【本編完結】農民と浄化の神子を並べてはいけない

ナナメ

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第三章 神子

決心が揺らぐ前に

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消したい記憶と戦ってようやく立ち上がった時、冷たい雨が体に降り注いだ。ゆっくり開いた目が稲光と丘の上に倒れる騎士団の姿を映す。丘の上に立っていたのは俺一人。

(…あぁ…夢と同じ…)

でも夢と違うのは、欠損がある人はいないという事。夢の中ではほとんど皆体がバラバラだったから。今は皆瘴気に飲まれてしまってるだけだ。
アンダルクだった物の声がする。世界を闇に染めて、ここを永住の地にする。その為に皆殺す。その恐怖と怒りを力に変える。って叫んでるけど実行できないのは俺の中で神子の剣に貫かれて動けないからだろう。

「琴音」

俺の手は血塗れだった。それは俺の体を操った奴が腕を突き刺して琴音の心臓を奪ったからだ。

「琴音…」

「これでも死なないってすごいよねぇ…」

心臓がない体で琴音は笑う。穴の開いた胸からは夥しい血が流れているのに立ち上がった。

「元から神子が二人いないと倒せないなんて反則だよね。神子は一人ずつしか召喚されないのに」

「…アークオランはそれがわかってた?」

「…どうだろうね。わかってたならそう説明すればいい。僕のつがいを殺す必要なんてなかった筈だ」

「じゃあ偶然の産物か」

アークオランが何を考えて琴音をこういう体にしたのか今となっては真実はわからない。でもそのおかげで俺は神聖魔法の使い方がわかったんだから感謝すべきだろうか。

「さて、じゃあ始めようか」

「うん」

いくら琴音が不死だからって心臓を失ったままどこまで保つかわからない以上早く済ませるに越したことはない。俺は琴音の体に残る瘴気を浄化して、琴音を見上げた。さっきまでと違ってその体はぼんやりと光ってる。

「___一回くらいならいけそうかな」

「一回でいいよ。何回も、って思ったら怖い」

「…そうだね。一回で仕留めてあげるよ」

神子の体に封印した瘴気の源を、その神子ごと消滅させる。それがこいつの倒し方だったんだって。琴音の体にいる間に他の神子が来てそう出来たら良かったんだけど結局出来なくて。一度入った体には瘴気の源は戻らない。瘴気に飲まれた事でその倒し方を知った琴音は新たな神子を待ってた、って。俺が瘴気に飲まれるように仕向けたのも真実に触れないと神聖魔法は使えないから。ただ俺が瘴気に飲まれたままになる可能性も高かったから諸刃の剣だったって言われた時は殴ってやろうかと思ったけど。

「アークオランの末裔が何か対抗策を考えてくれてたら君が死ぬことはなかったのにね」

「仕方がないよ。だって誰も神子以外の浄化の方法なんて考えた事ないんだから」

それでも神剣もどきを作ったり、少しずつ努力しようとしてたよ。あんたの嫌いなアークオランの末裔は。だけど今回はもう間に合わないから、仕方がない。

本当は番の皆の顔を見てからが良かったけど、そしたら嫌だ、って叫んでしまいそうで怖くて。何で俺が、って泣いてしまいそうで。
だから誰の顔も見ずにその場に跪く。早く皆を瘴気から解放してあげなくちゃ。このままこんな濃い瘴気の中にいたら皆死んでしまうから。

「痛くないと良いんだけどなぁ…」

「うーん…そこは保証できないけど」

「やだなぁ…」

痛いのは嫌いだ。
でも俺の中にいる瘴気の源が暴れてるのがわかる。でも神子の剣は簡単には抜けないよ。今回は絶対逃がさない。それに琴音の闇の紋は消えたわけじゃないから早くしないと浄化が使えなくなってしまう。俺ももう割と限界だからこれ以上連続で浄化が出来るかわからないし、早くしなきゃ。

「…決心が揺らぐ前にお願いします」

黙って上げた琴音の手の平に稲光に照らされながら神剣が収まる。
きっと怖くて目を開けてられないだろうな、って思ってたのに琴音が作る魔方陣が淡く光り始めるのをただ綺麗だな、と思いながらぼんやりと眺めてた。光が徐々に神剣に集まって、最後の光が消えた時。

どん、と胸に衝撃があって、体から何かが溢れる感覚があって。

(なんだ、痛くなかった。良かったな…)

爆発的な光が辺りを染め上げた。

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