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第一章 勇者の聖剣が呪われてた
駆逐してやる
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「ところで、リンハルクはどうして……」
遺跡の中に入れたのかを聞こうとアナスタシアンが振り返り、一瞬の間の後叫んだ。
「ミィちゃん!!!!」
「え?わぁ!!」
咄嗟に命大事に根性で察してアズラルトごと地面に倒れたミズイロの上をブォン、と通過する巨大な物体。いつの間にか4人の背後には小山のような影が立ちはだかっている。ほぼ無音でササッと移動していくその足は8本。闇の中禍々しく光る無数の赤い瞳。シャア!と小さく威嚇の声を上げる。
「ジャイアントタランチュラ!!」
「巣を作ってる魔物ってこいつかな?」
のんびりと確認してくるリンハルクに、
「多分そうだろうな!」
あわわわわ、と腰を抜かしているミズイロを引きづって来たアズラルトがイライラと答えた。
「淑女としてはここは可憐な悲鳴をあげる所でしょうけど」
丸い口の中で鋭い牙がガチガチと鳴っている。
しかしこのジャイアントタランチュラ。洞窟や打ち捨てられた遺跡等に棲み、普段は滅多にお目にかかれないレア物だ。恐ろしい程の雑食で、魔物も野生動物も人間も、血が出る物なら何でも食べる。基本そこまで好戦的ではなく、普段は巣を張り引っかかった獲物を食べるジャイアントタランチュラだが、腹に子を抱えた母タランチュラは貪欲に餌を求める為自ら捕食しに出てくる事が多い。そしてその体から出る素材は高値がつくのである。冒険者として外遊していたアナスタシアンにとっては馴染みの魔物だ。
淑女の代わりに悲鳴を上げたのは勇者だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!僕虫大嫌いなんですぅぅぅぅぅーーーーー!!!!」
大きい!黒い!怖い!!と怯えまくるミズイロを、リンハルクはやはり暢気に
「よしよ~し」
なんて子犬でも撫でるかのように撫でているし。
アズラルトは迷わずミズイロのその首根っこを掴んで立たせた。
「畑してたら虫ぐらい出るだろうが!!」
「大切な薬草を片っ端から喰われる絶望が王子様にわかりますかぁぁ!?」
精魂込めて育てた薬草達が日に日に元気を無くし、枯れる。気付けば柔らかな葉っぱをいつの間にか穴だらけにされている。収穫した根薬が黒くなっていたり、やはり穴だらけにされている。薬師にとって虫はイコール天敵なのだ。
「だったら戦え!お前の薬草をダメにした虫の親玉だぞ!!薬草の仇を取るんだ!」
既に好戦的な母タランチュラと好戦的な母ゴリラ…もといアナスタシアンは戦っている。リンハルクはその様を、おお~と眺めているだけだ。とりあえず何だかリンハルクの事は好きになれないからアイツには頼まない、とミズイロをガクガク揺さぶる。
「魔物は虫とは違いますよ」
ミズイロから冷静に突っ込まれて、その頭をぶっ叩いた。
「いきなり冷静になるな!腹立つな!」
「理不尽!!」
しかしミズイロはゆらり、と聖剣に手をかけた。
「……魔物は虫じゃない……魔物は虫じゃない……けど、大嫌いな虫は全部……駆逐してやる……ッ!!!」
何やら一大決心をしたような顔で聖剣を抜くミズイロ。巨大な壁の中で暮らしていた少年の如き叫びを上げてジャイアントタランチュラに斬りかかる。未だかつて見たことがないようなやる気である。
「おお~、ミィちゃん強い強い」
パチパチと拍手をしているリンハルクに、
「お前も戦え!」
と言い置いてアズラルトも剣を抜いた。
「戦った方がいいの?」
「当り前だ」
「そっかぁ。わかった」
コイツには頼まない、と思う物の何もしていないのもそれはそれで腹が立つ。しかも先ほどの戦闘を見た限り強いのはわかっているのだから余計だ。
というか最初はもう少しまともな話し方をしていた気がするが、あの時も途中からどこか子供のような口調になっていた気がする。もしかしたらまともな教育すら与えられていなかったのでは、という可能性に辿り着いたアズラルトは口をへの字に曲げた。
リンハルクが一瞬で詰めた間合いでジャイアントタランチュラの足が一本宙を舞って、キシャァァァァァ!と耳障りな悲鳴が上がる中気を取り直したアズラルトも剣に魔力を込める為詠唱を始めた。
暗い場所を好む魔物は大体が闇属性だ。アナスタシアンの光魔法にまた奇声を上げカサカサと天井付近まで這い上がってしまう。天井はかなり高く流石に剣も魔法も届きそうにない。しかも。
「!避けて!!!」
アナスタシアンの声に全員その場を離れたそこへ降って来たのは大量の骨だった。恐らく人骨だろう、という骨とその他に魔物の物らしき骨もある。一瞬それに気を取られたリンハルクの背後につつつ、と糸を伝って降りてきたジャイアントタランチュラに気付いたミズイロがーーというより、聖剣がミズイロの体を使いジャイアントタランチュラに一太刀浴びせるがその前にシャア!と鳴いた口から糸が吐き出された。
「ひぇ……っ」
その糸を炎で焼き払ったアズラルトの光を帯びた剣がジャイアントタランチュラの目を数個潰すと、再びキシャァァァァァ、と劈く悲鳴を上げするすると天井に戻って行ってしまう。
「くっそめんどくせぇな!」
「次降りてきたらお腹を狙った方がいいわ。万が一子供をバラまかれたらもっと面倒な事になる」
「で、でもジャイアントタランチュラって子供潰したらめちゃくちゃ狂暴になるんじゃなかったですっけ……?」
天井付近でカサカサ音がしているが光が上まで届かないから今どこに潜んでいるのかが全く分からない。
「ブッ殺スイッチ入るけど、小さいタランチュラを延々潰す羽目にはなりたくないでしょ?」
何千匹よ、と言われミズイロは聖剣を握りなけなしの気合を入れた。
遺跡の中に入れたのかを聞こうとアナスタシアンが振り返り、一瞬の間の後叫んだ。
「ミィちゃん!!!!」
「え?わぁ!!」
咄嗟に命大事に根性で察してアズラルトごと地面に倒れたミズイロの上をブォン、と通過する巨大な物体。いつの間にか4人の背後には小山のような影が立ちはだかっている。ほぼ無音でササッと移動していくその足は8本。闇の中禍々しく光る無数の赤い瞳。シャア!と小さく威嚇の声を上げる。
「ジャイアントタランチュラ!!」
「巣を作ってる魔物ってこいつかな?」
のんびりと確認してくるリンハルクに、
「多分そうだろうな!」
あわわわわ、と腰を抜かしているミズイロを引きづって来たアズラルトがイライラと答えた。
「淑女としてはここは可憐な悲鳴をあげる所でしょうけど」
丸い口の中で鋭い牙がガチガチと鳴っている。
しかしこのジャイアントタランチュラ。洞窟や打ち捨てられた遺跡等に棲み、普段は滅多にお目にかかれないレア物だ。恐ろしい程の雑食で、魔物も野生動物も人間も、血が出る物なら何でも食べる。基本そこまで好戦的ではなく、普段は巣を張り引っかかった獲物を食べるジャイアントタランチュラだが、腹に子を抱えた母タランチュラは貪欲に餌を求める為自ら捕食しに出てくる事が多い。そしてその体から出る素材は高値がつくのである。冒険者として外遊していたアナスタシアンにとっては馴染みの魔物だ。
淑女の代わりに悲鳴を上げたのは勇者だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!僕虫大嫌いなんですぅぅぅぅぅーーーーー!!!!」
大きい!黒い!怖い!!と怯えまくるミズイロを、リンハルクはやはり暢気に
「よしよ~し」
なんて子犬でも撫でるかのように撫でているし。
アズラルトは迷わずミズイロのその首根っこを掴んで立たせた。
「畑してたら虫ぐらい出るだろうが!!」
「大切な薬草を片っ端から喰われる絶望が王子様にわかりますかぁぁ!?」
精魂込めて育てた薬草達が日に日に元気を無くし、枯れる。気付けば柔らかな葉っぱをいつの間にか穴だらけにされている。収穫した根薬が黒くなっていたり、やはり穴だらけにされている。薬師にとって虫はイコール天敵なのだ。
「だったら戦え!お前の薬草をダメにした虫の親玉だぞ!!薬草の仇を取るんだ!」
既に好戦的な母タランチュラと好戦的な母ゴリラ…もといアナスタシアンは戦っている。リンハルクはその様を、おお~と眺めているだけだ。とりあえず何だかリンハルクの事は好きになれないからアイツには頼まない、とミズイロをガクガク揺さぶる。
「魔物は虫とは違いますよ」
ミズイロから冷静に突っ込まれて、その頭をぶっ叩いた。
「いきなり冷静になるな!腹立つな!」
「理不尽!!」
しかしミズイロはゆらり、と聖剣に手をかけた。
「……魔物は虫じゃない……魔物は虫じゃない……けど、大嫌いな虫は全部……駆逐してやる……ッ!!!」
何やら一大決心をしたような顔で聖剣を抜くミズイロ。巨大な壁の中で暮らしていた少年の如き叫びを上げてジャイアントタランチュラに斬りかかる。未だかつて見たことがないようなやる気である。
「おお~、ミィちゃん強い強い」
パチパチと拍手をしているリンハルクに、
「お前も戦え!」
と言い置いてアズラルトも剣を抜いた。
「戦った方がいいの?」
「当り前だ」
「そっかぁ。わかった」
コイツには頼まない、と思う物の何もしていないのもそれはそれで腹が立つ。しかも先ほどの戦闘を見た限り強いのはわかっているのだから余計だ。
というか最初はもう少しまともな話し方をしていた気がするが、あの時も途中からどこか子供のような口調になっていた気がする。もしかしたらまともな教育すら与えられていなかったのでは、という可能性に辿り着いたアズラルトは口をへの字に曲げた。
リンハルクが一瞬で詰めた間合いでジャイアントタランチュラの足が一本宙を舞って、キシャァァァァァ!と耳障りな悲鳴が上がる中気を取り直したアズラルトも剣に魔力を込める為詠唱を始めた。
暗い場所を好む魔物は大体が闇属性だ。アナスタシアンの光魔法にまた奇声を上げカサカサと天井付近まで這い上がってしまう。天井はかなり高く流石に剣も魔法も届きそうにない。しかも。
「!避けて!!!」
アナスタシアンの声に全員その場を離れたそこへ降って来たのは大量の骨だった。恐らく人骨だろう、という骨とその他に魔物の物らしき骨もある。一瞬それに気を取られたリンハルクの背後につつつ、と糸を伝って降りてきたジャイアントタランチュラに気付いたミズイロがーーというより、聖剣がミズイロの体を使いジャイアントタランチュラに一太刀浴びせるがその前にシャア!と鳴いた口から糸が吐き出された。
「ひぇ……っ」
その糸を炎で焼き払ったアズラルトの光を帯びた剣がジャイアントタランチュラの目を数個潰すと、再びキシャァァァァァ、と劈く悲鳴を上げするすると天井に戻って行ってしまう。
「くっそめんどくせぇな!」
「次降りてきたらお腹を狙った方がいいわ。万が一子供をバラまかれたらもっと面倒な事になる」
「で、でもジャイアントタランチュラって子供潰したらめちゃくちゃ狂暴になるんじゃなかったですっけ……?」
天井付近でカサカサ音がしているが光が上まで届かないから今どこに潜んでいるのかが全く分からない。
「ブッ殺スイッチ入るけど、小さいタランチュラを延々潰す羽目にはなりたくないでしょ?」
何千匹よ、と言われミズイロは聖剣を握りなけなしの気合を入れた。
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