呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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72.苦しみ

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誰もが寝静まっているらしく、辺りはしんとしていた。

「…………それは、あくまでも可能性でしょう」

ジークは、深く大きな溜息をついた。
アンネリーゼはジークの事を、表情の乏しい人だと思っていたが、彼を観察するうちに、どうやらそうではないらしいということに気がついた。
ジークは、表情こそ殆ど動かないが、茶色い瞳には、喜怒哀楽の様々な感情が浮かび上がるという事を知ったからだった。

「それに、クレーデル伯爵………或いはクレーデル伯爵子息が何らかの恨みを買い、命を狙われ、そのための『餌』として利用された、という可能性だって否定はできないでしょう?」

ジークの考察は、正論だった。
それでも彼が命を落とすことになったきっかけはあくまでも自分にあると思うと、罪悪感が襲ってきた。

「………それでも、同じことです。わたくし自身が原因でルートヴィヒ様が命を落とすことになった事実に変わりはありませんもの………」
「………自分自身をそうまでして責め続けるのは、罪の意識から逃れたいからですか………?」
「え………?」

アンネリーゼは驚いて顔をぱっと上げる。
ちょうど、ジークの背後から眩しいくらいの月光が、ジークを照らし出した。
茶色であるはずの瞳が、金色に見えて、アンネリーゼは驚いて彼を見つめる。

「…………自分を責めても、結局は自分が傷つくだけで、得られるものなど何もない。どんなに責めても、罪の意識が消える訳ではないんだ」

ジークの低い声が妙に大きく部屋の中で響いた。
まるで彼自身がアンネリーゼと同じように、誰か近しい関係の人物を失くした経験でもあるような言い方だった。
いつもの丁寧な口調ではなく、少しぶっきらぼうな口調のせいか、目の前にいるのがジークではなく、別人のような錯覚にすら囚われる。
もしかしたら、ジークも恋人を亡くした経験でもあるのだろうかと考えると、アンネリーゼは胸の奥がちくんと傷んだ。

「…………あ」

ジークを見つめていたアンネリーゼの目から、ぽろりと一粒の涙が零れた。
アンネリーゼ自身何故涙が出てきたのかが分からずに戸惑った。
慌てれば慌てるほどに次々に涙が溢れてくる。
その時、突然ジークの大きな手がアンネリーゼの背中に回され、アンネリーゼの体はジークの腕の中に閉じ込められていた。

「じ、ジーク様………っ?」

思いもよらないジークの行動に、アンネリーゼが戸惑いの声を上げると、ジークはそれに応えるかのようにぎゅっと力を込めた。

「………あなたの不安や苦しみを………、全て消してしまえればいいのに…………」

苦しそうに、ジークの声が耳元でそう囁いた直後、アンネリーゼは急激な眠気に襲われ、意識を手放した。
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