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本編

第六十話

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「テオドール様、誤解ですわ。エリーゼさんが、私に喧嘩を売ってきたのです。私は静かに本を読もうとしていただけですのに………」

いやいや、それはあなたの方でしょう。勝手に私の相席に腰を下ろして喧嘩売ってきましたわよね?
すると不思議そうに第一王子殿下が片眉を上げた。

「………だとしたら、おかしいねえ。エリーゼ嬢は間違いなく本を開いているけれど、ロゼリア嬢の手元には本すらないよね。本を読もう・・・として座っていたなら、本がないと読めないんじゃないの?」
「そ、それは………」

ロゼリア嬢はこの前の夜会での出来事を、教訓として活かせていないですわね。
簡単に嘘をつくと、自分が追い込まれるだけですのに。

「それにねえ。実を言うと僕はずっとそこの棚の後ろにいたんだよ。エリーゼ嬢が入ってくる前から、そこで昼寝をしてたんだ。だからホントはぜーんぶ、知ってた」
「な………!」

第一王子殿下は中々腹黒いお方ですわね。しかも、攻め方がえげつないですわ。
青ざめた顔をしたロゼリア嬢は、挨拶もせずにふらふらとその場から逃げ出していった。

「ロゼリア嬢、あまり身勝手で高慢な振る舞いを続けていると、いつかひどい目に遭うよ?気をつけなきゃね」

その後ろ姿に、第一王子殿下がそう呟いた。叱るわけでも、慰めるわけでもない忠告。それはロゼリア嬢に届いたのだろうか。

「図書室で騒ぎ立ててしまい、申し訳ございませんでした。お休みの邪魔をしてしまいましたか?」

私は第一王子殿下に改めてお詫びをする。

「いいのいいの。公務から逃げるためにここに避難しているだけだから。しかし、あのロゼリア嬢相手によくあれだけ言えるねぇ。感心しちゃった。普通の令嬢なら、ロゼリア嬢にあれだけ言われたら泣き出しちゃうと思うよ?」
「あの程度では泣いたりしませんよ。………それから、公務は投げ出さないでくださいませ」
「はは、厳しいなぁ」

第一王子殿下は、風に乗った風船みたいなのだと王妃様が仰っていたけれど、何となくその意味がわかりましたわ。
第一王子殿下はジェイド様よりも一つ歳上なだけだけれど、未だに婚約者も決めず、式典などの公務にもほぼ顔を出さないことで有名な方でしたわね。
そういえば、毎日王宮の通っていて、初めてお会いしましたわ。
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