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「じゃあとりあえず貴斗は無事だったんだね」
ソラ達がマンションに辿り着いた頃、諒真達もまた春海の家に辿り着いていた。春樹も気になるようでうろちょろしていたが、無事だった、の一言だけ教えて自室へ下がらせた。
ハンター達の顔を見る限り完全に無事だったとは言いがたいからだ。案の定春樹が自室に戻ったタイミングで諒真が言う。
「浄化の気配がした」
「……そう……か」
ではやはり太陽は精気を取り込むことを始めたのだ。
「貴斗君の魂を壊すのに、ワーウルフを呼んでいました。もし次一族に連れ戻される事になったら……その時は……」
恐らくその時はもう終わりだ。
諒真達もあのワーウルフで確信した。魔を取り込んででも貴斗という魂を壊そうとしているのだと。
「今日の所はひとまずソラに任せるしかないね。下手にあたし達がゴチャゴチャ言って余計に追い詰めてもいけない」
「そうですね……」
「あんた達も今日は休みな。客間に布団が用意してあるから。あんたも、怪我してんのに無理させて悪かったね」
ポン、と頭に置かれた春海の手を諒真が嫌そうに払う。
「別に。あの一族には借りがあっただけだ。あんた達の為じゃねぇ」
「もう、諒真!」
ふん、とそっぽを向いた諒真に苦笑して部屋に案内してやる。春海は素直じゃない息子が増えた気分だと笑った。
※ ※ ※ ※
「カゲッ!!」
首筋に寄せられた口が開いて犬歯が肌を食い破る直前に、ソラがカゲを引き剥がした。叩き付ける勢いで床に倒したせいで激しい音が響く。
何が起きたかわかっていない貴斗を背後に庇い、倒れたままのカゲを見下ろす。
「ソラ……?」
「いいから動かないで」
ピクリとカゲの指が動き、二人が見守る中彼はハッと飛び起きると部屋の隅までズザザと下がった。
「も、申し訳ありません!!おれ、今……っ!」
「いや、油断した俺も悪かった。そこから近寄るな」
「はい……」
しょんぼりと肩を落とす様が何だかソラと似ている。そう思ったら項垂れる彼が不憫になってソラの服を軽く引っ張った。
「そんなに怒らなくても……」
「何されかけたかわかってる?血を吸われかけたんだよ」
「……でも……」
「ダメ。貴斗の血は吸血鬼を狂わせる。カゲの為でもあるの」
じゃあ何でソラは平気なんだろう、と不思議に思う。多分ソラにもその理由はわかってなくて、だからずっと一緒にいたカゲについ気を緩めてしまったのだろう。
「この距離なら大丈夫なようです」
ふう、とカゲが一呼吸してペコリと頭を下げた。
「神子様、申し訳ありませんでした」
「あ……はい……。ところであの、さっきから気になってたんだけど神子って呼ばないでください」
夢の中で太陽がそう呼ばれていたのは知っている。だからそう呼ばれるとその存在を思い出して勝手に身体が震えてしまうのだ。
「貴斗って呼んであげて」
ギュッとソラの背に縋ると、ソラが気付いて胸に引き寄せ抱き締める。それだけでも貴斗は何故かホッとした。
「で、では貴斗……さん」
「さん、もいらないけど……」
「そういうわけにはいきません!そこは譲れません」
何だかこだわりがあるようだ。困惑しつつもじゃあそれで、と言えばカゲは嬉しそうに破顔した。
(何か子犬みたいだな……)
ソラと合わせたら犬の兄弟みたいだ。
「……今日のワ〇コ……」
「え?」
「いや、何でも」
同時に首を傾げる二人はやっぱり兄弟犬のようだった。
※ ※ ※ ※
夜中、物音がして春海が顔を上げると諒真が立っていた。
「何だ、まだ起きてたの」
「2、3日寝なくても死なねぇよ」
「相方はどうしたんだい?」
「魔除けでだいぶ参ってたからな」
今は寝てる、と呟く。
「一族がうろついてる気配がする」
「あぁ、そうだね。場所はまだ特定できてなさそうだけど……」
近くまで来ているのは確かだ。
そこでふと、春海は気が付く。なるほど、彼が起きているのは見張りの為か、と。
(何だかんだ言いつついい子じゃないか)
口は悪いが、貴斗の一件にもかなり責任を感じているようだ。
「あんた達は変わった子だね。教会の奴等なんか憎いとしか感じなかったんだけど」
「変わってるのはあんたの方だろ。俺達が教会と連絡を取ってたらどうするんだ」
座りな、と言われて大人しく座るあたりが素直だと春海は笑う。その彼にお茶を出してやりながら、訊きたかったことを口にした。
「あんた達はそうしないだろう?特に華生は。だから変わってるって言ったんだよ。……何か理由でもあるのかい?」
「話す必要があるのか?」
「いざって時に裏切られても困るしねぇ。最もな理由があるのか聞きたくてね」
諒真が一口お茶を飲んで、暫く考えるような間があった。それからぽつりと呟く。
「同じだったんだ」
「ん?」
「華生と、あの子供」
「……教会に幽閉されるって事?」
「されてた、だな」
白いワーウルフは稀少だ。
教会に見つかって何かの役にたつかも、と捕まってそれから50年以上ずっと一人きりで閉じ込められてきた。生かすでも殺すでもなく、ただ虚無を与え続けた。それを見つけて外に連れ出したのは諒真である。
口にはしないが諒真もまた似たような境遇だった。死ねば吸血鬼になるという爆弾を抱えている以上、昔は常に教会に監視されていた。
今は二人ともハンターとしての腕を認められて自由に行動することを許されてはいるが、少しでも不審な行動を取ればまたあの窮屈な日常に戻される。
「だから教会には連絡しねぇよ」
報告しなければ華生が幽閉されるかもしれない、と一度は指示を仰ごうとしたけれどその華生が連絡しないと言うのなら仕方ない。仮に教会が今回の事を聞き付けたとしても知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだ。それでもダメな時は、
(逃げる)
今までは行く宛がなくて逃げられなかったけれど、別に教会に縋らなくともソラのように生きる道もあると知ったのだから。
ソラ達がマンションに辿り着いた頃、諒真達もまた春海の家に辿り着いていた。春樹も気になるようでうろちょろしていたが、無事だった、の一言だけ教えて自室へ下がらせた。
ハンター達の顔を見る限り完全に無事だったとは言いがたいからだ。案の定春樹が自室に戻ったタイミングで諒真が言う。
「浄化の気配がした」
「……そう……か」
ではやはり太陽は精気を取り込むことを始めたのだ。
「貴斗君の魂を壊すのに、ワーウルフを呼んでいました。もし次一族に連れ戻される事になったら……その時は……」
恐らくその時はもう終わりだ。
諒真達もあのワーウルフで確信した。魔を取り込んででも貴斗という魂を壊そうとしているのだと。
「今日の所はひとまずソラに任せるしかないね。下手にあたし達がゴチャゴチャ言って余計に追い詰めてもいけない」
「そうですね……」
「あんた達も今日は休みな。客間に布団が用意してあるから。あんたも、怪我してんのに無理させて悪かったね」
ポン、と頭に置かれた春海の手を諒真が嫌そうに払う。
「別に。あの一族には借りがあっただけだ。あんた達の為じゃねぇ」
「もう、諒真!」
ふん、とそっぽを向いた諒真に苦笑して部屋に案内してやる。春海は素直じゃない息子が増えた気分だと笑った。
※ ※ ※ ※
「カゲッ!!」
首筋に寄せられた口が開いて犬歯が肌を食い破る直前に、ソラがカゲを引き剥がした。叩き付ける勢いで床に倒したせいで激しい音が響く。
何が起きたかわかっていない貴斗を背後に庇い、倒れたままのカゲを見下ろす。
「ソラ……?」
「いいから動かないで」
ピクリとカゲの指が動き、二人が見守る中彼はハッと飛び起きると部屋の隅までズザザと下がった。
「も、申し訳ありません!!おれ、今……っ!」
「いや、油断した俺も悪かった。そこから近寄るな」
「はい……」
しょんぼりと肩を落とす様が何だかソラと似ている。そう思ったら項垂れる彼が不憫になってソラの服を軽く引っ張った。
「そんなに怒らなくても……」
「何されかけたかわかってる?血を吸われかけたんだよ」
「……でも……」
「ダメ。貴斗の血は吸血鬼を狂わせる。カゲの為でもあるの」
じゃあ何でソラは平気なんだろう、と不思議に思う。多分ソラにもその理由はわかってなくて、だからずっと一緒にいたカゲについ気を緩めてしまったのだろう。
「この距離なら大丈夫なようです」
ふう、とカゲが一呼吸してペコリと頭を下げた。
「神子様、申し訳ありませんでした」
「あ……はい……。ところであの、さっきから気になってたんだけど神子って呼ばないでください」
夢の中で太陽がそう呼ばれていたのは知っている。だからそう呼ばれるとその存在を思い出して勝手に身体が震えてしまうのだ。
「貴斗って呼んであげて」
ギュッとソラの背に縋ると、ソラが気付いて胸に引き寄せ抱き締める。それだけでも貴斗は何故かホッとした。
「で、では貴斗……さん」
「さん、もいらないけど……」
「そういうわけにはいきません!そこは譲れません」
何だかこだわりがあるようだ。困惑しつつもじゃあそれで、と言えばカゲは嬉しそうに破顔した。
(何か子犬みたいだな……)
ソラと合わせたら犬の兄弟みたいだ。
「……今日のワ〇コ……」
「え?」
「いや、何でも」
同時に首を傾げる二人はやっぱり兄弟犬のようだった。
※ ※ ※ ※
夜中、物音がして春海が顔を上げると諒真が立っていた。
「何だ、まだ起きてたの」
「2、3日寝なくても死なねぇよ」
「相方はどうしたんだい?」
「魔除けでだいぶ参ってたからな」
今は寝てる、と呟く。
「一族がうろついてる気配がする」
「あぁ、そうだね。場所はまだ特定できてなさそうだけど……」
近くまで来ているのは確かだ。
そこでふと、春海は気が付く。なるほど、彼が起きているのは見張りの為か、と。
(何だかんだ言いつついい子じゃないか)
口は悪いが、貴斗の一件にもかなり責任を感じているようだ。
「あんた達は変わった子だね。教会の奴等なんか憎いとしか感じなかったんだけど」
「変わってるのはあんたの方だろ。俺達が教会と連絡を取ってたらどうするんだ」
座りな、と言われて大人しく座るあたりが素直だと春海は笑う。その彼にお茶を出してやりながら、訊きたかったことを口にした。
「あんた達はそうしないだろう?特に華生は。だから変わってるって言ったんだよ。……何か理由でもあるのかい?」
「話す必要があるのか?」
「いざって時に裏切られても困るしねぇ。最もな理由があるのか聞きたくてね」
諒真が一口お茶を飲んで、暫く考えるような間があった。それからぽつりと呟く。
「同じだったんだ」
「ん?」
「華生と、あの子供」
「……教会に幽閉されるって事?」
「されてた、だな」
白いワーウルフは稀少だ。
教会に見つかって何かの役にたつかも、と捕まってそれから50年以上ずっと一人きりで閉じ込められてきた。生かすでも殺すでもなく、ただ虚無を与え続けた。それを見つけて外に連れ出したのは諒真である。
口にはしないが諒真もまた似たような境遇だった。死ねば吸血鬼になるという爆弾を抱えている以上、昔は常に教会に監視されていた。
今は二人ともハンターとしての腕を認められて自由に行動することを許されてはいるが、少しでも不審な行動を取ればまたあの窮屈な日常に戻される。
「だから教会には連絡しねぇよ」
報告しなければ華生が幽閉されるかもしれない、と一度は指示を仰ごうとしたけれどその華生が連絡しないと言うのなら仕方ない。仮に教会が今回の事を聞き付けたとしても知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだ。それでもダメな時は、
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