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ラファエロ編
22.ジュストとリリアーナ
衝撃が走ったのはその直後だった。
エドアルドたちの元へとブラマーニ公爵とジュストが近づいていったのだ。
「殿下………」
「分かっています。何が目的なのか分かりませんが、まだ手出しはしないようにして下さい。こちらが不利になりますからね」
静かに騎士たちに指示を出し、じっと事の成り行きを見守るラファエロだったが、暫くやり取りが続いた後、あろうことかジュストがクラリーチェをエスコートして広間の中央へと進み出てきたのを見て言葉を失った。
「おい、あれ………」
周囲がざわつくのを気に留める様子もなく、どこか得意げな表情のジュストに、ラファエロは腹の奥から湧き上がるような怒りと嫌悪感を抱いた。
婚約者のある身なら、ファーストダンスは婚約者と踊るのが礼儀だ。
それを無視するということは、婚約者であるリリアーナを愚弄しているという事だった。
それに、相手に選んだのがクラリーチェだという事も気に入らなかった。
彼女は、エドアルドがずっと恋い焦がれ、漸く手に入れた最愛の女性だ。そんな彼女に気安く触れるなど、言語道断ではないか。
そんな事態を招いたエドアルドにも、そして止められなかった自分自身にも苛立ちを感じながら、ラファエロは引き攣った笑みを浮べるクラリーチェを悲痛な思いで見つめながら曲が終わるのをじっと待ち続けるのだった。
意外にもすんなりとジュストはクラリーチェを解放した。流石にエドアルドの機嫌をこれ以上損ねるほど莫迦ではないようだった。
そんなジュストを目で追うと、今度は何と、リリアーナの方へと歩み寄っていくではないか。
一体どういう神経をしているのかと首を傾げながら、ラファエロは思わずリリアーナたちの方へと足を向けていた。
「やあ、リリアーナ。探したよ」
優しそうな笑顔を浮かべるジュストに、リリアーナは悲しそうに顔を顰めていた。
「あら、美しい姫君に見惚れていらっしゃって、私のような平凡な娘には興味がないのかと思っておりましたわ」
「…………っ、私にとって婚約者である君以上の存在などいるはずがないだろう?」
こうして会話を聞いているとまるでクラリーチェと踊った事に嫉妬しているように聞こえるが、全く心が籠もっていない事に、ラファエロは薄っすらと笑みを浮かべた。
賢いリリアーナは、ジュストをやり込めようとしているのだろう。その作戦が功を奏したのか、上手く嘘が浮かんでこなかったらしく、一瞬ジュストは言葉に詰まったように聞こえた。
「あら、嬉しい事を仰ってくださるのですね?………その婚約者にファーストダンスを申し込む事なく、国王陛下の婚約者にダンスを申し込むだなんて、非常識にも程があると思いますけれど………他ならぬジュスト様がそう仰られるのであれば、今度はジュスト様がきちんと手順通りに物事を進められるように教えて差し上げますわね?」
リリアーナはふふっと可愛らしい笑顔を浮かべると、その笑顔を向けられたジュストの方が怒りで頬を赤く染め上げていく様子を、ラファエロはじっと観察する。
ジュストが感情的になるのは珍しい事だった。
いつも上辺を取り繕い、凶暴な本性を隠しているからだ。
その化けの皮を剥がすとは、やはりリリアーナは只の令嬢ではない。
「…………私を愚弄する気か?」
「愚弄?私はただ事実を述べただけですわ」
リリアーナが可愛らしく小首を傾げるのを見て、ラファエロはもう一歩二人との距離を詰める。
「………お前が、クラリーチェ姫の足元にも及ばないという事実に嫉妬しているんだな?見苦しいぞ」
「………嫉妬?仰られる意味がわかりませんわ。何故私が、政略的な婚約者であるジュスト様のために嫉妬などしなければならないのです?」
それは、暗に『お前のことは興味がない』と言っているらしく、ジュストは更に怒りに震えたようだった。
不穏な空気を感じ、ラファエロはもう一歩、リリアーナの方へと距離を詰めた。
エドアルドたちの元へとブラマーニ公爵とジュストが近づいていったのだ。
「殿下………」
「分かっています。何が目的なのか分かりませんが、まだ手出しはしないようにして下さい。こちらが不利になりますからね」
静かに騎士たちに指示を出し、じっと事の成り行きを見守るラファエロだったが、暫くやり取りが続いた後、あろうことかジュストがクラリーチェをエスコートして広間の中央へと進み出てきたのを見て言葉を失った。
「おい、あれ………」
周囲がざわつくのを気に留める様子もなく、どこか得意げな表情のジュストに、ラファエロは腹の奥から湧き上がるような怒りと嫌悪感を抱いた。
婚約者のある身なら、ファーストダンスは婚約者と踊るのが礼儀だ。
それを無視するということは、婚約者であるリリアーナを愚弄しているという事だった。
それに、相手に選んだのがクラリーチェだという事も気に入らなかった。
彼女は、エドアルドがずっと恋い焦がれ、漸く手に入れた最愛の女性だ。そんな彼女に気安く触れるなど、言語道断ではないか。
そんな事態を招いたエドアルドにも、そして止められなかった自分自身にも苛立ちを感じながら、ラファエロは引き攣った笑みを浮べるクラリーチェを悲痛な思いで見つめながら曲が終わるのをじっと待ち続けるのだった。
意外にもすんなりとジュストはクラリーチェを解放した。流石にエドアルドの機嫌をこれ以上損ねるほど莫迦ではないようだった。
そんなジュストを目で追うと、今度は何と、リリアーナの方へと歩み寄っていくではないか。
一体どういう神経をしているのかと首を傾げながら、ラファエロは思わずリリアーナたちの方へと足を向けていた。
「やあ、リリアーナ。探したよ」
優しそうな笑顔を浮かべるジュストに、リリアーナは悲しそうに顔を顰めていた。
「あら、美しい姫君に見惚れていらっしゃって、私のような平凡な娘には興味がないのかと思っておりましたわ」
「…………っ、私にとって婚約者である君以上の存在などいるはずがないだろう?」
こうして会話を聞いているとまるでクラリーチェと踊った事に嫉妬しているように聞こえるが、全く心が籠もっていない事に、ラファエロは薄っすらと笑みを浮かべた。
賢いリリアーナは、ジュストをやり込めようとしているのだろう。その作戦が功を奏したのか、上手く嘘が浮かんでこなかったらしく、一瞬ジュストは言葉に詰まったように聞こえた。
「あら、嬉しい事を仰ってくださるのですね?………その婚約者にファーストダンスを申し込む事なく、国王陛下の婚約者にダンスを申し込むだなんて、非常識にも程があると思いますけれど………他ならぬジュスト様がそう仰られるのであれば、今度はジュスト様がきちんと手順通りに物事を進められるように教えて差し上げますわね?」
リリアーナはふふっと可愛らしい笑顔を浮かべると、その笑顔を向けられたジュストの方が怒りで頬を赤く染め上げていく様子を、ラファエロはじっと観察する。
ジュストが感情的になるのは珍しい事だった。
いつも上辺を取り繕い、凶暴な本性を隠しているからだ。
その化けの皮を剥がすとは、やはりリリアーナは只の令嬢ではない。
「…………私を愚弄する気か?」
「愚弄?私はただ事実を述べただけですわ」
リリアーナが可愛らしく小首を傾げるのを見て、ラファエロはもう一歩二人との距離を詰める。
「………お前が、クラリーチェ姫の足元にも及ばないという事実に嫉妬しているんだな?見苦しいぞ」
「………嫉妬?仰られる意味がわかりませんわ。何故私が、政略的な婚約者であるジュスト様のために嫉妬などしなければならないのです?」
それは、暗に『お前のことは興味がない』と言っているらしく、ジュストは更に怒りに震えたようだった。
不穏な空気を感じ、ラファエロはもう一歩、リリアーナの方へと距離を詰めた。
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