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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
常識とは
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いつの間にか元に戻っていたミズイロは唇に当たる感触に固まった。
アズラルトはまだミズイロを腕に抱いたまま目の前で行われたセクハラに固まった。
アナスタシアンは弟の嫁に何をする!という怒りと、でも新たなカプ誕生!?という萌えの間に挟まれて固まった。
無言のままの4人の間に冷たい風が流れる。それから我に返ったミズイロの
「わーーーーー!?」
という叫びと、アズラルトの
「何してんだお前!?」
という声が重なって響いた。
あまりの大声に耳を塞いだリンハルクの胸倉を掴んだアズラルトは、え、何で俺がこんな怒らなきゃなんねーの?とふと我に返りその手を放す。
いや、あれだ。子供の姿の時にキスとか大人の風上にもおけないやつだ。危ない大人に怒っただけだ。
誰にともなく言い訳をしつつ、未だに腕に抱いたままのミズイロに気付いて思わず突き飛ばしてしまった。
きゃあ、と女子のような悲鳴をあげつつ前につんのめったミズイロを抱きとめたのは危ない大人リンハルクで、あ、しまった、と一瞬後悔する。
しかし当のミズイロは驚きに固まったままで。そういえば美形怖い病も命の危機と今の驚きの所為か起こらない。むしろアズラルトと一緒に過ごす内に若干の耐性が出来たのではないか。性格が乱暴であろうとアズラルトは見た目だけは白馬に乗ってお姫様を颯爽と助け出しそうな正統派王子様の風貌である。
「突き飛ばしたら危ないよ」
よしよし、とミズイロの頭を撫でるリンハルクに何だかイライラしてしまう。
「お前が妙な事するからだろ」
「えー?可愛い子にはキスしていいんだよ。常識でしょ」
「どこの世界の常識だ。変態界か?」
少なくともミッシルハウゼンの他の王子はそんな事は言わなかったのでミッシルハウゼンの常識でもない筈だ。
後、いつまで抱き締めてるつもりだ、とミズイロの腕を引っ張る。しかし離さないとばかりにリンハルクが腕に力を込めた為引っ張り合いの犠牲になったミズイロは
「いたた……ッ!痛いですぅ……!!僕はマンドラゴの類じゃありません!!」
と涙目で叫ぶ羽目になった。
マンドラゴラの亜種マンドラゴはその根の強さからこうした引っ張り合いの際よく使われる言葉である。抜くと魂を抜かれるという危険なマンドラゴラと違いマンドラゴは滋養強壮に良い薬になるのでミズイロの畑にも沢山植えてあるが、その根の強さからミズイロ一人では抜くことが出来ずいつも抜くのは父親の仕事だった。
まだ強制的に旅に出されてからそんなに経ってないのに何だかあの頃がすでに遠い昔のよう。
ミズイロは遠い目になる。視界の隅に移るアナスタシアンがまた慈愛の微笑みを浮かべながら邪気を放っているのがとんでもなく恐ろしい。
「まぁまぁ、とにかくこのループはリンハルク王子の術よね?これを解いて先に進ませて貰えないかしら」
慈愛の微笑みを浮かべたまま言うアナスタシアンにリンハルクは「王子はつけなくていいよ」と言ってからようやくミズイロの体を離し一度大きく手を叩いた。パァン!!と遺跡内に音が反響する。ただ手を叩いて響いた、とは違う反響の仕方に、それがリンハルクの魔法解除モーションだと知った。ちなみにアズラルトは剣を地面に刺す事で、アナスタシアンは拳を打ち付ける事、ミズイロは土下座する事で解除する。
一瞬の視野の揺らぎの後目の前に現れたのは今まで通って来た物とは違う雰囲気の石の回廊である。入口からこの岩場までが黄土色のこの地特有の石を使った回廊だったのに比べ岩場を超えた先にあるのはこの地にはない黒い石を使った回廊だ。
壁画も先ほどまでは鮮やかな色合いで描かれていたであろう痕跡があったけれど、この回廊の壁画は白一色。どうやら石を直に削って描いているようだ。長年の年月で風化しわかりにくい壁画が多い。
「……な、何か……奥の方……嫌な臭いがしませんか……?」
奥に行くにつれて真っ暗闇になっていく回廊は全く先が見通せない。あまり魔道具は使わないで欲しいと言われたが焚火の時にうっかり松明は使ってしまったし、仕方なくアズラルトは頭部式魔術光源を装着する。パッと灯る丸い光は明るいが、それでも先は見えない。
「そういえば魔物の巣があるんだってねぇ」
アナスタシアンを先頭にリンハルクが続き、光源を持つアズラルトとアズラルトの背にしがみ付くミズイロが続く。いくら大好きな遺跡でもこの異臭と暗闇が恐怖を煽るし、暗すぎる事と風化が酷い事で壁画も良く見えないのでミズイロにとっては好奇心よりも恐怖心が勝るのだ。
とりあえず一番後ろになろうともリンハルクでなく自分に縋ってくるミズイロに何故かアズラルトは満足していた。
「満足ってなんじゃーーーーー!!!」
ガン!!と壁に頭を打ち付けるアズラルトに
「王子様!?」
といつものごとく飛び上がるミズイロ。珍獣を見る眼差しで、おお~、と何か拍手をしてくるリンハルクと邪気を放つ慈愛の微笑みで二人を見つめるアナスタシアン。
そしてその彼らを暗闇の向こうからジッ……と見つめる影がある事に彼らはまだ気付いていない。
アズラルトはまだミズイロを腕に抱いたまま目の前で行われたセクハラに固まった。
アナスタシアンは弟の嫁に何をする!という怒りと、でも新たなカプ誕生!?という萌えの間に挟まれて固まった。
無言のままの4人の間に冷たい風が流れる。それから我に返ったミズイロの
「わーーーーー!?」
という叫びと、アズラルトの
「何してんだお前!?」
という声が重なって響いた。
あまりの大声に耳を塞いだリンハルクの胸倉を掴んだアズラルトは、え、何で俺がこんな怒らなきゃなんねーの?とふと我に返りその手を放す。
いや、あれだ。子供の姿の時にキスとか大人の風上にもおけないやつだ。危ない大人に怒っただけだ。
誰にともなく言い訳をしつつ、未だに腕に抱いたままのミズイロに気付いて思わず突き飛ばしてしまった。
きゃあ、と女子のような悲鳴をあげつつ前につんのめったミズイロを抱きとめたのは危ない大人リンハルクで、あ、しまった、と一瞬後悔する。
しかし当のミズイロは驚きに固まったままで。そういえば美形怖い病も命の危機と今の驚きの所為か起こらない。むしろアズラルトと一緒に過ごす内に若干の耐性が出来たのではないか。性格が乱暴であろうとアズラルトは見た目だけは白馬に乗ってお姫様を颯爽と助け出しそうな正統派王子様の風貌である。
「突き飛ばしたら危ないよ」
よしよし、とミズイロの頭を撫でるリンハルクに何だかイライラしてしまう。
「お前が妙な事するからだろ」
「えー?可愛い子にはキスしていいんだよ。常識でしょ」
「どこの世界の常識だ。変態界か?」
少なくともミッシルハウゼンの他の王子はそんな事は言わなかったのでミッシルハウゼンの常識でもない筈だ。
後、いつまで抱き締めてるつもりだ、とミズイロの腕を引っ張る。しかし離さないとばかりにリンハルクが腕に力を込めた為引っ張り合いの犠牲になったミズイロは
「いたた……ッ!痛いですぅ……!!僕はマンドラゴの類じゃありません!!」
と涙目で叫ぶ羽目になった。
マンドラゴラの亜種マンドラゴはその根の強さからこうした引っ張り合いの際よく使われる言葉である。抜くと魂を抜かれるという危険なマンドラゴラと違いマンドラゴは滋養強壮に良い薬になるのでミズイロの畑にも沢山植えてあるが、その根の強さからミズイロ一人では抜くことが出来ずいつも抜くのは父親の仕事だった。
まだ強制的に旅に出されてからそんなに経ってないのに何だかあの頃がすでに遠い昔のよう。
ミズイロは遠い目になる。視界の隅に移るアナスタシアンがまた慈愛の微笑みを浮かべながら邪気を放っているのがとんでもなく恐ろしい。
「まぁまぁ、とにかくこのループはリンハルク王子の術よね?これを解いて先に進ませて貰えないかしら」
慈愛の微笑みを浮かべたまま言うアナスタシアンにリンハルクは「王子はつけなくていいよ」と言ってからようやくミズイロの体を離し一度大きく手を叩いた。パァン!!と遺跡内に音が反響する。ただ手を叩いて響いた、とは違う反響の仕方に、それがリンハルクの魔法解除モーションだと知った。ちなみにアズラルトは剣を地面に刺す事で、アナスタシアンは拳を打ち付ける事、ミズイロは土下座する事で解除する。
一瞬の視野の揺らぎの後目の前に現れたのは今まで通って来た物とは違う雰囲気の石の回廊である。入口からこの岩場までが黄土色のこの地特有の石を使った回廊だったのに比べ岩場を超えた先にあるのはこの地にはない黒い石を使った回廊だ。
壁画も先ほどまでは鮮やかな色合いで描かれていたであろう痕跡があったけれど、この回廊の壁画は白一色。どうやら石を直に削って描いているようだ。長年の年月で風化しわかりにくい壁画が多い。
「……な、何か……奥の方……嫌な臭いがしませんか……?」
奥に行くにつれて真っ暗闇になっていく回廊は全く先が見通せない。あまり魔道具は使わないで欲しいと言われたが焚火の時にうっかり松明は使ってしまったし、仕方なくアズラルトは頭部式魔術光源を装着する。パッと灯る丸い光は明るいが、それでも先は見えない。
「そういえば魔物の巣があるんだってねぇ」
アナスタシアンを先頭にリンハルクが続き、光源を持つアズラルトとアズラルトの背にしがみ付くミズイロが続く。いくら大好きな遺跡でもこの異臭と暗闇が恐怖を煽るし、暗すぎる事と風化が酷い事で壁画も良く見えないのでミズイロにとっては好奇心よりも恐怖心が勝るのだ。
とりあえず一番後ろになろうともリンハルクでなく自分に縋ってくるミズイロに何故かアズラルトは満足していた。
「満足ってなんじゃーーーーー!!!」
ガン!!と壁に頭を打ち付けるアズラルトに
「王子様!?」
といつものごとく飛び上がるミズイロ。珍獣を見る眼差しで、おお~、と何か拍手をしてくるリンハルクと邪気を放つ慈愛の微笑みで二人を見つめるアナスタシアン。
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