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序章
初心者の迷宮
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「受けとれ、これがこの迷宮の地図だ。健闘を祈る。」
私は地図を受け取った。この森林の全貌が一枚の羊皮紙に刻まれている。これは不思議な地図だ、現在地には印が浮かび上がっている。私が動けばこの印も同じ方向へ動く。
「ああ待て待て、これを渡しておくよ。ここの魔物はさして強くは無いがこれも試験だ。」
剣を持ったのは学生の頃以来だろうか。私はあまり得意ではなかった。急襲に備え右手に握りしめておくことにしよう。地面に突き刺せば腰ほどまでの長さのある剣はとても頼もしい。さて下準備はこれで終わった。怯える必要はない、自分を信じるんだ。突き進もうか。冒険者になる試験のはじまりだ。迷宮は、木々をかき分けるように細い道が続いている。一体自分がどこにいるのか、一体この迷宮がどれくらい大きいものなのか。曲がり角が多い構造がそれを難解にさせる。そして魔物にとって曲がり角は絶好の隠れ蓑だ。
「キシャアアアアア」
分かっていたはずだ、油断をした。一息をつこうと気を許した瞬間だった。大きな牙を持った狼が飛び出してきた。私の意識よりも速く身体は動く、間一髪のところで牙の直撃を間逃れる。そんな不意打ちに怯み反応が遅れる、現実は悠長に待ってはくれない。狼はまたもや私目掛けて駆け出す。咄嗟に剣を構えるも身体は動かない、何故だ。動かなければやられてしまう、立ち向かわなければ勝てない。
気づいたときには狼はいなくなっていた。自分に向けられた剣を見て警戒したのか、はたまた情けをかけてくれたのか。真実は分からない。私の命は救われた。「命をかける」とはこういうことなのだ。食うか食われるか、一瞬の油断、隙を見せれば次はないであろう。ここで怯んではならない、私は冒険者になると決めたのだ。足が震える、息が止まる、しかし歩み続ける。ここで足を前に出し止まりさえしなければ、きっと覚悟が決まると信じて。
ここが迷宮の最奥のはずだ。地図はゴールを示している。だがゴールは見当たらない。目の前に立ち塞がるのは大きな壁ただひとつ。もしや鍵のようなものが必要なのだろうか。最奥を目指すあまり踏破していない道があったことを思い出した。そこに何かがあるのかもしれない。少し戻ることになるが行こう。この道を引き返してそこの角を右に曲がって左に曲がって……ここだな。祠だ、その通路の奥には祠が見える。
「迷宮は、地図に見える通りの一本道とは限らない。」
どこからか声が響き渡る。祠の小さな扉を開けると、中には小さな石が一つあった。私はそれを鞄に詰め込んだ。
「そして迷宮には罠がつきものである。」
その瞬間、祠は粉々に砕け散り地面に崩れ落ちた。その音はとても大きく、周りの魔物を呼び寄せるには十分なものであった。ここは通路の奥であり退路は断たれている。そして前方からにじり寄ってくるのは一匹の狼。もうここでやるしかない、やるしかないんだ。両手で剣を握りしめ狼に矛先を向ける。一撃必殺を決められると思うな、まずは確実に剣を当てろ。当て続けさえすれば必ず勝てる。狼は勢いよく飛びかかってきた。私は無心で剣を振り、踏み込む。決して怯むな、すぐに次を当てろ。すると私の一撃は狼の脚に命中した。私が走るよりも狼の動きは鈍くなった。それを見るや否や私の足は駆け出しその場から逃げ出していた。私は勝利したのだ。
そして私は改めて最奥に到達した。私の鞄からはなにやら光が漏れ出していることに気づく。祠で見つけた石が光っている。鞄から石を取り出すと、目の前の壁も同じ色の光を出し崩れ去っていった。
「おお、やってきたな。新米冒険者よ、合格だ。おめでとう。」
私は地図を受け取った。この森林の全貌が一枚の羊皮紙に刻まれている。これは不思議な地図だ、現在地には印が浮かび上がっている。私が動けばこの印も同じ方向へ動く。
「ああ待て待て、これを渡しておくよ。ここの魔物はさして強くは無いがこれも試験だ。」
剣を持ったのは学生の頃以来だろうか。私はあまり得意ではなかった。急襲に備え右手に握りしめておくことにしよう。地面に突き刺せば腰ほどまでの長さのある剣はとても頼もしい。さて下準備はこれで終わった。怯える必要はない、自分を信じるんだ。突き進もうか。冒険者になる試験のはじまりだ。迷宮は、木々をかき分けるように細い道が続いている。一体自分がどこにいるのか、一体この迷宮がどれくらい大きいものなのか。曲がり角が多い構造がそれを難解にさせる。そして魔物にとって曲がり角は絶好の隠れ蓑だ。
「キシャアアアアア」
分かっていたはずだ、油断をした。一息をつこうと気を許した瞬間だった。大きな牙を持った狼が飛び出してきた。私の意識よりも速く身体は動く、間一髪のところで牙の直撃を間逃れる。そんな不意打ちに怯み反応が遅れる、現実は悠長に待ってはくれない。狼はまたもや私目掛けて駆け出す。咄嗟に剣を構えるも身体は動かない、何故だ。動かなければやられてしまう、立ち向かわなければ勝てない。
気づいたときには狼はいなくなっていた。自分に向けられた剣を見て警戒したのか、はたまた情けをかけてくれたのか。真実は分からない。私の命は救われた。「命をかける」とはこういうことなのだ。食うか食われるか、一瞬の油断、隙を見せれば次はないであろう。ここで怯んではならない、私は冒険者になると決めたのだ。足が震える、息が止まる、しかし歩み続ける。ここで足を前に出し止まりさえしなければ、きっと覚悟が決まると信じて。
ここが迷宮の最奥のはずだ。地図はゴールを示している。だがゴールは見当たらない。目の前に立ち塞がるのは大きな壁ただひとつ。もしや鍵のようなものが必要なのだろうか。最奥を目指すあまり踏破していない道があったことを思い出した。そこに何かがあるのかもしれない。少し戻ることになるが行こう。この道を引き返してそこの角を右に曲がって左に曲がって……ここだな。祠だ、その通路の奥には祠が見える。
「迷宮は、地図に見える通りの一本道とは限らない。」
どこからか声が響き渡る。祠の小さな扉を開けると、中には小さな石が一つあった。私はそれを鞄に詰め込んだ。
「そして迷宮には罠がつきものである。」
その瞬間、祠は粉々に砕け散り地面に崩れ落ちた。その音はとても大きく、周りの魔物を呼び寄せるには十分なものであった。ここは通路の奥であり退路は断たれている。そして前方からにじり寄ってくるのは一匹の狼。もうここでやるしかない、やるしかないんだ。両手で剣を握りしめ狼に矛先を向ける。一撃必殺を決められると思うな、まずは確実に剣を当てろ。当て続けさえすれば必ず勝てる。狼は勢いよく飛びかかってきた。私は無心で剣を振り、踏み込む。決して怯むな、すぐに次を当てろ。すると私の一撃は狼の脚に命中した。私が走るよりも狼の動きは鈍くなった。それを見るや否や私の足は駆け出しその場から逃げ出していた。私は勝利したのだ。
そして私は改めて最奥に到達した。私の鞄からはなにやら光が漏れ出していることに気づく。祠で見つけた石が光っている。鞄から石を取り出すと、目の前の壁も同じ色の光を出し崩れ去っていった。
「おお、やってきたな。新米冒険者よ、合格だ。おめでとう。」
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