冷遇側妃の幸せな結婚

玉響

文字の大きさ
260 / 269
番外編

ミモザの花と春の訪れ

しおりを挟む
キエザの冬は、厳しいとは言わないまでも、底冷えするような寒さの日が続く。
長く残ることは珍しいが雪も降るし、霜が降りたり、霧が発生する日も多い。
そんな冬がようやく終わりに近づいてきた、ある日のこと。

「クラリーチェ、戻ったぞ」

慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと、執務室の扉が開け放たれ、エドアルドが姿を現した。

「お帰りなさいませ。港の様子はいかがでしたか?」

クラリーチェは立ち上がり、机の前まで進み出ると夫を出迎えた。

「ああ、特に問題はなかった。メルルッツォが今期は豊漁だそうだ」
「それは喜ばしいことですね」

クラリーチェが微笑むと、エドアルドもそれにつられるように笑みを浮かべる。
そして徐に、羽織っていたマントの下から小さな花束を取り出すと、クラリーチェに差し出した。

「………港からの帰り道で、たまたま見つけたのだが………受け取ってくれるか?」
「まあ………これは、ミモザの花束ですか?」

差し出された花束を受け取りながら、クラリーチェは目を見開いた。
黄色い小さな綿毛のような小花が、オリーヴの葉と共に水色のリボンで束ねられていた。

「ああ。港の入り口にある花屋の店先で見かけて、たまには花の贈り物も良いだろうと思ったのだ。………その花屋の店主から教えてもらったのだが………ミモザの花言葉は『感謝』なのだそうだ。いつも私を隣で支えてくれる素晴らしい妃に、感謝の気持ちを伝えるには丁度いいだろう?」
「感謝だなんて………私がエドアルド様をお支えするのは、当然の事ですわ。だって、夫婦とはそういうものでしょう?でも………ありがとうございます。嬉しいですわ。………まるでここだけ、春がやってきたような華やかさがありますね」

クラリーチェがすうっと息を吸い込むと、ミモザの優しくて甘い香りが鼻孔を擽った。
それだけで、本当に南風が室内を吹き抜けていくような錯覚に囚われた。

「ミモザは春の訪れを告げる花だからな。机に飾っておけば楽しめるだろう」

可愛らしい、たわわに実る黄色い葡萄のような花を愛おしげに見つめるクラリーチェの反応に、エドアルドは満足そうに笑みを零す。

「………春は、もうすぐそこまで来ているのですね」
「ああ。暖かくなったら、また出掛けよう。今度はラファエロ達も一緒でもいい」
「でも、政務はどうされるのですか?」
「二、三日くらいなら、宰相やグロッシ侯爵たちで十分だ。我が国の貴族達は皆有能だからな」

そう言って悪戯っぽく片目を瞑って見せるエドアルドに、クラリーチェも笑顔を浮かべて頷いた。

「そうですね。春が来たら、参りましょうか」

クラリーチェがふと花束から、窓の方へと視線を移す。
大きな窓から差し込む陽射しは、いつの間にか柔らかな春の気配を纏っているように見える。

「ああ。楽しみだな」

エドアルドはそんなクラリーチェに寄り添うと、優しく額に口付けを落とすのだった。




***あとがき***

いつもお読みいただきありがとうございます!
今日は国際女性デー。イタリアでは男性から女性に、ミモザを贈る日なのだそうです。
作者も大好きな花であるミモザをテーマにしたお話です。
お楽しみ頂ければ嬉しいです!
しおりを挟む
感想 643

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。