猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

11.翻弄

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「さて、リリアーナ」
「きゃっ………」

馬車が見えなくなると、ラファエロはいきなりリリアーナを抱え上げ、ふわりと微笑む。

「兄上たちも無事に発った事ですし、我々は我々で過ごすことにしますか」
「はい。まずはお仕事を片付けなければ行けませんわね」

リリアーナが笑顔を浮かべると、ラファエロは意味ありげな笑みを返してきた。

「そんなに急いでやらなければいけない仕事などありませんよ」
「え?」

思いがけない言葉に、リリアーナはきょとんとする。
エドアルド達の執務代行をするのだと思ってばかりいたのだが、どうやらそうではないらしい。

「ですが、執務の代行は………?」

怪訝そうに眉を顰めるとラファエロはふふ、と小さく笑い声を上げる。

「流石に国王の仕事を全て代行するわけではありません。緊急の案件のみ対応するだけですよ。兄上も自分が遊びに行くのに仕事を私達に押し付けるような事はしませんよ」
「そうだったのですね………。私はてっきり………」

確かにクラリーチェの仕事の手伝いはしたが、不在中に仕事をしておいてくれと頼まれた覚えはなかった。
ということは、自分が勝手にそう思い込んで勘違いをしていたのだろうか。

「あなたは真面目ですね。そんなふうに気負わなくても大丈夫ですよ。兄上からも、『お前たちも休める時にゆっくりと羽を伸ばしておけ』と言われましたからね。…………というわけで」

ラファエロはリリアーナを抱き上げたままくるりと踵を返すと、足早に歩き始めた。

「あの、どちらへ…………?」

もうこうして持ち運ばれる事に慣れつつあった。

「それは、ついてからのお楽しみです」

いたずらっぽく片目を瞑って見せる。
また、何か企んでいるのだろうということが伺い知れて、リリアーナは呆れたように、微笑んだ。

「本当に秘密になさるのがお好きですわね」
「ただ、あなたの喜ぶ顔が見たいだけですよ」

ラファエロのエメラルド色の双眸が間近に迫ってきて、リリアーナの心臓がまたどきりと跳ね上がる。

そうやって、ふとした仕草や言葉に翻弄されるのが自分だけだということが悔しい。
だが、いつかは自分も母のように、ラファエロの言動を窘めたり、上手くあしらったりすることが出来るようになるのだろうか。
そんなことを考えながら、リリアーナはそっと頭をラファエロの肩に凭れ掛け、そっと目を瞑るのだった。
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