勇者のおまけも大変だ!【改稿版】

見崎天音

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第二章 騎士団編

第4話 入団テスト③ それぞれの事情

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 それからは改めてみんなで自己紹介合戦。

 ピンクゴールドの髪に淡いグリーンの瞳のカミラ・キルシュは17歳。
 もともと騎士志望で学園を卒業後に入団テストを受けるつもりがケーキ屋さんを営んでいる実家の母親が病で倒れたことで断念。
 しかし病気療養中の母親の強い勧めで今回の入団テストに参戦。

 金髪にエメラルドグリーンの瞳のシャーリー・ギムソンは18歳。
 なんと貴族だった。ギムソン男爵家の長女。優秀な騎士を多く輩出している家柄のようだ。

 父親が再婚後、義母に邪魔者扱いのごとく政略結婚を画策されたので思い切って家を出るために入団テストを受けにきたという。

 そして、私が絶対に年下だと思っていた水色の髪と瞳のシモンヌ・ドーファンはなんと、20歳だった。

 服飾関係の商家の娘。
 私が発案したキュロットとガウチョパンツを商品化して世に出した所謂アパレル会社のお嬢様にしてデザイナー。

 さすがに20歳ともなると縁談話がひっきりなしにくるのに辟易して入団テストに参戦したという。
 お嬢様なのに剣術なんてできるの? と思ったら、護身術として剣術を習っていたらしい。
 幼少の頃から誘拐されたりとなかなかハードな人生を送っていたようだ。

「で、見た目15歳、実年齢18歳のアヤーネはどうして入団テストを受けようと思ったの? アヤーネは貴族のご令嬢でしょ?」

 カミラの言葉に私は目を丸くする。

「え? どうしてそう思うの?」

「その剣士服はマッカーニーのものですわね。全身で総額、50万ピーラというところですわ」とシモンヌ。

「50万ピーラ? それって高いの?」
 首を傾げながら聞く私にシャーリーが驚いた顔で答えてくれた。

「一番下っ端の騎士の1ヶ月の給金がだいたい15万ピーラだよ。班長が30万ピーラ、部隊長が40万ピーラ、副団長が50万ピーラ、団長が60万ピーラってところかな」

 なるほど。
 まず、ピーラがこの国の通貨で私の着ている服は騎士団副団長の1ヶ月分のお給料ってことだね。

 それは、高いね。

 勉強になります。
 そう言えば、私ったらこの国のお金なんて見たこと無いないものね。

「これは、相当な家柄のご令嬢ってことね。」

「へ? 私はただの庶民です。庶民過ぎてお金の価値もわからないくらい」

「もう何言ってるのよ。お金の価値がわからない庶民なんている訳ないでしょ。そんなこと言ってたらお店で買い物なんて出来ないでしょ?」

 ごもっともです。

 思えば、私は今まで外に出たことがないからね。
 お店で買い物か。
 とってもしてみたい。
 街はどんな雰囲気なんだろう?
 そうだ! 騎士になってお給料もらったらまず、お店でお買い物をしよう。

 新たな決意を胸に顔をあげると3人が目を丸くして私を凝視していた。

「アヤーネ、家から出たことないの?」

「街で買い物もしたことないのかい?」

「まさか、そんな訳ないですわよね? 学園には通っていらしたでしょ? どちらの学園を卒業されたのかしら?」

 げっ、やばい。どうやら先ほど思っていたことが口に出ていたようだ。

 あまりにも慌てた私はシモンヌの言葉にバカ正直に答えてしまった。

「学園は通ってないの。」

 私のその言葉にまたまた驚く3人。
 しまった。3人の視線に耐えられず、思わずうつむいてしまった。

「学園にも通わせない、家からも出さないなんてアヤーネのご両親は過保護すぎよね」

「あのね、両親はいないの」

 カミラのその言葉にうつむいたままそう答える私。

 この世界にはね。
 お父さんとお母さん、どうしてるかな。
 ふと、思い出して眉毛を寄せた私にシャーリーが口を開いた。

「なんだかごめん。悲しい事を思い出させて」

 あ、これ両親が亡くなってるって思ってるパターンだね。
 安心してちゃんと、生きてるからね。
 それを言えないのがつらい。

「ううん、大丈夫よ。両親の代わりに後見をしてくれてる人がちゃんといるから」

「後見人が美少女を監禁……」カミラのつぶやいた言葉にギョッとする。

 か、監禁?! 違うから! 否定しようと口を開きかけた私にシモンヌが言った。

「アヤーネがここにいるのを後見人の方は知っていらっしゃるの?」

「へ? そ、それは……実は知らないの。強行突破で来ちゃったから」

「そうなんだ。逃げてきたってことね」深いため息とともにカミラが言った。

 逃げてきた? うん、ある意味そうかもしれない……

 オル様の売り言葉に買い言葉で入団テストを受けることになったけど、本音はオル様とアデライト様のいない場所に隠れていたかったんだ。

 ここにいるみんなはそれぞれ深刻な事情があるんだもんね。
 私の説得力のない理由じゃあ、呆れられちゃうのも頷けるな。

 なんだかごめんなさい。ますます顔を上げられないや。

 そんな私の頭を向かいに座っているシャーリーがガシガシと撫でた。
 思わず顔を上げるとみんなが真剣な顔をして私を見つめていた。

 隣に座っているカミラが「大丈夫よ。私達、何が何でも入団テストを合格しましょう」と言えば、「そうだね。今から男どもは全員敵だ。アヤーネのことは私が守るよ」とシャーリーが言った。

 カミラの言葉に頷きかけ、シャーリーの謎のイケメン発言に首を傾げていると、斜め向かいに座っているシモンヌが優しい笑顔を私に向けた。

「アヤーネ、これお食べになって。プリンはね栄養価が高いんですのよ」
 と言ってデザートのプリンを私の方に押しやった。

 まさか、私が小柄なのを栄養不足だとか思ってないでしょうね?
 身長が低いのも凹凸のないボディも日本人だからだよ。
 まあ、ありがたくいただくけどね。
 プリン。
 大好きだから。

「シモンヌ、ありがとう」と私はとびきりの笑顔を向けた。

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