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3章
魔神
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夢幻の湖畔を統べる主人「湖の主」だ。彼はあのとき確かに死んだはずだ。なぜ今この場に立っているのか。迷宮の力がそうさせるのだろうか。そんな湖の主の背後の岩陰が気配を漏らす。人影が見える。赤い剣に赤いコート、冒険者ルメールだ。
「ついに姿を表したな湖の主。お前を倒せば霧の衛兵は消滅する。」
パァアアン!!!
冒険者ルメールは銀の弾丸を撃ち放った。深紅のコートに潜らせていた銃を湖の主に向けて。しかし、渾身の一発は届かず。湖の主の身体の周りには深い霧が漂っている。その霧は銀の弾丸の加速をみるみるうちに打ち消してしまった。失速した弾丸は、乾いた音を立てながら地面に落ちて転がる。霧の主はその細い指で銀の弾丸を拾い上げ、眺めている。
「このような小細工で私が倒せると思ってしまったのか。ふむふむなるほど、確かにこの弾丸は必殺の一撃だ。私にも同じことが言えよう。それはしかし、当たればの話だがな。」
強い。確かに私は銀の弾丸で霧の主を突破した。だがあれは、彼が自ら命を断ったからであり、己が手で掴んだ勝利ではない。ルメールは思わず舌打ちをする。そしてすぐさま次弾装填を開始する。時間を稼ぐために彼のポケットから出てきたのは白い球。地面に転がるとそれは破裂し、深い煙を充満させた。ルメールは煙の中にその身を隠す。煙の方角から、弾丸と銃身とがぶつかる金属音がかすかに聞こえる。
「そういえば貴様……我が主の友である勇者ロン・スランカ、あやつと同じ技を使うのか。なるほど、素質だけは確かなモノみたいだな。だが、それがなんだ?勇者ロンとお前が同じだと?ふざけるな、それは最上級の侮辱もいいところだ。私はもはや貴様の存在を許すことができない。剣を取れ、銃を取れ。覚悟しろ、勇者よ。」
霧の主の足元からは濃霧が広がっていき、それはやがて迷宮中の足元を覆っていった。ひどく脚が重たい、霧から足を引き揚げることが叶わない。
「私がなぜ貴様の前に姿を現さなかったのか。貴様一人殺すのには眷属で十分であるからだ。」
足を固定されたルメールにじわりじわりと霧の主は近づいていく。ルメールは銀の弾丸を放つ。しかし霧の加護の前では届かない。魔法を霧の主に向けて放つ。やはり届かない。必死で剣を振り回す。霧の主は赤い剣を片手で掴み、刀身を握りつぶしてしまった。
「いやあああああ!!近づくなああ。」
霧の主は眼前まで近寄って、その口を手で塞ぎ、語った。
「我は霧の魔神ロシュフォール。貴様は殺さぬ。その代わりお前の精神に入り込みその身体に干渉する。人の身は器として適す、これで魔剣を思う存分振るうことができるぞ。」
霧の主の手のひらからは、深い霧が際限なく生成されていきルメールを包み込み始める。ルメールは呼吸ができず唾液を垂らし気を失った。漂う霧は次第にその範囲を広げる、私や眷属をまるで銀河の星屑にするくらい広く。霧の目からはうめき声が聞こえてくる。しかしその声もまた一つそして一つと小さくなっていき、気づいたときにはそれも聞こえなくなった。霧は晴れる。
「もう既に分かっているであろう。この私こそが魔剣ロシュフォールそのものだ。」
深紅のコートに赤い剣、冒険者ルメールがそこに立っている。だが、そこに意思はなく。コートの袖口や裾からは霧の主の触手が覗く。
「ついに姿を表したな湖の主。お前を倒せば霧の衛兵は消滅する。」
パァアアン!!!
冒険者ルメールは銀の弾丸を撃ち放った。深紅のコートに潜らせていた銃を湖の主に向けて。しかし、渾身の一発は届かず。湖の主の身体の周りには深い霧が漂っている。その霧は銀の弾丸の加速をみるみるうちに打ち消してしまった。失速した弾丸は、乾いた音を立てながら地面に落ちて転がる。霧の主はその細い指で銀の弾丸を拾い上げ、眺めている。
「このような小細工で私が倒せると思ってしまったのか。ふむふむなるほど、確かにこの弾丸は必殺の一撃だ。私にも同じことが言えよう。それはしかし、当たればの話だがな。」
強い。確かに私は銀の弾丸で霧の主を突破した。だがあれは、彼が自ら命を断ったからであり、己が手で掴んだ勝利ではない。ルメールは思わず舌打ちをする。そしてすぐさま次弾装填を開始する。時間を稼ぐために彼のポケットから出てきたのは白い球。地面に転がるとそれは破裂し、深い煙を充満させた。ルメールは煙の中にその身を隠す。煙の方角から、弾丸と銃身とがぶつかる金属音がかすかに聞こえる。
「そういえば貴様……我が主の友である勇者ロン・スランカ、あやつと同じ技を使うのか。なるほど、素質だけは確かなモノみたいだな。だが、それがなんだ?勇者ロンとお前が同じだと?ふざけるな、それは最上級の侮辱もいいところだ。私はもはや貴様の存在を許すことができない。剣を取れ、銃を取れ。覚悟しろ、勇者よ。」
霧の主の足元からは濃霧が広がっていき、それはやがて迷宮中の足元を覆っていった。ひどく脚が重たい、霧から足を引き揚げることが叶わない。
「私がなぜ貴様の前に姿を現さなかったのか。貴様一人殺すのには眷属で十分であるからだ。」
足を固定されたルメールにじわりじわりと霧の主は近づいていく。ルメールは銀の弾丸を放つ。しかし霧の加護の前では届かない。魔法を霧の主に向けて放つ。やはり届かない。必死で剣を振り回す。霧の主は赤い剣を片手で掴み、刀身を握りつぶしてしまった。
「いやあああああ!!近づくなああ。」
霧の主は眼前まで近寄って、その口を手で塞ぎ、語った。
「我は霧の魔神ロシュフォール。貴様は殺さぬ。その代わりお前の精神に入り込みその身体に干渉する。人の身は器として適す、これで魔剣を思う存分振るうことができるぞ。」
霧の主の手のひらからは、深い霧が際限なく生成されていきルメールを包み込み始める。ルメールは呼吸ができず唾液を垂らし気を失った。漂う霧は次第にその範囲を広げる、私や眷属をまるで銀河の星屑にするくらい広く。霧の目からはうめき声が聞こえてくる。しかしその声もまた一つそして一つと小さくなっていき、気づいたときにはそれも聞こえなくなった。霧は晴れる。
「もう既に分かっているであろう。この私こそが魔剣ロシュフォールそのものだ。」
深紅のコートに赤い剣、冒険者ルメールがそこに立っている。だが、そこに意思はなく。コートの袖口や裾からは霧の主の触手が覗く。
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