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リリアーナ編
77.邂逅
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一頻りマリカとの会話を楽しんだリリアーナは、帰りの馬車の手配して貰い、部屋を後にした。
マリカは王宮の門まで送ると申し出てくれたが、彼女はラファエロの侍女だ。そこまでしてもらうのは申し訳なくて、リリアーナは丁重にその申し出を断ると、ゆったりとした足取りでキエザ王宮の廊下を彷徨うように歩いた。
「今日は本当に、とんでもない一日だったわ………」
開港祭の開幕と海上での事故、ブラマーニ家の王位簒奪演説、国王兄弟の帰還とブラマーニ家の断罪、そしてジュストとの婚約解消。
一日に起きる出来事としてはあまりにも濃密過ぎる。
絶望と哀惜。憎悪と軽蔑、そして高揚感と幸福感。
リリアーナの感情も目まぐるしく揺れ動いた。
だが結局、今自分の胸を支配しているのは、全く別の感情だった。
足元を見ながら切なげに溜息をついて、顔を上げると、こちらの方へ向かってくるラファエロの姿を見つけた。
「まあ、王弟殿下」
偶然、というには絶妙すぎるタイミングで現れたラファエロに、リリアーナの心臓が強く跳ね上がる。
嬉しくて声を掛けたのは良いが、何を話せばいいのかと困っていると、ラファエロがにこやかに歩み寄ってきた。
「リリアーナ嬢。手の怪我は、大丈夫ですか?」
彼は今、自分にどんな感情を抱いているのだろう。
そんな事を考えて、ふと、断罪の場でのジュストへの言動を思い出し、恥ずかしくなって俯いた。
(………きっと、下品で野蛮な女だと思われてしまったわよね………)
冷静になって思い返し、リリアーナは慌てて謝罪の言葉を口にする。
「その、色々とお見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした」
するとラファエロは少し驚いたようにエメラルド色の双眸を見開くと、もう一度ふわりと微笑んだ。
「見苦しいだなんて思っておりませんよ。それに個人的には強い女性は好きですし」
「え…………」
リリアーナは、はっと目を見開いた。
先程マリカが言っていた言葉が蘇ってくる。
それが余計にラファエロを意識させ、リリアーナは動揺を隠せなかった。
いつもならば社交辞令の言葉がすらすらと出てくるのに、今日に限って何も浮かんでこない。
まるで自分が自分でなくなってしまったかのような錯覚すら覚えた。
「………リリアーナ嬢は、これからどうするおつもりですか?」
そんなリリアーナの心の内を見透かしたかのように、ラファエロが尋ねてきた。
「………無事に父の思惑通りにあの狂人と婚約解消も出来たことですし、暫くはクラリーチェ様と更に親交を深めながらゆっくり嫁ぎ先を探すつもりですわ」
リリアーナはラファエロの表情を伺いながら、答えた。
それは嘘ではないが、本心でもない。
いっそこの場で、全てを吐き出してしまえたらどんなにいいだろう。
「………なるほど」
するとラファエロは、何故か満足そうな笑みを浮かべたのだった。
マリカは王宮の門まで送ると申し出てくれたが、彼女はラファエロの侍女だ。そこまでしてもらうのは申し訳なくて、リリアーナは丁重にその申し出を断ると、ゆったりとした足取りでキエザ王宮の廊下を彷徨うように歩いた。
「今日は本当に、とんでもない一日だったわ………」
開港祭の開幕と海上での事故、ブラマーニ家の王位簒奪演説、国王兄弟の帰還とブラマーニ家の断罪、そしてジュストとの婚約解消。
一日に起きる出来事としてはあまりにも濃密過ぎる。
絶望と哀惜。憎悪と軽蔑、そして高揚感と幸福感。
リリアーナの感情も目まぐるしく揺れ動いた。
だが結局、今自分の胸を支配しているのは、全く別の感情だった。
足元を見ながら切なげに溜息をついて、顔を上げると、こちらの方へ向かってくるラファエロの姿を見つけた。
「まあ、王弟殿下」
偶然、というには絶妙すぎるタイミングで現れたラファエロに、リリアーナの心臓が強く跳ね上がる。
嬉しくて声を掛けたのは良いが、何を話せばいいのかと困っていると、ラファエロがにこやかに歩み寄ってきた。
「リリアーナ嬢。手の怪我は、大丈夫ですか?」
彼は今、自分にどんな感情を抱いているのだろう。
そんな事を考えて、ふと、断罪の場でのジュストへの言動を思い出し、恥ずかしくなって俯いた。
(………きっと、下品で野蛮な女だと思われてしまったわよね………)
冷静になって思い返し、リリアーナは慌てて謝罪の言葉を口にする。
「その、色々とお見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした」
するとラファエロは少し驚いたようにエメラルド色の双眸を見開くと、もう一度ふわりと微笑んだ。
「見苦しいだなんて思っておりませんよ。それに個人的には強い女性は好きですし」
「え…………」
リリアーナは、はっと目を見開いた。
先程マリカが言っていた言葉が蘇ってくる。
それが余計にラファエロを意識させ、リリアーナは動揺を隠せなかった。
いつもならば社交辞令の言葉がすらすらと出てくるのに、今日に限って何も浮かんでこない。
まるで自分が自分でなくなってしまったかのような錯覚すら覚えた。
「………リリアーナ嬢は、これからどうするおつもりですか?」
そんなリリアーナの心の内を見透かしたかのように、ラファエロが尋ねてきた。
「………無事に父の思惑通りにあの狂人と婚約解消も出来たことですし、暫くはクラリーチェ様と更に親交を深めながらゆっくり嫁ぎ先を探すつもりですわ」
リリアーナはラファエロの表情を伺いながら、答えた。
それは嘘ではないが、本心でもない。
いっそこの場で、全てを吐き出してしまえたらどんなにいいだろう。
「………なるほど」
するとラファエロは、何故か満足そうな笑みを浮かべたのだった。
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