婚約破棄から始める真実の愛の見つけ方

玉響

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本編

第八十三話※残虐シーンあり

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「当時のことは、まだ幼かった私も鮮明に覚えているよ」

ジェイド様が、強く手を握りしめた。

「粛清が行われたあの日、サラディスの街は一面血の海に染まった。邪神信仰に手を染めた者は関係者も含めて、一人残らず処刑された。女子供も関係なく、例外も温情も一切なかった。首を刎ねられた者、焼き殺された者、馬に踏み殺された者………。街全体が阿鼻叫喚に包まれた。あれは粛清という名の虐殺だと思っている。………その後祖父は、邪神信仰に関わる一切の記録を抹消させた。ここにある貴族名鑑は、おそらく最後の一冊だ」

聞くに耐えない凄惨な話に、私はそっと目を閉じた。
王家への謀反は大罪。処刑は致し方ないことなのかもしれないけれど、その方々の最期を思うと、やはり胸が痛みますわ………。

「私は、祖父を立派なだと思う一方で、決して祖父のような王にはなるまいと思っている。そのためにこの貴族名鑑を処分せずに持ち続けているのだ。………そなたの祖国での振る舞いを思い出すと、私の中には間違いなく祖父の血が流れていると感じるがな」
「でも、あれは………」

あの時は、ビッテルハイム男爵から私を守るために剣を振るったのだから、虐殺にはならないと思う。それでもジェイド様がそう感じるのだということは、ジェイド様の中で、その粛清が、根深い心の傷になっているという事なのだと思う。

「粛清のおかげと言うのはあまり気分は良くないが、その後数年でエルカリオン王家への権力集中は更に強く、貴族達の王家への忠誠はより強いものとなった。貴族が増えすぎると管理は難しくなると考えた祖父は、現在の貴族システムを作り上げて崩御されたよ。………余計な話が長くなったが、粛清の件はコーネリアスにも大いに影響があった」

そうでしたわ。そもそもはお父様の話だったのですわね。

「エルカリオンの危機を救った英雄として、コーネリアスは祖父から褒章を受けた。そして、私達兄弟の家庭教師の役目と、エルカリオンでの侯爵位の下賜を言い渡された」
「エルカリオンでの侯爵位………?でも、父は………」
「ああ。家庭教師は引き受けたが、爵位は辞退した。カレルを捨てることは出来ないと言ってね」

少しずつ暗くなった空に、満月が輝き出し、静かに部屋を照らし始めた。
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