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序章
銀の弾丸
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夜の酒場にやってきた。バーカウンターが一つ、丸テーブルが四つの簡素な造りな酒場である。今日は六人の客が既に入っているようだ。奥の机には大男が一人座って食事をしている。背中には棍棒を背負っておりその身なりから冒険者であることが伺える。
「おい、そこの兄ちゃん。何見てんだよ。なんだよ用があるならこっちに来いよ。」
大男の冒険者は大きな声で私に話しかけてきた。向こうから話しかけてくれるなら好都合、このまま何か話を聞き出せるかもしれない。しばらく話を合わせてみよう。
「装備が汚れてねえな、なんだ新米冒険者か?ならもしかしてここの酒場も初めてなんじゃねえか?どうりで見ない顔だと思ったんだよな。」
大男は私が新米であることを直ぐに見抜いた。観察眼が優れていることが分かる。おそらくここに来てから長い、ベテランの冒険者なんであろう。
「え、何?古の石室について聞きたい?ああそういえば最近行ってないな、懐かしいな。俺は今は三つ目の迷宮を探索してるんだ。三つ目の迷宮はまだ誰にも踏破されていない、だから地図も出回っていないまさに未開の地だ。暗夜の樹海って呼んでいる場所で本当に探索が困難な迷宮でな。」
「また言ってやがるぜこいつ。三つ目の迷宮についての情報がいつになっても出てこない。怖じ気づいて探索してないって専らの噂だぜ。」
私たちの前の机に座っている男が急に話し出した。首だけ後ろを振り向きながらへらへらと笑っている。
「何だと。お前、この前も俺にいちゃもんをつけてきたな。俺に何か恨みでもあるのか。」
「いや?そんなことはないが、そんな奴に先輩面される新米は大変だなって思ってよ。」
大男の冒険者は机を強く叩き立ち上がった。そして、懐から銃を取り出し構え始めた。周りの客は大男にやめるよう必死に促す。何もそこまですることはない私も止めに入るが聞く耳はない。
「はあっ……ぃ、いや、俺はぁ、やってやるぜ……!!!!!」
パァアアン!!
銀の弾丸は射出されるや否や粉々になり深緑の灰となって消えていった。その場にいた者は誰もがその光景に目を疑った。その中で一人、元締めのアンナはため息をつく。
「こんばんは、冒険者支援機関のコロンです。銀の弾丸が不正に使用された痕跡を確認しました。銀の弾丸を迷宮外で使用するのは冒険者規約違反。そして違反者は冒険者免許を剥奪され、都市ヴァロン自治軍に直ちに引き渡すことになっています。」
「何、冒険者支援機関だと…?なぜここに」
気づいたらそこにいた。地下室への階段からしかこの酒場には入ることができない。推定おそらくそこから入ったのであろうが気づかなかった。
「いやいや、いつも弾丸をくれるだけの姉ちゃんよ。現役の冒険者を舐めるなよ。捕まえるだのなんだの、それなら力ずくでやってみせるんだな。」
大男の冒険者は背中に担いだ棍棒を手に取りコロンに向けた。顔には汗をかき、呼吸は早くなる。
「無謀だよやめておきな、馬鹿者が。」
アンナが止めに入るも声は届かない。大男の踏み込みで酒場は揺れ、コロンへの一気に距離を詰める。大振りの一撃がコロンを横なぎに吹き飛ばそうと下腹部を捉えようとした瞬間であった。棍棒は粉々になり深緑の灰となって消え去ったのだ。大男の一撃は空振りとなった。大男の冒険者は空振りの衝撃で大きく体勢を崩し転倒。その隙を見逃さずコロンは大男の喉元に槍を突きつけた。
「これは魔道杖と呼ばれるものです。あなたが少しでも抵抗を見せれば、その身体は灰になるでしょう。」
大男は観念したようだ。この暴動沙汰の間に元締めのアンナは自治軍への通報を済ませていたようで、間もなくして大男の冒険者は連行された。
それからしばらくして酒場には活気が戻ってきた。コロンも酒場に残ってアンナと世間話に花を咲かせていた。せっかくやって来たんだから何か食べていっておくれと呼び止められたようだ。するとアンナは私を見て声をかけてきた。
「あんたはコロンの強さを見るのは初めてだね。どうだい?驚いたろう。コロンは魔道士なのさ。ただの魔道士じゃないよ、この子は最強なのさ。」
コロンは照れつつも謙遜している。あの戦いを見せつけられた私には「最強」の言葉はひどくしっくりきた。どのような人生を歩んでくればあのような強さを得ることができるのだろうか。想像もつかない。そんなことを思っているとコロンがある話をし始めた。
「あなたに一つ話しておきたいことがあります。銀の弾丸についてです。銀の弾丸には特殊な魔道がかけられています。この弾丸によってついた傷は永久に塞がらないようになっているの。人に向かって撃てば必ず死ぬ。たとえ腕や脚でもね。そんなに危険なものだから、迷宮以外では使わないように冒険者規約に定められています。そして都市ヴァロンの法律でもそのように定められました。あなたも冒険者。知っておいてください。」
「おい、そこの兄ちゃん。何見てんだよ。なんだよ用があるならこっちに来いよ。」
大男の冒険者は大きな声で私に話しかけてきた。向こうから話しかけてくれるなら好都合、このまま何か話を聞き出せるかもしれない。しばらく話を合わせてみよう。
「装備が汚れてねえな、なんだ新米冒険者か?ならもしかしてここの酒場も初めてなんじゃねえか?どうりで見ない顔だと思ったんだよな。」
大男は私が新米であることを直ぐに見抜いた。観察眼が優れていることが分かる。おそらくここに来てから長い、ベテランの冒険者なんであろう。
「え、何?古の石室について聞きたい?ああそういえば最近行ってないな、懐かしいな。俺は今は三つ目の迷宮を探索してるんだ。三つ目の迷宮はまだ誰にも踏破されていない、だから地図も出回っていないまさに未開の地だ。暗夜の樹海って呼んでいる場所で本当に探索が困難な迷宮でな。」
「また言ってやがるぜこいつ。三つ目の迷宮についての情報がいつになっても出てこない。怖じ気づいて探索してないって専らの噂だぜ。」
私たちの前の机に座っている男が急に話し出した。首だけ後ろを振り向きながらへらへらと笑っている。
「何だと。お前、この前も俺にいちゃもんをつけてきたな。俺に何か恨みでもあるのか。」
「いや?そんなことはないが、そんな奴に先輩面される新米は大変だなって思ってよ。」
大男の冒険者は机を強く叩き立ち上がった。そして、懐から銃を取り出し構え始めた。周りの客は大男にやめるよう必死に促す。何もそこまですることはない私も止めに入るが聞く耳はない。
「はあっ……ぃ、いや、俺はぁ、やってやるぜ……!!!!!」
パァアアン!!
銀の弾丸は射出されるや否や粉々になり深緑の灰となって消えていった。その場にいた者は誰もがその光景に目を疑った。その中で一人、元締めのアンナはため息をつく。
「こんばんは、冒険者支援機関のコロンです。銀の弾丸が不正に使用された痕跡を確認しました。銀の弾丸を迷宮外で使用するのは冒険者規約違反。そして違反者は冒険者免許を剥奪され、都市ヴァロン自治軍に直ちに引き渡すことになっています。」
「何、冒険者支援機関だと…?なぜここに」
気づいたらそこにいた。地下室への階段からしかこの酒場には入ることができない。推定おそらくそこから入ったのであろうが気づかなかった。
「いやいや、いつも弾丸をくれるだけの姉ちゃんよ。現役の冒険者を舐めるなよ。捕まえるだのなんだの、それなら力ずくでやってみせるんだな。」
大男の冒険者は背中に担いだ棍棒を手に取りコロンに向けた。顔には汗をかき、呼吸は早くなる。
「無謀だよやめておきな、馬鹿者が。」
アンナが止めに入るも声は届かない。大男の踏み込みで酒場は揺れ、コロンへの一気に距離を詰める。大振りの一撃がコロンを横なぎに吹き飛ばそうと下腹部を捉えようとした瞬間であった。棍棒は粉々になり深緑の灰となって消え去ったのだ。大男の一撃は空振りとなった。大男の冒険者は空振りの衝撃で大きく体勢を崩し転倒。その隙を見逃さずコロンは大男の喉元に槍を突きつけた。
「これは魔道杖と呼ばれるものです。あなたが少しでも抵抗を見せれば、その身体は灰になるでしょう。」
大男は観念したようだ。この暴動沙汰の間に元締めのアンナは自治軍への通報を済ませていたようで、間もなくして大男の冒険者は連行された。
それからしばらくして酒場には活気が戻ってきた。コロンも酒場に残ってアンナと世間話に花を咲かせていた。せっかくやって来たんだから何か食べていっておくれと呼び止められたようだ。するとアンナは私を見て声をかけてきた。
「あんたはコロンの強さを見るのは初めてだね。どうだい?驚いたろう。コロンは魔道士なのさ。ただの魔道士じゃないよ、この子は最強なのさ。」
コロンは照れつつも謙遜している。あの戦いを見せつけられた私には「最強」の言葉はひどくしっくりきた。どのような人生を歩んでくればあのような強さを得ることができるのだろうか。想像もつかない。そんなことを思っているとコロンがある話をし始めた。
「あなたに一つ話しておきたいことがあります。銀の弾丸についてです。銀の弾丸には特殊な魔道がかけられています。この弾丸によってついた傷は永久に塞がらないようになっているの。人に向かって撃てば必ず死ぬ。たとえ腕や脚でもね。そんなに危険なものだから、迷宮以外では使わないように冒険者規約に定められています。そして都市ヴァロンの法律でもそのように定められました。あなたも冒険者。知っておいてください。」
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