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リリアーナ編
39.知略
「あら、婚約破棄………ですの?私ももうあなた様と婚約関係を続けるのは不可能だと思っておりましたから、『婚約解消』が正しいのではありませんこと?」
リリアーナは再び己の感情を抑え込むと、余裕すらも窺わせる態度でジュストに立ち向かった。
「何だと………?」
「あら、ご存じないのかしら?一方的に婚約を取り消す場合は婚約破棄ですけれど、双方合意の上ならば、婚約解消になりますの。………尤もその場合は、慰謝料などは請求できませんけれど………まさかブラマーニ公爵家ともなれば、慰謝料など全くアテにしていないでしょうけれどね」
リリアーナが隙のない作り笑いを張り付けると、ジュストは何も返せず口ごもった。
おそらく何とか理由をつけて、法外な慰謝料でも巻き上げようと企んでいたのだろう。
婚約を結んだ時点から、この男がリリアーナと将来を共にするつもりなどないことはわかっていたが、それはこちらとて同じだ。
不本意ながらジュストの浅はかな考えが手に取るように分かるようになってしまったため、先回りをして動きを封じたのだった。
「本当でしたら、こちらが慰謝料を請求したいくらいですけれど………」
左手を頬に当て、ほうっと悩まし気に溜息をついてから表情を一変させ、ぎろりとジュストを睨みつける。
「金輪際、クラリーチェ様と私に近づかないとお約束いただけるのならば、大人しく何もせず、婚約解消といたしましょう」
これだけの人々の前で釘を刺しておけば、ブラマーニ公爵家とて滅多なことは出来ないはずだろう。
リリアーナは沈黙を守るジュストを見ながら、心の中でほくそ笑んだ。
その一方で、ようやくジュストから念願の言葉を引き出すことが出来たというのに、気持ちは全く晴れなかった。
この男からやっと解放されるというのに、胸を満たすのは、悲しみや不安に近い感情だった。
それが何故なのか。
リリアーナ自身、その理由に気が付き始めていた。
「………こちらが大人しくしていれば、随分と好き勝手な事を言ってくれるじゃない?」
突如艶めかしい声がして、リリアーナはピクリと眉を上げた。
ゆっくりと視線を移すと、そこにはブラマーニ公爵夫妻と、ディアマンテが立っていた。
「何て野蛮な娘なのかしら。………あぁ、可哀想なジュスト………」
腫れ上がったジュストの左頬をブラマーニ公爵夫人がそっと撫で、その傍らに立ったディアマンテがブラマーニ公爵家特有の紫暗色の瞳をリリアーナへと向けた。
「躾のなっていない小娘だと思っていたけれど………ここまでだとはね………。全く、嘆かわしいこと。………自分が何をしたのか、分かっているのかしら?」
ディアマンテの氷のような侮蔑の視線が肌に突き刺さるようだったが、リリアーナは全く意に介していない風を装った。
「お兄様、私はジュストの判断を支持致しますわ。このような娘は未来の国王には相応しくありませんもの」
ディアマンテはもう一度リリアーナを睨むと、わざと「未来の国王」という言葉を強調するように言い放った瞬間、クラリーチェの淡い紫色の瞳に、俄かに怒りが滲むのをリリアーナは見た。
「お言葉ですが、ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告もなしに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
クラリーチェの声は、驚くほど冷静に感じられた。
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのはブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
ディアマンテが口にした言葉は予想はしていたことだったが、リリアーナは嫌悪感が込み上げてくるのを禁じえなかった。
リリアーナは再び己の感情を抑え込むと、余裕すらも窺わせる態度でジュストに立ち向かった。
「何だと………?」
「あら、ご存じないのかしら?一方的に婚約を取り消す場合は婚約破棄ですけれど、双方合意の上ならば、婚約解消になりますの。………尤もその場合は、慰謝料などは請求できませんけれど………まさかブラマーニ公爵家ともなれば、慰謝料など全くアテにしていないでしょうけれどね」
リリアーナが隙のない作り笑いを張り付けると、ジュストは何も返せず口ごもった。
おそらく何とか理由をつけて、法外な慰謝料でも巻き上げようと企んでいたのだろう。
婚約を結んだ時点から、この男がリリアーナと将来を共にするつもりなどないことはわかっていたが、それはこちらとて同じだ。
不本意ながらジュストの浅はかな考えが手に取るように分かるようになってしまったため、先回りをして動きを封じたのだった。
「本当でしたら、こちらが慰謝料を請求したいくらいですけれど………」
左手を頬に当て、ほうっと悩まし気に溜息をついてから表情を一変させ、ぎろりとジュストを睨みつける。
「金輪際、クラリーチェ様と私に近づかないとお約束いただけるのならば、大人しく何もせず、婚約解消といたしましょう」
これだけの人々の前で釘を刺しておけば、ブラマーニ公爵家とて滅多なことは出来ないはずだろう。
リリアーナは沈黙を守るジュストを見ながら、心の中でほくそ笑んだ。
その一方で、ようやくジュストから念願の言葉を引き出すことが出来たというのに、気持ちは全く晴れなかった。
この男からやっと解放されるというのに、胸を満たすのは、悲しみや不安に近い感情だった。
それが何故なのか。
リリアーナ自身、その理由に気が付き始めていた。
「………こちらが大人しくしていれば、随分と好き勝手な事を言ってくれるじゃない?」
突如艶めかしい声がして、リリアーナはピクリと眉を上げた。
ゆっくりと視線を移すと、そこにはブラマーニ公爵夫妻と、ディアマンテが立っていた。
「何て野蛮な娘なのかしら。………あぁ、可哀想なジュスト………」
腫れ上がったジュストの左頬をブラマーニ公爵夫人がそっと撫で、その傍らに立ったディアマンテがブラマーニ公爵家特有の紫暗色の瞳をリリアーナへと向けた。
「躾のなっていない小娘だと思っていたけれど………ここまでだとはね………。全く、嘆かわしいこと。………自分が何をしたのか、分かっているのかしら?」
ディアマンテの氷のような侮蔑の視線が肌に突き刺さるようだったが、リリアーナは全く意に介していない風を装った。
「お兄様、私はジュストの判断を支持致しますわ。このような娘は未来の国王には相応しくありませんもの」
ディアマンテはもう一度リリアーナを睨むと、わざと「未来の国王」という言葉を強調するように言い放った瞬間、クラリーチェの淡い紫色の瞳に、俄かに怒りが滲むのをリリアーナは見た。
「お言葉ですが、ブラマーニ公爵子息様が未来の国王と決まったわけではございませんのに、それを断言するというのは、どういったご了見でしょうか?まさか、議会も通さず、大司祭への報告もなしに国王を挿げ替えようとなされているのですか?」
クラリーチェの声は、驚くほど冷静に感じられた。
「………クラリーチェ様も頑固ねぇ。先程フェラーラ侯爵やジュストが言った通り、エドアルドが存命である見込みはないのよ?そして、次に玉座に相応しいのはブラマーニ公爵よ。その息子を『将来の国王』と表現して何が悪いというのかしら?………もしかしてあなた、焦っているのかしら?エドアルドが死んだらもうこの王宮にいられなくなるから?………それなら心配いらないわ。あなたはジュストの妃になるのだもの」
ディアマンテが口にした言葉は予想はしていたことだったが、リリアーナは嫌悪感が込み上げてくるのを禁じえなかった。
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