国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

文字の大きさ
297 / 390
本編(アルフォンシーナ視点)

306.穏やかな時間

しおりを挟む
パニーニを食べ終えた二人は、暫く街を散策してから帰路についた。

歩いた時間はそう長くはなかったが、アルフォンシーナにとってはとても中身の濃い、かけがえのない時間だった。
何よりも、隣にベルナルドがいること、そして彼が自分を気遣ってくれ、優しく微笑んでくれることーーー。
それがアルフォンシーナには何よりも嬉しかった。

※※※※※

待たせていた馬車に乗り込むと、アルフォンシーナは満足気に天を仰いで、吐息を零した。
するとベルナルドは心配そうに、アルフォンシーナの顔を覗き込んできた。

「………ひょっとして退屈だったか?それとも、疲れたか?」

洞察力の鋭いベルナルドにしては珍しい、的外れな思い違いだった。
アルフォンシーナは慌てて首を振ると、ベルナルドに顔を近づけるように身を乗り出した。

「退屈だなんてとんでもないです。寧ろ新鮮な事ばかりで、本当に楽しくて、疲れている暇もありませんでした。ドレスの採寸やパニーニは勿論ですし、街の中を自分の足で歩いてみると、やはり人々の暮らしを肌で感じられるというか………。ああしてベルナルド様はいつも街に出て、情報を集めてらっしゃったのですね。わたくしももっと外に出ていれば良かったと、今になって後悔しております。………厳格な両親が、それを許していたかというと、それは分かりませんけれど………」

ほんの少し苦笑いを浮かべてから、呼吸を整えたアルフォンシーナは身振りを交えながら、今日彼女が見聞きしたことがいかに素晴らしかったのかをベルナルドに伝えた。

「………そうか」

ベルナルドは相槌を打ちながら、アルフォンシーナの話に耳を傾けてくれる。
以前は考えられなかった、穏やかで優しい時間。
アルフォンシーナはその心地よい時間に身を委ねる。
そんなやり取りは屋敷に到着するまで、途切れる事なく続いた。

しかし屋敷に着いた途端、その優しい雰囲気は一気に暗転した。

「旦那様!奥様!」

出迎えてくれたのは、青褪めた顔のオリヴァーだった。
いつもは冷静なはずの彼は、明らかに憔悴していた。

「何があった?」

只事ではない様子を感じ取ったベルナルドは怪訝そうに眉を顰める。
するとオリヴァーは一瞬躊躇うようにアルフォンシーナの方を見、それからおずおずと口を開いた。

「奥様のご両親が………、パルヴィス伯爵ご夫妻が、いらっしゃっております…………」
「…………!」

告げられた事実に、ベルナルドとアルフォンシーナは同時に、息を呑んだ。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。 けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。 謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、 「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」 謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。 それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね―――― 昨日、式を挙げた。 なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。 初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、 「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」 という声が聞こえた。 やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・ 「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。 なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。 愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。 シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。 設定はふわっと。

処理中です...