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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
勇者はずっと背景と化している
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リンハルクの話ではミッシルハウゼンが石化したのは半年前。町も、人も何もかもが石化してしまった王城でリンハルクは一人石化解除を試みていた。
ミッシルハウゼンはリンハルクにとって決して住み心地の良い国ではなかった。生まれつき白い肌、白い髪、そして滴る血のような深紅の瞳に両親も兄弟達も恐れおののいた。
忌み子、鬼子、呪われた子。蔑まれ、疎まれ、石を投げられた。不吉な事はリンハルクの所為になり、唯一味方をしてくれた弟が事故で亡くなった時には彼が殺したのでは、と根も葉もない噂が流れた。
それでもミッシルハウゼンはリンハルクの故郷だったし、住んでいる人々が彼を嫌ってもミッシルハウゼンに住む精霊たちは彼の味方だった。だから彼は故郷を嫌わずに済んでいたのに、石化の呪いはその精霊たちをも巻き込んでいる。
「……正直家族とかどうでもいいんだけど、精霊が閉じ込められちゃったからさ」
「待ってくれ……。他の王族は全員巻き込まれたんだよな?」
「……一応全員部屋で寝たまま石化してるのを見たよ」
初めて入った兄弟達の部屋は全てが石化していたけれど、それでも元々は煌びやかな部屋だったのだろう。色を失った調度品はどれも精巧な作りをしていた。
「……なら先月王城のパーティーに来た第一、第二王子は一体誰だったんだ……?」
「……先月?月の数え方が違う…わけじゃないよね」
「数え方は世界共通だ」
「その王子達に不審な点はなかったの?」
アナスタシアンは旦那である公爵の仕事の関係で今回のパーティーには不参加だったから実際には見ていない。アズラルトは記憶を辿るように天井を見上げた。
「……何も……。そもそも挨拶程度しかしてないし」
パーティーが苦手なアズラルトは、一通り挨拶を済ませるときりがいい所で部屋に戻ったからずっとその場にいたわけでもない。それに相手が第一、第二王子だったらアズラルトより自分の兄達がもてなしていた筈だ。
「それで……何でミッシルハウゼンの石化を解くのに勇者を殺さないといけないんだ?」
「ん~、石化の呪いをかけたのが魔王の配下だったから、かなぁ……」
「……ちょっと!じゃあ貴方もしかしてその相手から勇者を殺したら元に戻してやるって言われたからミィちゃんを狙ったって事!?」
「そうなるねぇ」
「そうなるね、じゃない!!それ完全に利用されてるし、コイツ殺しても国は元に戻らないやつだぞ!!」
何だったら、はいご苦労さま、とリンハルクもそのまま殺されるし、勇者を失えば魔王を倒す事が出来なくなる。序盤でまだレベルの低い勇者を狙ってくる辺り魔王も学習しているらしい。
「そうなの?それは困るなぁ」
どうしたらいいかな?と問いかけられて王族姉弟は一瞬黙る。リンハルクが一人幻覚の類を見ているのでなければ、国一つ丸ごと石化するなんて並大抵の魔術師ではないから無責任な事は言えない。
しかし恐らく呪いはかけた本人が解呪するか死ぬかすれば解ける筈だ。だがそう言ったらこの王子はふらふらと術者を捜しに行きかねない。いや、これはリンハルクを仲間に引き込むチャンスでは?姉と弟はそっくりな顔でうん、と頷きあった。
「……確実な話ではないけど、呪いはかけた本人が死ねば解呪される事が多いわ」
「ならアイツ殺しに行くね」
「待て待て。国一つ丸ごと呪うなんて真似ができる魔術師に単独で勝てると思ってるのか?俺達相手だって押されてたのに」
「う~ん……。でもあいつ殺したら国が元に戻るんでしょ?」
今にも出て行ってしまいそうなリンハルクの前に立ち塞がる。ちなみにずっと無言のミズイロは綺麗に岩と同化している。迷彩服を着ているわけでもないのに、それはそれは見事に背景と化している。
「だけど貴方が負けたら誰が国を戻すの?悪いけど、私達は自国で精一杯だから貴方の代わりに元に戻してあげるなんて出来ないわ」
「そっかぁ。それは困ったなぁ」
「だからここは手を組もう。魔王を倒そうとすれば、お前の国を呪った相手も必ず出てくるだろ?お前はミッシルハウゼンを元に戻す為、俺達はカルヴァンラークを魔王から救う為に戦う。目的は似たようなもんだから手を組んだ方が戦力も増えていいだろう」
王族姉弟に畳みかけられてリンハルクはしばらく首を傾げた後、
「うん、わかったー」
と握っていたナイフを懐にしまった。ようやく命の危機がなくなったようなので、ミズイロは背景から登場人物に戻る。聖剣を納刀した瞬間ぼふん、と縮むミズイロにリンハルクは目を瞬かせた。
「ちっさくなった」
「聖剣が呪われててこうなる」
「よろしくお願いします」
小さなミズイロを抱き上げ頭上に掲げてみたり足を持ってぐるん、とひっくり返してみたり服をめくってみたりするリンハルクの手を逃れたミズイロがアズラルトの腕の中に飛び込む。思わずアズラルトもその小さな体を胸に抱き込んだ。
「ななな何なんですか……!?やっぱりまだ僕を殺そうと!?」
「え?どういう原理かなぁ、って気になって。さっき戦いながら思ってたんだけど、君小さくなっても可愛いねぇ」
「かわ……!?僕はカッコイイ男になるんです!」
「キスしていい?」
訊くなりむちゅ、っとミズイロの唇はリンハルクの唇で塞がれた。
ミッシルハウゼンはリンハルクにとって決して住み心地の良い国ではなかった。生まれつき白い肌、白い髪、そして滴る血のような深紅の瞳に両親も兄弟達も恐れおののいた。
忌み子、鬼子、呪われた子。蔑まれ、疎まれ、石を投げられた。不吉な事はリンハルクの所為になり、唯一味方をしてくれた弟が事故で亡くなった時には彼が殺したのでは、と根も葉もない噂が流れた。
それでもミッシルハウゼンはリンハルクの故郷だったし、住んでいる人々が彼を嫌ってもミッシルハウゼンに住む精霊たちは彼の味方だった。だから彼は故郷を嫌わずに済んでいたのに、石化の呪いはその精霊たちをも巻き込んでいる。
「……正直家族とかどうでもいいんだけど、精霊が閉じ込められちゃったからさ」
「待ってくれ……。他の王族は全員巻き込まれたんだよな?」
「……一応全員部屋で寝たまま石化してるのを見たよ」
初めて入った兄弟達の部屋は全てが石化していたけれど、それでも元々は煌びやかな部屋だったのだろう。色を失った調度品はどれも精巧な作りをしていた。
「……なら先月王城のパーティーに来た第一、第二王子は一体誰だったんだ……?」
「……先月?月の数え方が違う…わけじゃないよね」
「数え方は世界共通だ」
「その王子達に不審な点はなかったの?」
アナスタシアンは旦那である公爵の仕事の関係で今回のパーティーには不参加だったから実際には見ていない。アズラルトは記憶を辿るように天井を見上げた。
「……何も……。そもそも挨拶程度しかしてないし」
パーティーが苦手なアズラルトは、一通り挨拶を済ませるときりがいい所で部屋に戻ったからずっとその場にいたわけでもない。それに相手が第一、第二王子だったらアズラルトより自分の兄達がもてなしていた筈だ。
「それで……何でミッシルハウゼンの石化を解くのに勇者を殺さないといけないんだ?」
「ん~、石化の呪いをかけたのが魔王の配下だったから、かなぁ……」
「……ちょっと!じゃあ貴方もしかしてその相手から勇者を殺したら元に戻してやるって言われたからミィちゃんを狙ったって事!?」
「そうなるねぇ」
「そうなるね、じゃない!!それ完全に利用されてるし、コイツ殺しても国は元に戻らないやつだぞ!!」
何だったら、はいご苦労さま、とリンハルクもそのまま殺されるし、勇者を失えば魔王を倒す事が出来なくなる。序盤でまだレベルの低い勇者を狙ってくる辺り魔王も学習しているらしい。
「そうなの?それは困るなぁ」
どうしたらいいかな?と問いかけられて王族姉弟は一瞬黙る。リンハルクが一人幻覚の類を見ているのでなければ、国一つ丸ごと石化するなんて並大抵の魔術師ではないから無責任な事は言えない。
しかし恐らく呪いはかけた本人が解呪するか死ぬかすれば解ける筈だ。だがそう言ったらこの王子はふらふらと術者を捜しに行きかねない。いや、これはリンハルクを仲間に引き込むチャンスでは?姉と弟はそっくりな顔でうん、と頷きあった。
「……確実な話ではないけど、呪いはかけた本人が死ねば解呪される事が多いわ」
「ならアイツ殺しに行くね」
「待て待て。国一つ丸ごと呪うなんて真似ができる魔術師に単独で勝てると思ってるのか?俺達相手だって押されてたのに」
「う~ん……。でもあいつ殺したら国が元に戻るんでしょ?」
今にも出て行ってしまいそうなリンハルクの前に立ち塞がる。ちなみにずっと無言のミズイロは綺麗に岩と同化している。迷彩服を着ているわけでもないのに、それはそれは見事に背景と化している。
「だけど貴方が負けたら誰が国を戻すの?悪いけど、私達は自国で精一杯だから貴方の代わりに元に戻してあげるなんて出来ないわ」
「そっかぁ。それは困ったなぁ」
「だからここは手を組もう。魔王を倒そうとすれば、お前の国を呪った相手も必ず出てくるだろ?お前はミッシルハウゼンを元に戻す為、俺達はカルヴァンラークを魔王から救う為に戦う。目的は似たようなもんだから手を組んだ方が戦力も増えていいだろう」
王族姉弟に畳みかけられてリンハルクはしばらく首を傾げた後、
「うん、わかったー」
と握っていたナイフを懐にしまった。ようやく命の危機がなくなったようなので、ミズイロは背景から登場人物に戻る。聖剣を納刀した瞬間ぼふん、と縮むミズイロにリンハルクは目を瞬かせた。
「ちっさくなった」
「聖剣が呪われててこうなる」
「よろしくお願いします」
小さなミズイロを抱き上げ頭上に掲げてみたり足を持ってぐるん、とひっくり返してみたり服をめくってみたりするリンハルクの手を逃れたミズイロがアズラルトの腕の中に飛び込む。思わずアズラルトもその小さな体を胸に抱き込んだ。
「ななな何なんですか……!?やっぱりまだ僕を殺そうと!?」
「え?どういう原理かなぁ、って気になって。さっき戦いながら思ってたんだけど、君小さくなっても可愛いねぇ」
「かわ……!?僕はカッコイイ男になるんです!」
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