるなら勝手に勇者にされた事ですかね」
「そこは仕方ねぇ。聖剣が選んだんだから、文句は聖剣に言え」
「どうやって!?」
しんみりした空気を吹き飛ばすかのように言い放つアズラルトにミズイロも勢いよく突っ込む。そしてアナスタシアンはその様に「尊い……」と呟いて両手を合わせてから言った。
「ひとまず、今日の所はここで休まない?先が後どのくらいあるかわからないし、幸いここは魔物が出てこないみたいだし」
少し休憩するつもりで火をおこしたが一度座ったらどっと疲れが出たようで正直動きたくない。
アナスタシアンのMPが切れるとこの先困るので二人もこのまま一旦休息を取るのに否やはない。
そうと決まれば野営の準備だ。寝袋と魔物避けの香を取り出して設置する。アナスタシアンは自身の荷物から簡易テントと寝袋を取り出した。
「うわ、ずるいな。テント持ってんのかよ」
「当り前じゃない。冒険者の必需品よ?まさかあんた達持ってないの?」
「……親父が500ゴールドしかくれなかったもんで」
装備を整えるのだって一苦労だ。魔物の落とすアイテムもこの辺のレベルの低い魔物だとそこまで金にはならないし、前回の町で防具を買った為再び貧乏勇者ご一行になっている。旅の序盤の金のなさ。辛い。辛すぎる。
しかし姉はきょとん、と
「お金がないなら魔物を狩ればいいじゃない」
どこぞの誰かのような事をより物騒にして当たり前のように言ってくる。
野生動物を乱獲するのは違法だが、魔物は生き物の形をしているが生き物ではない。あれは負の感情を寄せ集めた集合体である。何故負の集合体がアイテムを落とすかというのは謎であるが、魔物自体に感情はなく放置していると際限なく増える。よって見つけ次第駆逐するのが常である。
中には感情があるふりをして人を騙して食らう高位の魔物もいるというがそこまで来たらそれは恐らく魔王直属の配下だろう。
「私も駆け出しの頃はお金で苦労したわ……」
「王女が駆け出しとは」
もっともな突っ込みがアズラルトの口から漏れたが黙殺された。
この姉が時折長期で行方を眩ませるのは常だったがまさか王女たる者が冒険者の真似事をしていたとは誰も思うまい。
嫁入りしてからは落ち着いていたようだがこの度昔の血が騒いでしまったらしい。ちなみにアズラルトは知らないが冷静沈着なあの義兄は冒険者をしている姉に惚れた変わり者。今回も二つ返事で快く送り出してくれた。やはり男前でやり手な公爵に憧れを抱く弟にその事実は内緒だ。
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