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本編
第三話
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「貴様は俺を侮辱した罪とボニータを虐めた罪で投獄されるんだ!ふはははは!」
いや、普通に考えておかしいでしょう。
いくら公爵家嫡男とはいっても、私は侯爵家の出身で彼の正式な婚約者なのに不敬罪ですって?
王族相手ならまだ分かりますけれど、彼の先祖が王族だったのはもう何代も前の話ですもの。無理な理屈だわ。
ほら、私を捕らえている騎士さんたちが凄く申し訳無さそうな顔をしているじゃありませんか………。
「私がアーロン様への不敬罪に問われるのでしたら、アーロン様もボニータ嬢との姦通罪に問われるのでは?」
私は静かに、アーロン様達を見つめる。
「あたしはただアーロン様に従っただけよぉっ!それにまだ婚約できないから、一回しかヤッてないんだからっ」
………頭のネジも股も緩い女って、本当にいるものなのね。カマをかけたら見事に引っかかってきましたわ。
「ボニータ!ちゃんと節度を守っているんだな。かわいい奴め」
「アーロン様、好きぃっ♡」
周囲に広がる異様な空気をまるで感じない甘ーい雰囲気のお二人。イチャつくならイチャつくで結構ですが、どこか他所で、それも陸か海の孤島でお願いしたいですわね。
「私が告発せずとも、今の発言はこの場にいらっしゃる皆様方も聞いていらっしゃいますので、お忘れなきよう」
「ふんっ、俺は次期公爵だぞ!そんな脅しが効くと思っているとは愚かなことだなっ」
あらあら、愚かなのはどちらでしょう?
姦通罪は、この国では重罪なのをご存知ないのかしら?
まして、婚前交渉などもってのほかですのに………。
「それに嫌がらせをしたとの件は、ボニータ嬢の証言以外の証人はいらっしゃいますの?」
「そんなもの、必要なかろう!ボニータの証言が全てだ!」
「では嫌がらせとは、具体的にいつ、どこで、何を、どのようにされたのですか?私は毎日日記をつけておりますので、それと照らし合わせれば確認はできますわね?」
「そんなもの、いつでも偽造出来る!」
「少なくとも物的証拠のない、一方的な証言よりは遥かに信用されると思いますけど。何なら貴族院で審議にかけていただきましょうか?それならば公平な判断が下されますので、どちらの言い分が正しいのか………」
バシッ!
私がそこまで喋ると、大股で歩み寄ってきたアーロン様が、いきなり私の頬を平手打ちした。
周囲のギャラリーから小さな悲鳴があがるのが聞こえる。
突然の衝撃と、頬に走った熱さはじんじんと痛みを伴ってくる。
同時に口の中に鉄の匂いと血の味が広がってきた。
言葉で勝てなければ暴力に訴えるとは、本当に下劣で野蛮ですこと。
「黙れ!」
「………何故です?言いがかりをつけてきたのはアーロン様ではありませんか」
「黙れ!黙れ!黙れ!!」
アーロン様は怒り狂う。
これしきの事で癇癪を起こすのは困ったものですわ。一体どうやって育てばこうなるのかしら?
アーロン様が再び手を振り上げた。私は、怯まずに静かに目を閉じて、襲ってくる痛みに耐える準備をする。
でも、いつになってもその手が振り下ろされる事はなかった。
ゆっくりと目を開くと、目の前にはアーロン様の腕を捻り上げた、背の高い男性の姿があった。
いや、普通に考えておかしいでしょう。
いくら公爵家嫡男とはいっても、私は侯爵家の出身で彼の正式な婚約者なのに不敬罪ですって?
王族相手ならまだ分かりますけれど、彼の先祖が王族だったのはもう何代も前の話ですもの。無理な理屈だわ。
ほら、私を捕らえている騎士さんたちが凄く申し訳無さそうな顔をしているじゃありませんか………。
「私がアーロン様への不敬罪に問われるのでしたら、アーロン様もボニータ嬢との姦通罪に問われるのでは?」
私は静かに、アーロン様達を見つめる。
「あたしはただアーロン様に従っただけよぉっ!それにまだ婚約できないから、一回しかヤッてないんだからっ」
………頭のネジも股も緩い女って、本当にいるものなのね。カマをかけたら見事に引っかかってきましたわ。
「ボニータ!ちゃんと節度を守っているんだな。かわいい奴め」
「アーロン様、好きぃっ♡」
周囲に広がる異様な空気をまるで感じない甘ーい雰囲気のお二人。イチャつくならイチャつくで結構ですが、どこか他所で、それも陸か海の孤島でお願いしたいですわね。
「私が告発せずとも、今の発言はこの場にいらっしゃる皆様方も聞いていらっしゃいますので、お忘れなきよう」
「ふんっ、俺は次期公爵だぞ!そんな脅しが効くと思っているとは愚かなことだなっ」
あらあら、愚かなのはどちらでしょう?
姦通罪は、この国では重罪なのをご存知ないのかしら?
まして、婚前交渉などもってのほかですのに………。
「それに嫌がらせをしたとの件は、ボニータ嬢の証言以外の証人はいらっしゃいますの?」
「そんなもの、必要なかろう!ボニータの証言が全てだ!」
「では嫌がらせとは、具体的にいつ、どこで、何を、どのようにされたのですか?私は毎日日記をつけておりますので、それと照らし合わせれば確認はできますわね?」
「そんなもの、いつでも偽造出来る!」
「少なくとも物的証拠のない、一方的な証言よりは遥かに信用されると思いますけど。何なら貴族院で審議にかけていただきましょうか?それならば公平な判断が下されますので、どちらの言い分が正しいのか………」
バシッ!
私がそこまで喋ると、大股で歩み寄ってきたアーロン様が、いきなり私の頬を平手打ちした。
周囲のギャラリーから小さな悲鳴があがるのが聞こえる。
突然の衝撃と、頬に走った熱さはじんじんと痛みを伴ってくる。
同時に口の中に鉄の匂いと血の味が広がってきた。
言葉で勝てなければ暴力に訴えるとは、本当に下劣で野蛮ですこと。
「黙れ!」
「………何故です?言いがかりをつけてきたのはアーロン様ではありませんか」
「黙れ!黙れ!黙れ!!」
アーロン様は怒り狂う。
これしきの事で癇癪を起こすのは困ったものですわ。一体どうやって育てばこうなるのかしら?
アーロン様が再び手を振り上げた。私は、怯まずに静かに目を閉じて、襲ってくる痛みに耐える準備をする。
でも、いつになってもその手が振り下ろされる事はなかった。
ゆっくりと目を開くと、目の前にはアーロン様の腕を捻り上げた、背の高い男性の姿があった。
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