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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
ろくでもない
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マミーとスケルトンの混合軍に対し一番高い攻撃力を誇ったのはもちろんゴリラ……もとい、第三王女アナスタシアンである。
彼女の固有スキル【剛腕】に加え、光属性が得意魔術でさらにレベルも二人を上回る25だという。
何故本来城で、嫁入りしてからは公爵家の護衛に守られている筈の妙齢女性のレベルが高いのか。ミズイロは疑問に思ったけれど聞くのが怖いので黙しておいた。空気は読める男なのだ。
そんなわけでアナスタシアンの繰り出す高速パンチと詠唱なしの光魔法の華麗なコラボで闇属性の魔物が多い遺跡探索は随分とサクサク進んでいる。
唯一時折ミズイロが「あ!あの壁画は!」「あの彫刻は!」「あの石組は!!」と脱線してしまうのが困り物ではあったが。
「もう大分奥まで来たわねぇ……。ちょっと休憩しましょ」
アナスタシアンがそう言いだしたのは岩が剥き出しになった洞窟のような場所だった。何故遺跡の中に洞窟が?と訊けば、当然の事のようにミズイロが答える。
「古代ヤーマの遺跡には多いんですよ。ヤーマ人は自然も神殿に取り込んで神々への信仰としていたようですから」
ギミックじゃなかった壁画を見る限りここは大地の神ノールトンを祀る神殿だったのではないか、とうんちくを垂れるミズイロにどこの誰を祀っているかは興味がないアズラルトは毎度のごとく
「ヘーソウナンダー」
と棒読みで返しておいた。
そんな二人を焚火の用意をしながらアナスタシアンはにっこりと笑って眺めている。慈愛に見える微笑みの向こうの内心はこうである。
いい。いいわ。何なのその距離感。可愛すぎるわ。素直になれないの?ツンデレなの?我が弟ながらおいしいわ!語りたいミィちゃんに興味ないふりのアティ……。
でもお姉ちゃんはわかってるわ。興味ないなんて嘘!本当はミィちゃんのキラキラおめめが可愛くてたまらないのよね?あぁ!でも逆かしら……!?興味ないのにミィちゃんの話だから聞いてあげたいの?そうなの?そうなのね、アティ!!けしからないわ……!もっとやって下さい。
「あの……王子様……王女様から何やらただならぬ気配を感じるんですが……」
「しっ!目を合わすな、眼鏡!ああいう顔の時は大抵ろくでもない事を考えてやがるんだからな」
「失礼ね、ろくでもない事なんか考えてないわよ!」
大概ろくでもなかったが表情にはおくびにも出さない。曲がりなりにも王族である。他国の客人をもてなすのに顔に感情が出てしまうのは未熟者の証拠だ。アズラルトはまだその辺り修行中である。
王太子である長兄はもはや仙人ではないかと思うくらい感情が読めないけれど、彼の頭の中も大概な事をアナスタシアンは知っている。長兄に憧れを抱く末っ子の前では言わないが。
ちなみにアナスタシアンは表情に出さない分親しい人の前だと気配に出てしまうのでまだ修行不足だと次兄からは言われている身だ。あとたまに拳にも出るので気をつけろ、と。
拳は仕方がない。妃である母から困った時は拳で語れ、と言われて育ったのだから。
「さ、ミィちゃん。火をおこしたから暖まりましょ」
「は、はひ……!」
煌めく笑顔がなんか怖い。ビク、と飛び上がりながらおずおずと火の側に座る。
遺跡の中はひんやり冷たくて体が冷えていたらしく暖かい炎に当たると自然とほ、と吐息が漏れた。
「でもここに焚火跡があったって事は学者達はここまで来たって事よね」
本来なら遺跡内部で火をおこすなんて言語道断!という所だが以前にも焚火をした形跡があったからそれに倣ったのだ。そうでなければミズイロが「罰当たりーーーー!!!」と聖剣を抜いて襲い掛かって来たかもしれない。今も若干不服そうではあるが、すでに学者がそうしていたとなればミズイロにも文句は言えない。
アナスタシアンの活躍が凄すぎてここまで聖剣を抜く事態にならなかった大人サイズのミズイロはイジイジと何かを弄っている。その隣に腰を落としながら、
「何やってんだ、お前」
と訊けば、目の前の姉がまたもにっこり慈愛の笑みを浮かべた。絶対またろくでもない事を考えている。アズラルトは虚無の表情である。
その姉は内心キャアキャア言っていた。
何なの、何で自然にミィちゃんの隣に行くの?さりげなく手元覗き込んで話しかけるふりで接近しちゃったりして何なの!?ほんとはもっと近寄りたいの?寒そうなミィちゃんの肩抱いてあげたいの?いいのよ、アティ!お姉ちゃんの事は気にしないでぎゅってしてあげてちょうだい!
「……王子様……」
「見るな!あれはただのゴリ……いや、何でもない」
ゴリラと言いかけた瞬間頬を掠めた小さな石礫がまた頬の薄皮を破り薄っすら血が滲み、ミズイロは
「ひぃぃぃ……」
と泡を吹いて卒倒寸前だ。頭の中がろくでもない短気なゴリラはガタガタ震えるミズイロの為にアズラルトから剥ぎ取った上着をかけてあげた。
親切という名の下心である。ただただアズラルトの上着を着ているミズイロが見たい、という己の欲に従っただけである。いきなり服を剥かれたアズラルトはブツブツ文句を垂れていたが姉に逆らうと後が怖いので黙っておく。
ミズイロが震えているのが寒さではなくアナスタシアンへの恐怖心からだと言ったら二人共危険だ。二人は空気を読んで黙った。
彼女の固有スキル【剛腕】に加え、光属性が得意魔術でさらにレベルも二人を上回る25だという。
何故本来城で、嫁入りしてからは公爵家の護衛に守られている筈の妙齢女性のレベルが高いのか。ミズイロは疑問に思ったけれど聞くのが怖いので黙しておいた。空気は読める男なのだ。
そんなわけでアナスタシアンの繰り出す高速パンチと詠唱なしの光魔法の華麗なコラボで闇属性の魔物が多い遺跡探索は随分とサクサク進んでいる。
唯一時折ミズイロが「あ!あの壁画は!」「あの彫刻は!」「あの石組は!!」と脱線してしまうのが困り物ではあったが。
「もう大分奥まで来たわねぇ……。ちょっと休憩しましょ」
アナスタシアンがそう言いだしたのは岩が剥き出しになった洞窟のような場所だった。何故遺跡の中に洞窟が?と訊けば、当然の事のようにミズイロが答える。
「古代ヤーマの遺跡には多いんですよ。ヤーマ人は自然も神殿に取り込んで神々への信仰としていたようですから」
ギミックじゃなかった壁画を見る限りここは大地の神ノールトンを祀る神殿だったのではないか、とうんちくを垂れるミズイロにどこの誰を祀っているかは興味がないアズラルトは毎度のごとく
「ヘーソウナンダー」
と棒読みで返しておいた。
そんな二人を焚火の用意をしながらアナスタシアンはにっこりと笑って眺めている。慈愛に見える微笑みの向こうの内心はこうである。
いい。いいわ。何なのその距離感。可愛すぎるわ。素直になれないの?ツンデレなの?我が弟ながらおいしいわ!語りたいミィちゃんに興味ないふりのアティ……。
でもお姉ちゃんはわかってるわ。興味ないなんて嘘!本当はミィちゃんのキラキラおめめが可愛くてたまらないのよね?あぁ!でも逆かしら……!?興味ないのにミィちゃんの話だから聞いてあげたいの?そうなの?そうなのね、アティ!!けしからないわ……!もっとやって下さい。
「あの……王子様……王女様から何やらただならぬ気配を感じるんですが……」
「しっ!目を合わすな、眼鏡!ああいう顔の時は大抵ろくでもない事を考えてやがるんだからな」
「失礼ね、ろくでもない事なんか考えてないわよ!」
大概ろくでもなかったが表情にはおくびにも出さない。曲がりなりにも王族である。他国の客人をもてなすのに顔に感情が出てしまうのは未熟者の証拠だ。アズラルトはまだその辺り修行中である。
王太子である長兄はもはや仙人ではないかと思うくらい感情が読めないけれど、彼の頭の中も大概な事をアナスタシアンは知っている。長兄に憧れを抱く末っ子の前では言わないが。
ちなみにアナスタシアンは表情に出さない分親しい人の前だと気配に出てしまうのでまだ修行不足だと次兄からは言われている身だ。あとたまに拳にも出るので気をつけろ、と。
拳は仕方がない。妃である母から困った時は拳で語れ、と言われて育ったのだから。
「さ、ミィちゃん。火をおこしたから暖まりましょ」
「は、はひ……!」
煌めく笑顔がなんか怖い。ビク、と飛び上がりながらおずおずと火の側に座る。
遺跡の中はひんやり冷たくて体が冷えていたらしく暖かい炎に当たると自然とほ、と吐息が漏れた。
「でもここに焚火跡があったって事は学者達はここまで来たって事よね」
本来なら遺跡内部で火をおこすなんて言語道断!という所だが以前にも焚火をした形跡があったからそれに倣ったのだ。そうでなければミズイロが「罰当たりーーーー!!!」と聖剣を抜いて襲い掛かって来たかもしれない。今も若干不服そうではあるが、すでに学者がそうしていたとなればミズイロにも文句は言えない。
アナスタシアンの活躍が凄すぎてここまで聖剣を抜く事態にならなかった大人サイズのミズイロはイジイジと何かを弄っている。その隣に腰を落としながら、
「何やってんだ、お前」
と訊けば、目の前の姉がまたもにっこり慈愛の笑みを浮かべた。絶対またろくでもない事を考えている。アズラルトは虚無の表情である。
その姉は内心キャアキャア言っていた。
何なの、何で自然にミィちゃんの隣に行くの?さりげなく手元覗き込んで話しかけるふりで接近しちゃったりして何なの!?ほんとはもっと近寄りたいの?寒そうなミィちゃんの肩抱いてあげたいの?いいのよ、アティ!お姉ちゃんの事は気にしないでぎゅってしてあげてちょうだい!
「……王子様……」
「見るな!あれはただのゴリ……いや、何でもない」
ゴリラと言いかけた瞬間頬を掠めた小さな石礫がまた頬の薄皮を破り薄っすら血が滲み、ミズイロは
「ひぃぃぃ……」
と泡を吹いて卒倒寸前だ。頭の中がろくでもない短気なゴリラはガタガタ震えるミズイロの為にアズラルトから剥ぎ取った上着をかけてあげた。
親切という名の下心である。ただただアズラルトの上着を着ているミズイロが見たい、という己の欲に従っただけである。いきなり服を剥かれたアズラルトはブツブツ文句を垂れていたが姉に逆らうと後が怖いので黙っておく。
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