呪われた騎士は記憶喪失の乙女に愛を捧げる

玉響

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91.責務

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自分に科せられた責務を、無事に果たしたという達成感と安心感、そして同時に体中を襲う凄まじい疲労感。
体中の筋肉が悲鳴をあげるかのようにビリビリと痺れ、指先の感覚は完全に喪失していた。
人によっては、そのまま意識を失うこともあると聞いたのを、今になって思い出す。

「大丈夫ですか?」

まるで幼子の様にその場に座り込んだアンネリーゼに、真っ先に手を差し伸べたのは、ジークだった。

「ありがとうございます」

何とか立ち上がろうと試みるが、その意志とは裏腹アンネリーゼの身体は自由が利かなかった。

「あ…………」

予めそうなることがわかっていたかのように、ジークはアンネリーゼの身体を軽々と抱き上げた。

「神官殿、儀式は無事に終わったということでよろしいですね?」

祭壇に捧げられた聖杯に、ちらりと視線を投げると、神官は慌てた様子で答えた。

「はい、恙無く」
「ならば、巫女姫様は退出しても構いませんよね?」
「ええ、あとは我々のみで進められますので、お休み頂いて結構です」

ジークは頷くと、アンネリーゼを抱えたまま祭壇に一礼し、そのまま足早に祭壇の間を退出したのだった。


「どうかしましたか?」

じっとジークを見つめていると、その視線に気がついたらしいジークが茶色い瞳を一瞬、アンネリーゼへと向けた。

「あ………いえ、ジーク様は急に護衛騎士になられたというのに、神官様やわたくしよりも儀式を熟知されているような気がして…………」

次に何が起こるのか、どうすべきなのかを知った上で動いているようなジークに対して感じたことを、アンネリーゼは素直に口にした。
するとジークは無言のままほんの少し、息を呑んだようだった。

「………前にもお話したかと思いますが、私は神官であるイェルク殿の親族ですから、護衛騎士に抜擢される前に、彼から色々と教えてもらっていたのです。護衛騎士は、巫女姫の為にある存在。巫女姫を護り、手足となる為の存在なのだと、教えられましたが、その事が役に立ったのでしょう」

茶色の瞳はまっすぐに前を見据えていて、表情も動いていないジークの心情は読み取ることは出来なかったが、アンネリーゼには、ジークが酷く動揺しているように見えた。
いつも冷静で落ち着いた雰囲気の、平凡な青年であるジークに感じる妙な違和感は一体何なのだろう。
こんなにも近くにいるのに、心の距離はとても遠く感じる。
アンネリーゼは小さく溜息をつき、気怠い身体をジークの暑い胸板へと預けるのだった。
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