冒険者よ永遠に

星咲洋政

文字の大きさ
23 / 32
2章

責任者不在

しおりを挟む
 私は都市ヴァロンに帰ってきた。迷宮から帰還してその足で冒険者支援機関への報告をする。これを繰り返すこと何度目だろうか。しかし、今回の報告は今までとは訳が違う。ヴァロン迷宮群がついに終わりを迎えるかもしれない。ヴァロン市民は、謎の建造物が4つ建ち並ぶその様をヴァロン迷宮群と呼んでいる。幾つもの立方体が合体した建造物が「古の石室」。巨大な岩石から成り水晶の槍が無数に生えているのは「夢幻の湖畔」。幾千本もの大樹が重なり密集し、建物の壁を成しているのは「暗夜の樹海」。そして残す最後の迷宮は、岩石柱の雨が一帯に降り注いだかのような場所の「永久の霊峰」である。

「只今帰還した!誰か報告を記録してくれるか。」

 いつもコロンが座る席には誰もいない。少し奥向かいに座っている男性が「はーい」と返事をしてこちらにやってきた。私がここに来るときはコロンに対応してもらっていたことが多く、他の役人については多くは知らない、初めて見る顔だ。その胸には銀色のバッチを付けている。そういえばコロンの胸にも同じバッチが付けられていた。

「あなた様でしたか、あまりに大きな声、何事かと思いました。会うのは初めてですね、お初にお目にかかります。冒険者支援機関副責任者をしております、アジン・フレッチャーと申します。」

「前置きは結構、報告する。暗夜の樹海を私を含む二名の冒険者が踏破した。もう一人は、指名手配中の冒険者、ルメールだ。そしてこのルメールはコロンを殺した。」

私は今回の事の顛末を全て洗いざらい報告した。副責任者のアジンは、何も驚く様子を見せなかった。初の第三迷宮踏破にも関わらずに。何かを悟ったような顔ぶりであった。

「報告ありがとうございます。私の方からお詫び申し上げなければなりませんね。冒険者支援機関の長である者が、冒険者に牙を剥いてしまった。その事実はあってはならないものです。お恥ずかしながら私は、そのことに全く気づくことができなかった。申し訳ありません。この一件については、コロンの側にいた私が責任を負いましょう。」

 その日はそこで1日の活動を終えた。そして、暫くは休養に充てることにした。怪我をしっかり治して万全の状態で迷宮に挑戦したい。先に進んだルメールのことも気になりはするが、彼とてそんなにすぐに永久の霊峰を突破することはできないだろう。それに、焦ったところで待つのは血に濡れた地面を舐める運命のみだ。そんな帰還した日から幾日が経ったであろう。アンナの宿にとある来客があった。

「お初にお目にかかる。海軍卿マライタ・スレイミーナだ。ヘンダーソンとフレッチャーの要請により冒険者支援機関の手伝いに来た。お前が現在最上位の冒険者だと聞いたもので挨拶でもと思ってな。」

「それとひとつ、アジン・フレッチャーが亡くなった。自害だったようだ。それでアジンの遺書も見つかった。彼はコロンの行動を全て知っていたそうだ。つまり殉死と言ったところだろうな。」


2章  完
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...