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第三章 神子
ダティスハリアの国王
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ガンガン痛む頭と体。重たい瞼を押し上げる。そこはまだ悪夢の続きで、いつものみんなが側にいない。
おはよう、って誰かが必ず笑って隣にいてくれたのに。
とっくに涙は渇れて何も出てこなくて、俺はぼんやりと窓を見つめた。外はもう明るくなってて、青い綺麗な鳥が窓を横切っていった。
(エテュセ…大丈夫かな…)
嫌な物を見せてしまった。あの時側にいてほしい、って言わなかったらエテュセを傷付けずに済んだのに。
(ごめんね…)
ああ、体が痛い。寝返り一つ打てなくて渇れたと思ってた涙は知らない間に勝手に流れ落ちてた。
「お目覚めですか」
不意に声が聞こえる。ダリアセンと呼ばれてた燕尾服の人の声だ。目を向けるのも億劫で窓を見たまま無視してたんだけど。
「傷の手当てを」
「…触るな!」
触ろうとするからその手を精一杯の力ではね除けた。途端に全身が痛みを訴えてぐったり布団に沈む。
「ほっといて」
「…貴方の従者は復讐の為に鋭気を養っているのに、貴方はそのままふて寝ですか?」
はっ、と心底冷たい笑い声が出た。俺でもこんな声出るんだなぁ、って思うくらい冷たい笑い声にダリアセンは真っ向から目線を合わせてくる。
「俺の尊厳踏みにじっといて説教?」
「尊厳を踏みにじられたまま、泣き寝入りですか」
「うるさい。あっち行って」
寝返りが打てないから目を閉じようとしたその眼前に突き付けられたのは何かの錠剤。
「避妊薬です」
「…」
「いらないんですか」
本物かどうかなんて、もうどうでも良かった。痛む腕を伸ばしてそれを受け取る。
ダリアセンは何も言わずに俺を起こしてベッドヘッドに凭れさせて、無言で水を差し出してくる。
「あいつはあんたの主人じゃないの」
「主人です」
「あいつは孕めって言ったけど」
「孕んでもらっては困るので」
きっと毒ではないだろう。俺を殺すつもりなら拘束しとく必要もないと思うし。
何だかもうどうでもいいや、って投げやりな気持ちと、みんなの所に帰るまで負けたらダメだって相反する気持ちで余計に頭がズキズキ痛む。
どうでもいいや、に傾きかけるけれど、エテュセが負けないように頑張ってるなら俺が負けるわけにはいかない。
それでも受け取ったそれをしばらく見つめーーーそして投げ捨てた。
「いらない」
信用出来ない奴からの薬なんか何が入ってるかわかったもんじゃない。
そんな怪しい薬に頼らなくたって、もしもアイツの子供が出来たとしても何の罪もない子供を俺の番達は殺さない。俺達の元で育てる事は出来ないかも知れないけど、その子が幸せに暮らしていける環境を整えてくれるはずだ。その時にも俺がみんなと一緒にいられるかわかんないけど、それでも怪しい薬になんて頼らない。
「そうですか」
ダリアセンは納得した様子だったけど、次の瞬間肩口に鋭い痛みを感じた。
「やはり、心の拠り所は邪魔ですね」
「何…!?」
一瞬の出来事で呆然としてしまう。ダリアセンの手には注射器が握られてて、何かの薬品を注射されたのは間違いない。
「何を打った!?」
「…一度お眠りなさい。起きた時にわかりますよ」
視界が歪む。頭がクラクラする。魂が抜けるように、ふわ、と意識が遠退いていく。最後に何だか苦しそうな顔をしたダリアセンが見えて、ぷつり、と意識は途絶えた。
◇
穏やかとは言い難い寝息を溢し始めた朴の傷の手当てをして、今度こそ本物の避妊薬を飲ませてやる。
昨日から何も口にしていないからか水を欲していたようで、無意識に喉を鳴らす朴が満足するまで水を飲ませて服を着せ寝かせた。
昨晩はほとんど寝ていないのだろう。傷だらけの顔でもわかる隈と血の気のない顔色。あの従者を連れてくれば食事くらいは取るだろうか。それとも彼の事も忘れてしまうだろうか。
「ダリアセン」
「…マグアイーズ様」
ダティスハリアの現国王マグアイーズは音もなくそこに立っていた。
見られただろうか。避妊薬を飲ませていたのを。ダリアセンは内心の焦りはおくびにも出さず頭を垂れる。
「神子とはこうも強情な者なのだな」
喉の奥で低く笑うマグアイーズは至極機嫌が良い様子だ。
「…魔力での記憶操作は無意識下で拒否をしたと伺いました」
「心を折れば上手くいくと思ったのだが」
その為に暴力を振るい、尊厳を踏みにじった。
朴の外に向かう魔力は任意で方向を変えられるように書き換えが成功したが、朴の中でその身を守る為に働く魔力は書き換えが出来なかったのだ。ダティスハリアが魔導の国であっても、魔力3Sの朴には敵わない。
「…時間はかかるが致し方ない。あとはアークオランが攻めてくるのを待つのみだ」
「…マグアイーズ様…、本当に戦争を?」
「アークオランも神子も何もかも滅ぼす。ナピリアートもパワハルもナスダルも…大して役には立たなかったからな」
さて、寄る辺を失った神子はどの程度耐えられるものか、と眠る朴を見下ろして暗い瞳で笑うマグアイーズに、ダリアセンはただ頭を垂れた。
おはよう、って誰かが必ず笑って隣にいてくれたのに。
とっくに涙は渇れて何も出てこなくて、俺はぼんやりと窓を見つめた。外はもう明るくなってて、青い綺麗な鳥が窓を横切っていった。
(エテュセ…大丈夫かな…)
嫌な物を見せてしまった。あの時側にいてほしい、って言わなかったらエテュセを傷付けずに済んだのに。
(ごめんね…)
ああ、体が痛い。寝返り一つ打てなくて渇れたと思ってた涙は知らない間に勝手に流れ落ちてた。
「お目覚めですか」
不意に声が聞こえる。ダリアセンと呼ばれてた燕尾服の人の声だ。目を向けるのも億劫で窓を見たまま無視してたんだけど。
「傷の手当てを」
「…触るな!」
触ろうとするからその手を精一杯の力ではね除けた。途端に全身が痛みを訴えてぐったり布団に沈む。
「ほっといて」
「…貴方の従者は復讐の為に鋭気を養っているのに、貴方はそのままふて寝ですか?」
はっ、と心底冷たい笑い声が出た。俺でもこんな声出るんだなぁ、って思うくらい冷たい笑い声にダリアセンは真っ向から目線を合わせてくる。
「俺の尊厳踏みにじっといて説教?」
「尊厳を踏みにじられたまま、泣き寝入りですか」
「うるさい。あっち行って」
寝返りが打てないから目を閉じようとしたその眼前に突き付けられたのは何かの錠剤。
「避妊薬です」
「…」
「いらないんですか」
本物かどうかなんて、もうどうでも良かった。痛む腕を伸ばしてそれを受け取る。
ダリアセンは何も言わずに俺を起こしてベッドヘッドに凭れさせて、無言で水を差し出してくる。
「あいつはあんたの主人じゃないの」
「主人です」
「あいつは孕めって言ったけど」
「孕んでもらっては困るので」
きっと毒ではないだろう。俺を殺すつもりなら拘束しとく必要もないと思うし。
何だかもうどうでもいいや、って投げやりな気持ちと、みんなの所に帰るまで負けたらダメだって相反する気持ちで余計に頭がズキズキ痛む。
どうでもいいや、に傾きかけるけれど、エテュセが負けないように頑張ってるなら俺が負けるわけにはいかない。
それでも受け取ったそれをしばらく見つめーーーそして投げ捨てた。
「いらない」
信用出来ない奴からの薬なんか何が入ってるかわかったもんじゃない。
そんな怪しい薬に頼らなくたって、もしもアイツの子供が出来たとしても何の罪もない子供を俺の番達は殺さない。俺達の元で育てる事は出来ないかも知れないけど、その子が幸せに暮らしていける環境を整えてくれるはずだ。その時にも俺がみんなと一緒にいられるかわかんないけど、それでも怪しい薬になんて頼らない。
「そうですか」
ダリアセンは納得した様子だったけど、次の瞬間肩口に鋭い痛みを感じた。
「やはり、心の拠り所は邪魔ですね」
「何…!?」
一瞬の出来事で呆然としてしまう。ダリアセンの手には注射器が握られてて、何かの薬品を注射されたのは間違いない。
「何を打った!?」
「…一度お眠りなさい。起きた時にわかりますよ」
視界が歪む。頭がクラクラする。魂が抜けるように、ふわ、と意識が遠退いていく。最後に何だか苦しそうな顔をしたダリアセンが見えて、ぷつり、と意識は途絶えた。
◇
穏やかとは言い難い寝息を溢し始めた朴の傷の手当てをして、今度こそ本物の避妊薬を飲ませてやる。
昨日から何も口にしていないからか水を欲していたようで、無意識に喉を鳴らす朴が満足するまで水を飲ませて服を着せ寝かせた。
昨晩はほとんど寝ていないのだろう。傷だらけの顔でもわかる隈と血の気のない顔色。あの従者を連れてくれば食事くらいは取るだろうか。それとも彼の事も忘れてしまうだろうか。
「ダリアセン」
「…マグアイーズ様」
ダティスハリアの現国王マグアイーズは音もなくそこに立っていた。
見られただろうか。避妊薬を飲ませていたのを。ダリアセンは内心の焦りはおくびにも出さず頭を垂れる。
「神子とはこうも強情な者なのだな」
喉の奥で低く笑うマグアイーズは至極機嫌が良い様子だ。
「…魔力での記憶操作は無意識下で拒否をしたと伺いました」
「心を折れば上手くいくと思ったのだが」
その為に暴力を振るい、尊厳を踏みにじった。
朴の外に向かう魔力は任意で方向を変えられるように書き換えが成功したが、朴の中でその身を守る為に働く魔力は書き換えが出来なかったのだ。ダティスハリアが魔導の国であっても、魔力3Sの朴には敵わない。
「…時間はかかるが致し方ない。あとはアークオランが攻めてくるのを待つのみだ」
「…マグアイーズ様…、本当に戦争を?」
「アークオランも神子も何もかも滅ぼす。ナピリアートもパワハルもナスダルも…大して役には立たなかったからな」
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