72 / 230
72.苦しみ
しおりを挟む
誰もが寝静まっているらしく、辺りはしんとしていた。
「…………それは、あくまでも可能性でしょう」
ジークは、深く大きな溜息をついた。
アンネリーゼはジークの事を、表情の乏しい人だと思っていたが、彼を観察するうちに、どうやらそうではないらしいということに気がついた。
ジークは、表情こそ殆ど動かないが、茶色い瞳には、喜怒哀楽の様々な感情が浮かび上がるという事を知ったからだった。
「それに、クレーデル伯爵………或いはクレーデル伯爵子息が何らかの恨みを買い、命を狙われ、そのための『餌』として利用された、という可能性だって否定はできないでしょう?」
ジークの考察は、正論だった。
それでも彼が命を落とすことになったきっかけはあくまでも自分にあると思うと、罪悪感が襲ってきた。
「………それでも、同じことです。わたくし自身が原因でルートヴィヒ様が命を落とすことになった事実に変わりはありませんもの………」
「………自分自身をそうまでして責め続けるのは、罪の意識から逃れたいからですか………?」
「え………?」
アンネリーゼは驚いて顔をぱっと上げる。
ちょうど、ジークの背後から眩しいくらいの月光が、ジークを照らし出した。
茶色であるはずの瞳が、金色に見えて、アンネリーゼは驚いて彼を見つめる。
「…………自分を責めても、結局は自分が傷つくだけで、得られるものなど何もない。どんなに責めても、罪の意識が消える訳ではないんだ」
ジークの低い声が妙に大きく部屋の中で響いた。
まるで彼自身がアンネリーゼと同じように、誰か近しい関係の人物を失くした経験でもあるような言い方だった。
いつもの丁寧な口調ではなく、少しぶっきらぼうな口調のせいか、目の前にいるのがジークではなく、別人のような錯覚にすら囚われる。
もしかしたら、ジークも恋人を亡くした経験でもあるのだろうかと考えると、アンネリーゼは胸の奥がちくんと傷んだ。
「…………あ」
ジークを見つめていたアンネリーゼの目から、ぽろりと一粒の涙が零れた。
アンネリーゼ自身何故涙が出てきたのかが分からずに戸惑った。
慌てれば慌てるほどに次々に涙が溢れてくる。
その時、突然ジークの大きな手がアンネリーゼの背中に回され、アンネリーゼの体はジークの腕の中に閉じ込められていた。
「じ、ジーク様………っ?」
思いもよらないジークの行動に、アンネリーゼが戸惑いの声を上げると、ジークはそれに応えるかのようにぎゅっと力を込めた。
「………あなたの不安や苦しみを………、全て消してしまえればいいのに…………」
苦しそうに、ジークの声が耳元でそう囁いた直後、アンネリーゼは急激な眠気に襲われ、意識を手放した。
「…………それは、あくまでも可能性でしょう」
ジークは、深く大きな溜息をついた。
アンネリーゼはジークの事を、表情の乏しい人だと思っていたが、彼を観察するうちに、どうやらそうではないらしいということに気がついた。
ジークは、表情こそ殆ど動かないが、茶色い瞳には、喜怒哀楽の様々な感情が浮かび上がるという事を知ったからだった。
「それに、クレーデル伯爵………或いはクレーデル伯爵子息が何らかの恨みを買い、命を狙われ、そのための『餌』として利用された、という可能性だって否定はできないでしょう?」
ジークの考察は、正論だった。
それでも彼が命を落とすことになったきっかけはあくまでも自分にあると思うと、罪悪感が襲ってきた。
「………それでも、同じことです。わたくし自身が原因でルートヴィヒ様が命を落とすことになった事実に変わりはありませんもの………」
「………自分自身をそうまでして責め続けるのは、罪の意識から逃れたいからですか………?」
「え………?」
アンネリーゼは驚いて顔をぱっと上げる。
ちょうど、ジークの背後から眩しいくらいの月光が、ジークを照らし出した。
茶色であるはずの瞳が、金色に見えて、アンネリーゼは驚いて彼を見つめる。
「…………自分を責めても、結局は自分が傷つくだけで、得られるものなど何もない。どんなに責めても、罪の意識が消える訳ではないんだ」
ジークの低い声が妙に大きく部屋の中で響いた。
まるで彼自身がアンネリーゼと同じように、誰か近しい関係の人物を失くした経験でもあるような言い方だった。
いつもの丁寧な口調ではなく、少しぶっきらぼうな口調のせいか、目の前にいるのがジークではなく、別人のような錯覚にすら囚われる。
もしかしたら、ジークも恋人を亡くした経験でもあるのだろうかと考えると、アンネリーゼは胸の奥がちくんと傷んだ。
「…………あ」
ジークを見つめていたアンネリーゼの目から、ぽろりと一粒の涙が零れた。
アンネリーゼ自身何故涙が出てきたのかが分からずに戸惑った。
慌てれば慌てるほどに次々に涙が溢れてくる。
その時、突然ジークの大きな手がアンネリーゼの背中に回され、アンネリーゼの体はジークの腕の中に閉じ込められていた。
「じ、ジーク様………っ?」
思いもよらないジークの行動に、アンネリーゼが戸惑いの声を上げると、ジークはそれに応えるかのようにぎゅっと力を込めた。
「………あなたの不安や苦しみを………、全て消してしまえればいいのに…………」
苦しそうに、ジークの声が耳元でそう囁いた直後、アンネリーゼは急激な眠気に襲われ、意識を手放した。
11
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
覇王に執着される傾国の男装騎士〜忘却の接吻を、愛しき宿敵へ〜
甘塩ます☆
恋愛
男装騎士アーサーは、かつての宿敵・カイル王に捕らわれ、「専属メイド」として屈辱的な奉仕を命じられる。しかし、復讐のために自分を弄ぶはずのカイルが向けたのは、狂気にも似た深い愛だった。
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】お父様(悪人顔・強面)似のウブな辺境伯令嬢は白い?結婚を望みます。
カヨワイさつき
恋愛
魔物討伐で功績を上げた男勝りの辺境伯の5女は、"子だねがない"とウワサがある王子と政略結婚結婚する事になってしまった。"3年間子ども出来なければ離縁出来る・白い結婚・夜の夫婦生活はダメ"と悪人顔で強面の父(愛妻家で子煩悩)と約束した。だが婚姻後、初夜で……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる