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本編
第七十五話
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「………泣くほど嫌だったか?」
ジェイド様が、悲しげに顔を歪めながら私の涙を拭って下さる。
「………ちが………っ、う、嬉しくて………」
どうしよう。涙が止まらないわ。
嬉しいのにどうしてこんな涙が出てくるのかしら?
「嬉しい?」
「はい………。私も、ジェイド様の事が………っ」
きちんと伝えたいのに、嗚咽で途切れてしまう。
「好きですっ………。心から、お慕い………申し上げ………て………」
そこまで喋ると、ジェイド様が私の体を抱きしめた。
「………じぇいど、さま………?」
逞しい腕の中に閉じ込められた私は、どうしていいのかわからずに固まるしかない。
「そんなことを言われたら、もう離せないではないか」
体が密着して、ジェイド様の鼓動が伝わってくる。
「ジェイド様っ………こんな………」
「未婚の男女が抱き合うなどはしたないか?」
顔を上げると、ジェイド様の端正な顔が間近にあった。息遣いすらも感じられる距離。
「その貞淑観念には恐れ入るな。大丈夫だ。ここには誰もいない。それに………」
「殿下、私をお忘れでは?」
「きゃあ!」
そうだわ。サイラス様がいらっしゃったのを忘れてました。
私は恥ずかしさのあまり、ジェイド様を突き飛ばすけれど、ジェイド様はびくともしない。
「気にするな、これは空気のようなものだ」
「そんな訳ありますか」
「ではいないものと思え」
「無理ですわ!」
サイラス様は目を伏せて、じっと立っている。………まさか、木になりきってるつもりとかではないわよね。
「今日は、人生最良の日だ」
ジェイド様が更に私を抱きしめながら、笑う。
私は、恥ずかしい気持ちを押さえながら、ジェイド様の背中に、手を回して力を込めた。
少しだけ、自分の欲に忠実になっても、今なら許されますわよね?
「殿下、人生最良の日はまだ今後何度も訪れますから、軽々しく決めないでください」
「そうだな。まずは私達の婚約披露式からだ」
「こ、婚約披露式?」
だって、まだ婚約すらしておりませんけれど?
きょとんとする私に、ジェイド様がニヤリと嗤った。
「言ってなかったか?………婚約はもう成立している」
「………はい?」
………なんですって?
ジェイド様が、悲しげに顔を歪めながら私の涙を拭って下さる。
「………ちが………っ、う、嬉しくて………」
どうしよう。涙が止まらないわ。
嬉しいのにどうしてこんな涙が出てくるのかしら?
「嬉しい?」
「はい………。私も、ジェイド様の事が………っ」
きちんと伝えたいのに、嗚咽で途切れてしまう。
「好きですっ………。心から、お慕い………申し上げ………て………」
そこまで喋ると、ジェイド様が私の体を抱きしめた。
「………じぇいど、さま………?」
逞しい腕の中に閉じ込められた私は、どうしていいのかわからずに固まるしかない。
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「未婚の男女が抱き合うなどはしたないか?」
顔を上げると、ジェイド様の端正な顔が間近にあった。息遣いすらも感じられる距離。
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「きゃあ!」
そうだわ。サイラス様がいらっしゃったのを忘れてました。
私は恥ずかしさのあまり、ジェイド様を突き飛ばすけれど、ジェイド様はびくともしない。
「気にするな、これは空気のようなものだ」
「そんな訳ありますか」
「ではいないものと思え」
「無理ですわ!」
サイラス様は目を伏せて、じっと立っている。………まさか、木になりきってるつもりとかではないわよね。
「今日は、人生最良の日だ」
ジェイド様が更に私を抱きしめながら、笑う。
私は、恥ずかしい気持ちを押さえながら、ジェイド様の背中に、手を回して力を込めた。
少しだけ、自分の欲に忠実になっても、今なら許されますわよね?
「殿下、人生最良の日はまだ今後何度も訪れますから、軽々しく決めないでください」
「そうだな。まずは私達の婚約披露式からだ」
「こ、婚約披露式?」
だって、まだ婚約すらしておりませんけれど?
きょとんとする私に、ジェイド様がニヤリと嗤った。
「言ってなかったか?………婚約はもう成立している」
「………はい?」
………なんですって?
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