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本編

第七十四話

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それから暫く、私は王宮に留まる許可を貰い、ジェイド様の看病に徹した。
あのいい雰囲気だったところを邪魔したお医者様は、空気は読めないけれど腕は良かったようで、かなり深かった傷もすっかり良くなり、傷跡こそ残るけれど、それ以外はすっかり元通りになった。

「エリーゼには、随分と世話をかけたな」
「私はジェイド様の従者ですからね。お世話するのは当然ですわ」

あの日から、ジェイド様があの言葉の続きを話してくださるような気配はない。
私は正直いつも気持ちが落ち着かないのですけれど。

今日は、寝たきりで落ちてしまった体力回復の為に、王都サラディスの近くにある湖まで遠乗りに来ている。
どうやら、エルカリオンでは頻繁に乗馬が行われているらしい。
………もう、苦手などと言っていられないですわね。

「エリーゼにも苦手なものがあるとはな」
「私を、何だとお思いですの?」

ジェイド様の隣に座ると自然と笑みが溢れる。

「以前に比べて、表情が豊かになったな。それに、己の感情を表に出すようになった」

真っ青な空を眺めながら、ジェイド様がそう呟いた。

「そ、そうでしょうか?」

突然の指摘に、何故か私は慌ててしまう。

「もしかして、ご気分を害されましたか?」

お義母様のアドバイス通りにしているけれど、ジェイド様は不快に思われたかもしれないわ。
私は不安になりながら尋ねた。

「いや、そのほうがずっといい。いつも凛としているエリーゼもいいが、表情がくるくると変わる様子も見ていて飽きない。ただ………」

ジェイド様が私の方に向き直った。
琥珀色の瞳が、射抜くように私を見ている。
ジェイド様に見つめられると、私の鼓動は自然と早くなっていく。

「他の男の前で、そんな顔を見せるな」
「………ジェイドさま、それは………」

ジェイド様は少し目を伏せたあと、すうっと息を吸い込み、また私に視線を合わせた。

「私は、エリーゼの事が好きだ。おそらく、初めて逢った、あの夜会の時からずっと、そなたを想っていた」

私の、呼吸が止まった。
それはずっと待っていた、あの言葉の続き。

ジェイドさまが、わたしをすき?

もしかして、と想像はしていたけれど、実際にジェイド様の口からそんな言葉が出てくるなんて、信じられない。
嬉しいのと、驚きと、感動が入り混じり、私の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
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