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ラファエロ編
85.グロッシ侯爵邸へ
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マリカからの知らせを受けてリリアーナのいる客室へと向かったラファエロの目に、深緑色のドレスを美しく着こなしたリリアーナの姿が飛び込んできた。
「思った通り、あなたの綺麗なストロベリーブロンドの髪には深緑色が良く似合いますね。素敵ですよ」
ふわりと微笑みを浮かべたラファエロは、感嘆の溜息を漏らした。
「まあ………お上手ですわね」
お世辞だと思ったらしいリリアーナだが、ほんのりと頬を染め、嬉しそうに微笑み返してくれる。
「………やはり、名残惜しいですね」
そんな彼女を見て、このままずっと王宮に残って欲しいという欲が頭を擡げてきて、ラファエロは寂しげな表情を浮かべながらつい本心を零した。
「殿下。物事には順序というものがございますよ。それを努々お忘れなきよう」
マリカの笑みが凄味を帯びる。
やはり、マリカは全てお見通しのようだと、ラファエロは心の中で嗤う。
「……わざわざ忠告されずとも、解っていますよ。出来る事ならこのまま王宮に留まって頂きたいですが仕方ありませんね。屋敷までお送りしましょう」
そう言って心底残念そうに微笑むと、ラファエロは徐にリリアーナの手を取った。
「遣いを出していただければ、家から迎えが参りますので、殿下のお手を煩わせなくても………」
「リリアーナ嬢、呼び方が間違っていますよ?」
『殿下』という単語に敏感に反応したラファエロが素早くリリアーナを嗜める。
「それに、遣いをやるよりもお送りした方が早いですから。時間には限りがありますから、有効に使わないといけません」
そう。一刻も早く、あなたを私のものにするためにーーー。
そう心の中で付け足すと、ラファエロは含みのある笑いを浮かべ、リリアーナを扉の方へと導いた。
「それでもわざわざラファエロ様に送って頂かなくても………」
「私がそうして差し上げたいのです。それに、グロッシ侯爵にも用事がありますからね」
リリアーナに出会った当初、グロッシ侯爵と話した時には既に侯爵はラファエロの思惑に気がついているようだったが、だからといって一筋縄ではいかない、厄介な相手に違いなかった。
エメラルド色の双眸に、静かな闘争心を宿しながら、ラファエロはリリアーナの手を取ってグロッシ侯爵邸へと向かうのだった。
※※※
用意された馬車の中は和やかな雰囲気だったが、どこか上の空な様子のリリアーナに、ラファエロは心配そうに声をかけた。
「昨日の夜は遅くまで付き合わせてしまって、却って疲れさせてしまったようですね」
俯くリリアーナの顔を覗き込みながらそっと彼女の頬に手を添える。
「………っ!」
その瞬間、リリアーナがはっと身を強張らせ、顔を紅潮させた。
もしかして、緊張しているのだろうか。
そんなリリアーナの様子にラファエロはふっと頬を緩めた。
丁度その時、馬車が緩やかに停車した。
「おや、もう着いてしまいましたか」
残念そうに呟くと、ラファエロはにこりとリリアーナに向ける笑顔を浮かべ直した。
しかし、リリアーナは何故かぎこちない笑みを返してくる。
いつもは気丈な彼女の、おちつかない様子に、彼女は自分が今から婚約を申し込もうとしている事に気がついているのだろうかと思いながら、先に馬車を降りると彼女の緊張が少しでも解れるようにと願いを込めるように手を差し出した。
「あ………ありがとうございます」
恥ずかしそうに紡がれるか細い声が堪らなく愛おしくて、ラファエロは目を細めた。
「殿下!」
タイミングを見計らったかのようにグロッシ侯爵が驚いた様子で駆け寄ってきた。
「グロッシ侯爵。大切なご息女をお預かりさせていただきありがとうございました」
ラファエロはにっこりと笑顔を浮かべる。
「滅相もございません。むしろお礼を申し上げなければならないのは私の方ですよ。胸がすく思いとはこういうことを言うのですな」
グロッシ侯爵自身も、ブラマーニ家には辛酸を舐めさせられて来たのだろう。
ラファエロはグロッシ侯爵の反応にただ頷いた。
「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞ中にお入りください」
おそらくグロッシ侯爵はラファエロが何の用件で訪ねてきたのかをわかっているのだろう。
グロッシ侯爵とリリアーナに付いて、ラファエロは屋敷へと足を踏み入れた。
「グロッシ侯爵邸を訪れたのは初めてですが、よく手入れされていてとても美しいですね。とても気持ちが安らぎます」
「殿下にお褒めいただけるとは光栄です。………あの小僧は何だかんだとケチを付けるきりで褒めた事など一度もありませんでしたよ。………愚者は何処までも愚者であり、目先の欲に惑わされ、本物の価値は理解できないらしい」
グロッシ侯爵は莫迦にしたように吐き捨てると、応接室の扉の前で立ち止まり、ちらりとリリアーナを見た。
「リリアーナ。お前は一旦部屋に戻っていなさい。後でまた呼ぶ」
「………はい、お父様。………それではラファエロ様、色々とありがとうございました」
ラファエロが口を出すまでもなく、リリアーナに席を外させるグロッシ侯爵の鋭さに感心しながら、ラファエロは黙ったまま、親子の会話を見つめていた。
「思った通り、あなたの綺麗なストロベリーブロンドの髪には深緑色が良く似合いますね。素敵ですよ」
ふわりと微笑みを浮かべたラファエロは、感嘆の溜息を漏らした。
「まあ………お上手ですわね」
お世辞だと思ったらしいリリアーナだが、ほんのりと頬を染め、嬉しそうに微笑み返してくれる。
「………やはり、名残惜しいですね」
そんな彼女を見て、このままずっと王宮に残って欲しいという欲が頭を擡げてきて、ラファエロは寂しげな表情を浮かべながらつい本心を零した。
「殿下。物事には順序というものがございますよ。それを努々お忘れなきよう」
マリカの笑みが凄味を帯びる。
やはり、マリカは全てお見通しのようだと、ラファエロは心の中で嗤う。
「……わざわざ忠告されずとも、解っていますよ。出来る事ならこのまま王宮に留まって頂きたいですが仕方ありませんね。屋敷までお送りしましょう」
そう言って心底残念そうに微笑むと、ラファエロは徐にリリアーナの手を取った。
「遣いを出していただければ、家から迎えが参りますので、殿下のお手を煩わせなくても………」
「リリアーナ嬢、呼び方が間違っていますよ?」
『殿下』という単語に敏感に反応したラファエロが素早くリリアーナを嗜める。
「それに、遣いをやるよりもお送りした方が早いですから。時間には限りがありますから、有効に使わないといけません」
そう。一刻も早く、あなたを私のものにするためにーーー。
そう心の中で付け足すと、ラファエロは含みのある笑いを浮かべ、リリアーナを扉の方へと導いた。
「それでもわざわざラファエロ様に送って頂かなくても………」
「私がそうして差し上げたいのです。それに、グロッシ侯爵にも用事がありますからね」
リリアーナに出会った当初、グロッシ侯爵と話した時には既に侯爵はラファエロの思惑に気がついているようだったが、だからといって一筋縄ではいかない、厄介な相手に違いなかった。
エメラルド色の双眸に、静かな闘争心を宿しながら、ラファエロはリリアーナの手を取ってグロッシ侯爵邸へと向かうのだった。
※※※
用意された馬車の中は和やかな雰囲気だったが、どこか上の空な様子のリリアーナに、ラファエロは心配そうに声をかけた。
「昨日の夜は遅くまで付き合わせてしまって、却って疲れさせてしまったようですね」
俯くリリアーナの顔を覗き込みながらそっと彼女の頬に手を添える。
「………っ!」
その瞬間、リリアーナがはっと身を強張らせ、顔を紅潮させた。
もしかして、緊張しているのだろうか。
そんなリリアーナの様子にラファエロはふっと頬を緩めた。
丁度その時、馬車が緩やかに停車した。
「おや、もう着いてしまいましたか」
残念そうに呟くと、ラファエロはにこりとリリアーナに向ける笑顔を浮かべ直した。
しかし、リリアーナは何故かぎこちない笑みを返してくる。
いつもは気丈な彼女の、おちつかない様子に、彼女は自分が今から婚約を申し込もうとしている事に気がついているのだろうかと思いながら、先に馬車を降りると彼女の緊張が少しでも解れるようにと願いを込めるように手を差し出した。
「あ………ありがとうございます」
恥ずかしそうに紡がれるか細い声が堪らなく愛おしくて、ラファエロは目を細めた。
「殿下!」
タイミングを見計らったかのようにグロッシ侯爵が驚いた様子で駆け寄ってきた。
「グロッシ侯爵。大切なご息女をお預かりさせていただきありがとうございました」
ラファエロはにっこりと笑顔を浮かべる。
「滅相もございません。むしろお礼を申し上げなければならないのは私の方ですよ。胸がすく思いとはこういうことを言うのですな」
グロッシ侯爵自身も、ブラマーニ家には辛酸を舐めさせられて来たのだろう。
ラファエロはグロッシ侯爵の反応にただ頷いた。
「こんな所で立ち話もなんですから、どうぞ中にお入りください」
おそらくグロッシ侯爵はラファエロが何の用件で訪ねてきたのかをわかっているのだろう。
グロッシ侯爵とリリアーナに付いて、ラファエロは屋敷へと足を踏み入れた。
「グロッシ侯爵邸を訪れたのは初めてですが、よく手入れされていてとても美しいですね。とても気持ちが安らぎます」
「殿下にお褒めいただけるとは光栄です。………あの小僧は何だかんだとケチを付けるきりで褒めた事など一度もありませんでしたよ。………愚者は何処までも愚者であり、目先の欲に惑わされ、本物の価値は理解できないらしい」
グロッシ侯爵は莫迦にしたように吐き捨てると、応接室の扉の前で立ち止まり、ちらりとリリアーナを見た。
「リリアーナ。お前は一旦部屋に戻っていなさい。後でまた呼ぶ」
「………はい、お父様。………それではラファエロ様、色々とありがとうございました」
ラファエロが口を出すまでもなく、リリアーナに席を外させるグロッシ侯爵の鋭さに感心しながら、ラファエロは黙ったまま、親子の会話を見つめていた。
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