Bloody Monster

ナナメ

文字の大きさ
26 / 27

25

しおりを挟む
「じゃあとりあえず貴斗は無事だったんだね」
 
 ソラ達がマンションに辿り着いた頃、諒真達もまた春海の家に辿り着いていた。春樹も気になるようでうろちょろしていたが、無事だった、の一言だけ教えて自室へ下がらせた。
 ハンター達の顔を見る限り完全に無事だったとは言いがたいからだ。案の定春樹が自室に戻ったタイミングで諒真が言う。
 
「浄化の気配がした」
 
「……そう……か」

 ではやはり太陽は精気を取り込むことを始めたのだ。
 
「貴斗君の魂を壊すのに、ワーウルフを呼んでいました。もし次一族に連れ戻される事になったら……その時は……」
 
 恐らくその時はもう終わりだ。
 諒真達もあのワーウルフで確信した。魔を取り込んででも貴斗という魂を壊そうとしているのだと。
 
「今日の所はひとまずソラに任せるしかないね。下手にあたし達がゴチャゴチャ言って余計に追い詰めてもいけない」
 
「そうですね……」
 
「あんた達も今日は休みな。客間に布団が用意してあるから。あんたも、怪我してんのに無理させて悪かったね」
 
 ポン、と頭に置かれた春海の手を諒真が嫌そうに払う。
 
「別に。あの一族には借りがあっただけだ。あんた達の為じゃねぇ」
 
「もう、諒真!」
 
 ふん、とそっぽを向いた諒真に苦笑して部屋に案内してやる。春海は素直じゃない息子が増えた気分だと笑った。

 ※ ※ ※ ※

「カゲッ!!」
 
 首筋に寄せられた口が開いて犬歯が肌を食い破る直前に、ソラがカゲを引き剥がした。叩き付ける勢いで床に倒したせいで激しい音が響く。
 何が起きたかわかっていない貴斗を背後に庇い、倒れたままのカゲを見下ろす。
 
「ソラ……?」
 
「いいから動かないで」
 
 ピクリとカゲの指が動き、二人が見守る中彼はハッと飛び起きると部屋の隅までズザザと下がった。
 
「も、申し訳ありません!!おれ、今……っ!」
 
「いや、油断した俺も悪かった。そこから近寄るな」
 
「はい……」
 
 しょんぼりと肩を落とす様が何だかソラと似ている。そう思ったら項垂れる彼が不憫になってソラの服を軽く引っ張った。
 
「そんなに怒らなくても……」
 
「何されかけたかわかってる?血を吸われかけたんだよ」
 
「……でも……」
 
「ダメ。貴斗の血は吸血鬼を狂わせる。カゲの為でもあるの」
 
 じゃあ何でソラは平気なんだろう、と不思議に思う。多分ソラにもその理由はわかってなくて、だからずっと一緒にいたカゲについ気を緩めてしまったのだろう。
 
「この距離なら大丈夫なようです」
 
 ふう、とカゲが一呼吸してペコリと頭を下げた。
 
「神子様、申し訳ありませんでした」
 
「あ……はい……。ところであの、さっきから気になってたんだけど神子って呼ばないでください」
 
 夢の中で太陽がそう呼ばれていたのは知っている。だからそう呼ばれるとその存在を思い出して勝手に身体が震えてしまうのだ。
 
「貴斗って呼んであげて」
 
 ギュッとソラの背に縋ると、ソラが気付いて胸に引き寄せ抱き締める。それだけでも貴斗は何故かホッとした。
 
「で、では貴斗……さん」
 
「さん、もいらないけど……」
 
「そういうわけにはいきません!そこは譲れません」
 
 何だかこだわりがあるようだ。困惑しつつもじゃあそれで、と言えばカゲは嬉しそうに破顔した。
 
(何か子犬みたいだな……)
 
 ソラと合わせたら犬の兄弟みたいだ。

「……今日のワ〇コ……」
 
「え?」
 
「いや、何でも」
 
 同時に首を傾げる二人はやっぱり兄弟犬のようだった。

 ※ ※ ※ ※

 夜中、物音がして春海が顔を上げると諒真が立っていた。
 
「何だ、まだ起きてたの」
 
「2、3日寝なくても死なねぇよ」
 
「相方はどうしたんだい?」
 
「魔除けでだいぶ参ってたからな」
 
 今は寝てる、と呟く。
 
「一族がうろついてる気配がする」
 
「あぁ、そうだね。場所はまだ特定できてなさそうだけど……」
 
 近くまで来ているのは確かだ。
 そこでふと、春海は気が付く。なるほど、彼が起きているのは見張りの為か、と。
 
(何だかんだ言いつついい子じゃないか)
 
 口は悪いが、貴斗の一件にもかなり責任を感じているようだ。
 
「あんた達は変わった子だね。教会の奴等なんか憎いとしか感じなかったんだけど」
 
「変わってるのはあんたの方だろ。俺達が教会と連絡を取ってたらどうするんだ」
 
 座りな、と言われて大人しく座るあたりが素直だと春海は笑う。その彼にお茶を出してやりながら、訊きたかったことを口にした。
 
「あんた達はそうしないだろう?特に華生は。だから変わってるって言ったんだよ。……何か理由でもあるのかい?」
 
「話す必要があるのか?」
 
「いざって時に裏切られても困るしねぇ。最もな理由があるのか聞きたくてね」
 
 諒真が一口お茶を飲んで、暫く考えるような間があった。それからぽつりと呟く。
 
「同じだったんだ」
 
「ん?」
 
「華生と、あの子供」
 
「……教会に幽閉されるって事?」
 
「されてた、だな」
 
 白いワーウルフは稀少だ。
 教会に見つかって何かの役にたつかも、と捕まってそれから50年以上ずっと一人きりで閉じ込められてきた。生かすでも殺すでもなく、ただ虚無を与え続けた。それを見つけて外に連れ出したのは諒真である。
 口にはしないが諒真もまた似たような境遇だった。死ねば吸血鬼になるという爆弾を抱えている以上、昔は常に教会に監視されていた。
 今は二人ともハンターとしての腕を認められて自由に行動することを許されてはいるが、少しでも不審な行動を取ればまたあの窮屈な日常に戻される。
 

「だから教会には連絡しねぇよ」
 
 報告しなければ華生が幽閉されるかもしれない、と一度は指示を仰ごうとしたけれどその華生が連絡しないと言うのなら仕方ない。仮に教会が今回の事を聞き付けたとしても知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだ。それでもダメな時は、
 
(逃げる)
 
 今までは行く宛がなくて逃げられなかったけれど、別に教会に縋らなくともソラのように生きる道もあると知ったのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

悪役未満な俺の執事は完全無欠な冷徹龍神騎士団長

赤飯茸
BL
人間の少年は生まれ変わり、独りぼっちの地獄の中で包み込んでくれたのは美しい騎士団長だった。 乙女ゲームの世界に転生して、人気攻略キャラクターの騎士団長はプライベートでは少年の執事をしている。 冷徹キャラは愛しい主人の前では人生を捧げて尽くして守り抜く。 それが、あの日の約束。 キスで目覚めて、執事の報酬はご主人様自身。 ゲームで知っていた彼はゲームで知らない一面ばかりを見せる。 時々情緒不安定になり、重めの愛が溢れた変態で、最強龍神騎士様と人間少年の溺愛執着寵愛物語。 執事で騎士団長の龍神王×孤独な人間転生者

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ
BL
「他人に触られるのも、そばに寄られるのも嫌だ。……怖い」 現代ヨーロッパの小国。王子として生まれながら、接触恐怖症のため身分を隠して生活するエリオットの元へ、王宮から侍従がやって来る。ロイヤルウェディングを控えた兄から、特別な役割で式に出て欲しいとの誘いだった。 無理だと断り、招待状を運んできた侍従を追い返すのだが、この侍従、己の出世にはエリオットが必要だと言って譲らない。 しかし散らかり放題の部屋を見た侍従が、説得より先に掃除を始めたことから、二人の関係は思わぬ方向へ転がり始める。 おいおい、ロイヤルウエディングどこ行った? 世話焼き侍従×ワケあり王子の恋物語。  ※は性描写のほか、注意が必要な表現を含みます。  この小説は、投稿サイト「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」「カクヨム」で掲載しています。

処理中です...