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2章
責任者不在
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私は都市ヴァロンに帰ってきた。迷宮から帰還してその足で冒険者支援機関への報告をする。これを繰り返すこと何度目だろうか。しかし、今回の報告は今までとは訳が違う。ヴァロン迷宮群がついに終わりを迎えるかもしれない。ヴァロン市民は、謎の建造物が4つ建ち並ぶその様をヴァロン迷宮群と呼んでいる。幾つもの立方体が合体した建造物が「古の石室」。巨大な岩石から成り水晶の槍が無数に生えているのは「夢幻の湖畔」。幾千本もの大樹が重なり密集し、建物の壁を成しているのは「暗夜の樹海」。そして残す最後の迷宮は、岩石柱の雨が一帯に降り注いだかのような場所の「永久の霊峰」である。
「只今帰還した!誰か報告を記録してくれるか。」
いつもコロンが座る席には誰もいない。少し奥向かいに座っている男性が「はーい」と返事をしてこちらにやってきた。私がここに来るときはコロンに対応してもらっていたことが多く、他の役人については多くは知らない、初めて見る顔だ。その胸には銀色のバッチを付けている。そういえばコロンの胸にも同じバッチが付けられていた。
「あなた様でしたか、あまりに大きな声、何事かと思いました。会うのは初めてですね、お初にお目にかかります。冒険者支援機関副責任者をしております、アジン・フレッチャーと申します。」
「前置きは結構、報告する。暗夜の樹海を私を含む二名の冒険者が踏破した。もう一人は、指名手配中の冒険者、ルメールだ。そしてこのルメールはコロンを殺した。」
私は今回の事の顛末を全て洗いざらい報告した。副責任者のアジンは、何も驚く様子を見せなかった。初の第三迷宮踏破にも関わらずに。何かを悟ったような顔ぶりであった。
「報告ありがとうございます。私の方からお詫び申し上げなければなりませんね。冒険者支援機関の長である者が、冒険者に牙を剥いてしまった。その事実はあってはならないものです。お恥ずかしながら私は、そのことに全く気づくことができなかった。申し訳ありません。この一件については、コロンの側にいた私が責任を負いましょう。」
その日はそこで1日の活動を終えた。そして、暫くは休養に充てることにした。怪我をしっかり治して万全の状態で迷宮に挑戦したい。先に進んだルメールのことも気になりはするが、彼とてそんなにすぐに永久の霊峰を突破することはできないだろう。それに、焦ったところで待つのは血に濡れた地面を舐める運命のみだ。そんな帰還した日から幾日が経ったであろう。アンナの宿にとある来客があった。
「お初にお目にかかる。海軍卿マライタ・スレイミーナだ。ヘンダーソンとフレッチャーの要請により冒険者支援機関の手伝いに来た。お前が現在最上位の冒険者だと聞いたもので挨拶でもと思ってな。」
「それとひとつ、アジン・フレッチャーが亡くなった。自害だったようだ。それでアジンの遺書も見つかった。彼はコロンの行動を全て知っていたそうだ。つまり殉死と言ったところだろうな。」
2章 完
「只今帰還した!誰か報告を記録してくれるか。」
いつもコロンが座る席には誰もいない。少し奥向かいに座っている男性が「はーい」と返事をしてこちらにやってきた。私がここに来るときはコロンに対応してもらっていたことが多く、他の役人については多くは知らない、初めて見る顔だ。その胸には銀色のバッチを付けている。そういえばコロンの胸にも同じバッチが付けられていた。
「あなた様でしたか、あまりに大きな声、何事かと思いました。会うのは初めてですね、お初にお目にかかります。冒険者支援機関副責任者をしております、アジン・フレッチャーと申します。」
「前置きは結構、報告する。暗夜の樹海を私を含む二名の冒険者が踏破した。もう一人は、指名手配中の冒険者、ルメールだ。そしてこのルメールはコロンを殺した。」
私は今回の事の顛末を全て洗いざらい報告した。副責任者のアジンは、何も驚く様子を見せなかった。初の第三迷宮踏破にも関わらずに。何かを悟ったような顔ぶりであった。
「報告ありがとうございます。私の方からお詫び申し上げなければなりませんね。冒険者支援機関の長である者が、冒険者に牙を剥いてしまった。その事実はあってはならないものです。お恥ずかしながら私は、そのことに全く気づくことができなかった。申し訳ありません。この一件については、コロンの側にいた私が責任を負いましょう。」
その日はそこで1日の活動を終えた。そして、暫くは休養に充てることにした。怪我をしっかり治して万全の状態で迷宮に挑戦したい。先に進んだルメールのことも気になりはするが、彼とてそんなにすぐに永久の霊峰を突破することはできないだろう。それに、焦ったところで待つのは血に濡れた地面を舐める運命のみだ。そんな帰還した日から幾日が経ったであろう。アンナの宿にとある来客があった。
「お初にお目にかかる。海軍卿マライタ・スレイミーナだ。ヘンダーソンとフレッチャーの要請により冒険者支援機関の手伝いに来た。お前が現在最上位の冒険者だと聞いたもので挨拶でもと思ってな。」
「それとひとつ、アジン・フレッチャーが亡くなった。自害だったようだ。それでアジンの遺書も見つかった。彼はコロンの行動を全て知っていたそうだ。つまり殉死と言ったところだろうな。」
2章 完
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