冒険者よ永遠に

星咲洋政

文字の大きさ
24 / 32
3章

永久の霊峰

しおりを挟む
 天をも貫こうとする灰色の高い山々が連なる。山紫水明は一切介さず、そこに見えるは無情な岩盤なり。生命が存在しない山に、登山道は不自然に存在していた。これこそが迷宮としての道なのだろう。おそらくこの迷宮が最後の旅となるであろう。この迷宮は未踏の地ではあるが、ゴールの位置は明らかであるようだ。山脈の中に混じる一際高い超高山、その頂上に輝きが見える。

「その考えは正解だ、冒険者よ。」

迷宮中からその声は轟く。男性の声に聞こえるが、聞いたことのある声ではない。私は山々を見渡し、その声の主を探す。山頂からだ、あそこから声が聞こえているんだ。

「目が合ったな、勘づいたかな?ここまで辿り着いて見せたのは今まで何人いたであろうか。ふはははは、まあよい。冒険者よ、我の元まで辿り着いて見せるがよい。」

そう言うと謎の声はそれきしもう聞こえなくなってしまった。永久の霊峰に辿り着いた者は、私と冒険者ルメール以外にも過去には居たそうだ。だが、踏破されていないことを考えると他は皆犠牲になったのであろう。今、目の前にいる脅威などによって。私はこの脅威を知っている。古の石室を彷徨っていた亡霊だ。であるならばこいつの攻撃手段は「手」だ。動きから目を離すことさえしなければドジを踏み抜くことはない。

「ならば、もう一手。」

間一髪のところで被弾を免れた。私の背後から忍び寄る影がもう一つ。もう一体の亡霊だ。またあの声が聞こえた。なんと恐ろしい事実であろうか。つまりこの迷宮に逃げ場はないということだ。

 この亡霊たちに絶命の一撃を与えられるのは銀の弾丸だけだ。複数を相手にすることは無謀。目指すのは逃げのみ。一つだけ不安があるが、それはそれで一度実践をして結論を導きたい。逃げるのであればやることは決まっている。狙うのは脚だ。

「なるほど、流石の太刀捌き。流石の立ち回りといったところだ。不意を突いての挟撃を見事切り抜けてしまった。」

どちらか一人の亡霊を足止めし、その場から離れた上でもう一人の足を奪う。各個撃破により逃走に成功した。だが物陰で体勢を立て直していると、深い霧が私を囲み始めた。

「我は眷属。湖の主の手足となり、侵略者を排除する。」

霧の衛兵こと「眷属」だ。私の懸念は現実となった。この迷宮では常に行動が監視されており、動きに合わせて脅威が送り込まれるようになっているみたいだ。この突然の出来事、私は眷属の発生に合わせて攻撃を当てることが出来なかった。それはつまり、俊敏な脚、鋭い槍の持ち主の眷属と真っ向から勝負しなければならないということである。

「さあどうする、冒険者よ?この迷宮の攻略は、今まで培った経験の集大成だと思え。そして眷属がいるということはどういうことか。」

濃霧と共にそれは現れた。その顔は黒く塗りつぶされ、ローブの裾や袖からは細い触手のようなものが覗きだしている。指は異常に痩せ細り、骨だけにも思える細さ。

「暗夜の樹海の秘密に触れ、それを振り払りここまで駒を進める冒険者がいる。久しいな、私こそは湖の主だ。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...