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第二章 騎士団編
第18話 入団式は混乱状態
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只今、屋内の訓練所で入団式の真っ最中です。
今回入団したのは28名。
入団テストのブロック分けごとに並んでいるので私達女子4人はバラバラになった。
でもリベルトとは一緒だ。
なんてたって同じブロックの対戦相手だものね。
そうそう、入団テストで使用したネームプレート、これがとても優れものだった。
これがそのまま身分証となり、様々な指示もネームプレートに表示されるとのこと。
支給された騎士団の制服の胸ポケットにちょうど収まるサイズでこれさえあれば、王宮のどこでも出入り自由。もちろん、悪用されないように特定個人仕様の術式が施されている。
国王様とマシュー団長のお言葉が終わり退場した後、第三部隊の隊長さんから今後の日程が発表された。
第三部隊の隊長さんの名前はダミアン・デンナーさん。
右頬に傷がある明るい茶色の短髪に緑の瞳の美丈夫だ。
明日から二週間、午前中は騎士団と王宮内の規定、マナーの研修、休憩を挟んで午後からは剣術の訓練をするそうだ。
ちょうど二週間後に開催される勇者様と愛し子様の御披露目会に標準を合わせてカリキュラムを作ったらしい。
要は新人騎士も警護につけるように教育をすると言うことだ。
うーむ、当日はアヤカとアヤーネの二役か……
まあ、その時に考えよう。
ちなみに王宮騎士団は第五部隊まであるそうだ。
第一部隊、第二部隊は、勇者召喚を期に悪鬼王討伐部隊として日夜訓練に明け暮れ、第三部隊、第四部隊は王宮、王都の警備を担当。
第五部隊は特殊部隊と言われる国王直下の部隊らしい。
リベルト情報では少数精鋭で人数も不確定の上、任務も謎とのこと。
そんな説明を聞いていると、入り口が何だか騒がしくなった。
目を向けると黒いローブ姿の5人組がゾロゾロと入って来た。
1人だけフードを被っている。
「なんだ? 魔導師団か?」
リベルトのその言葉に私も頷いた。
先頭にいるのは魔導師団副団長のルーカスさんだ。
一瞬、ドキリとしたが、アヤカの時とアヤーネの時の魔力のオーラは若干違いがあることがリリアン様の鑑定で立証済みなので慌てることはない。
たぶん、祝福のブレスレットが意図的にそうしてくれているようだ。
まあ、魔力のオーラ自体、相当の魔力保持者じゃなきゃわからないらしいけど、魔導師団は普通の人じゃないからね。
魔導師団の5人は入り口側の壁沿いに一列に並び第三部隊の隊長に一礼してその場に留まった。
ただの見学かな?
医師団のジュール様やリリアン様、寮の管理人さんも壁沿いに入団式を見学してるものね。
そんな中再び入り口が騒がしくなった。
何だろう? また見学者が増えるのかな?
複数の衣擦れの音と『聖女様』というフレーズが聞こえてくるような……
入り口の喧騒を物ともせず、入団式を遂行すべく、デンナー隊長が一際大きな声を上げた。
「あー、諸君の中で乗馬が出来ない奴はいるか?」
その言葉に私はいち早くピンと手を上げる。
それと同時に、入り口に現れた聖女のサーヤ様が私を指さし、叫んだ。
「いたわ! あの子よ! あなた、今日から私の護衛に付いてちょうだい!」
へ? 私のこと? 私は手を上げたままサーヤ様に視線を向けた。
「ちょっと、待ってくれ、我々魔導師団の方が早くこの場にいて様子をうかがっていたんだ。交渉権はこちらの方が先だ」と、言いながらルーカスさんがゆっくりとこちらに歩いてきた。
黒いローブの5人組に圧倒されサッと道を開ける新人騎士達。
そこへ、サーヤ様を追いかけてきたと思われる獣人国のヘンドリック王子と側近の2人も現れた。
「サーヤ! 勝手に何を言っているんだ」
ヘンドリック王子はそう言いながらサーヤ様の腕を掴もうとしたが、サーヤ様は一目散に私を目掛けて走って来た。
とっさにリベルトが私を守るように立ちはだかり、私は状況がまったく読めずに右手を上げたまま固まった。
えっと、これってどんな状況?
手は下ろしても良いよね?
乗馬が出来ないのって私だけみたいだし……
ちょっと、はずかしい……
「いったい何の騒ぎだ。今は騎士団の入団式の最中だぞ。礼儀をわきまえてくれ。ヘンドリック王子殿下もよろしいですね」
そういいながらデンナー隊長は魔導師団と獣人族の王子様達に囲まれた私とリベルトのもとにやって来た。
「ダミアン・デンナー隊長、入団式を中断させて申し訳ない。しかしながらこちらが得たい情報がことごとく秘匿となっていたので入団式に潜入するしかなかったんだ」
そう言ってルーカスさんは頭を下げた。
「デンナー隊長、俺達も邪魔するつもりは無かったんだ。すまない。ほら、サーヤも謝りなさい」とヘンドリック王子が言った。
「どうしてよ! だって私はこの子に会いたくていろいろ調べたのに情報を隠していたのは騎士団の方でしょう。私は聖女という立場から狙われているのよ。入団テストで襲撃事件があったばかりなんだから。心置きなく生活するために強い護衛が必要なの!」
「あの襲撃事件で狙われていたのは私だぞ。聖女様ではない」
そう言って黒いローブのフードをすっと外したのは目も覚めるような美男子だった
私はリベルトの背中からひょっこりと顔を出し観察した。
綺麗なアーモンド型のアメジストの瞳、サラサラのパープルがかった銀色の髪、スッと通った鼻筋はとても上品で、唇は薄すぎず厚すぎず、まるで口紅をつけてるかのような綺麗なピンク色。
も、もしかしてアデライト様?
女性の時より身長が20センチ以上は高いし、体格もいわゆる細マッチョ的な感じだ。
えっと、男性のときは確か、アデライナス様だっけ?
サーヤ様もアデライナス様を見てポカンと口を開けている。
「アデライナス・カルノーだ。アデライトのほうが名が知られているがな。して、そなたは名はなんという?」
ポカンとしているサーヤ様に目も向けずに私に向かってそう言うアデライナス様。
えー教えたくない。
あなたはついこの間まで私のライバルだったんだから。
男だと知った今も何となく釈然としないのだ。
だって、女の私よりも綺麗すぎるもの。
ムッと口を結び答えない私にアデライナス様はとろけるような笑顔を向ける。
残念ですね。それは普通のお嬢さんには有効な手ですが私には通用しません。
「秘密です」
「え?」
まさか自分の微笑みが通用しなかったのが信じられないとばかりにキョトンとするアデライナス様。
ふん、私の心をどん底まで落ち込ませた罪は重いのだ。
そして私はサーヤ様に向き直ってさらに口を開いた。
「聖女様、申し訳ありませんが、私は入団したばかりの新人騎士なのであなた様の護衛などはとても荷が重すぎます。乗馬も出来ない未熟者ですから」
「ぶっ、ワァハハハ! これは面白い。あ、いきなり笑ってすまない。俺はジャイナス国第一王子のヘンドリック・マース・ジャイナスだ。ヘンドリックと呼んでくれ。君の乗馬の講師は俺が引き受けよう。迷惑をかけたお詫びだ。どうだろうか、デンナー殿。聞くところによると、新人騎士をあと二週間で仕上げるとか。それでは、1人に割く時間はないのではないか? 確か、名前はアヤーネだったかな? 思えば、君とは入団テスト初日に手合わせをした縁がある」
げっ、覚えてたか。
って言うか、なに名前バラしてるんですか王子様。
「そうか、名前はアヤーネというのか。その役目は私が引き受けよう。一国の王子殿下にそのような事はさせられない」と私から視線を外さずにアデライナス様が言った。
いやですよ。アデライナス様に教えを請うなんて。
こうなったら自力で乗馬の技術を習得してやる。
自転車が乗れるんだ、馬だってなんとかなるだろう。
そう言おうと口を開きかけたところでルーカスさんの声が割って入った。
「アディ殿、ここへは乗馬の講師の話をしに来た訳ではありませんよ。私は魔導師団副団長のルーカス・シナルディと申します。アヤーネさんを魔導師団に勧誘しに来ました。アヤーネさんの才能は騎士団にはもったいない。こう言ってはなんですが、騎士団ではあなたの力を上手く引き出すことが出来ないでしょう。是非とも魔導師団に入団して欲しい」
魔導師団に入団?
出来ませんよ。
そんな恐ろしいこと。
ばれる確率があがるじゃないですか。
あ、でもオル様のそばにいられることは利点だな。
そんな事を考えているといつの間にかシモンヌ、シャーリー、カミラが私の周りに集まって来ていた。
気づけば、他の新人騎士達も魔導師団を睨みつけながら殺気立っているような……
そんな中、ダミアン・デンナー隊長が不敵に笑いながら声をあげた。
「ほう、騎士団にはもったいないだと? かねがね思っていたが、魔導師団の方々はどうも我々騎士団を軽んじているところがあるな。自分達は騎士団より上と思っているのか?」
すると、ルーカスさんとアデライナス様の後ろに控えていた魔導師団員がボソッと呟いた。
「実際上だ。これだから剣を振り回すしか能がない奴らは話が通じない」
あっちゃー!しっかり聞こえてますよ。
騎士団には獣人族が結構いるんだから。
案の定リベルトのケモ耳もピンと緊張している。
この魔導師団員の一言で先ほどよりも殺気が強まっているよね。
ものすごい険悪なムードだ。
なんだか責任を感じる……
私は余計な一言を呟いた魔導師団の青年をじっと見つめながら問いかけた。
「あの、魔導師団って何するところですか?」
あまりにも呑気な質問に一瞬、その場の空気が緩んだ。
「え? それは魔術の研究や魔導具の開発したり、獣鬼の討伐に騎士団と合同で出動したり、あと、治癒部隊は討伐から帰還した騎士を医師団と共に治療したりする」
「へえ~、じゃあ、魔導師団がいれば安心ですね。獣鬼の討伐にも協力してくれるし、怪我をしても医師団の皆さんと直してくれるんですね」
「ああ、そうだ。我々がいなければ騎士団は活動出来ない」
「そうですか。じゃあ、魔導師団は単独で獣鬼の討伐にも行くんですね?」
「え? い、いや、我々は単独で行くことはない。あくまで後方支援担当だ」
「なるほど、危ないことは騎士団任せってことですね。では、騎士団がいないとこの世は獣鬼だらけになってしまいますね?」
「うっ、そ、それは……」
「結局、どっちが上とか下とか関係ないんですよ。お互いが必要なんです。それに、私の力は騎士団でこそ発揮できると思います。こう見えても私強いんですよ? あ、でも私が怪我したときは治療、よろしくお願いしますね」
そう言って私はにっこりと笑顔を向けると先ほどの青年が顔を赤くして俯いた。
そして意を決したように顔をあげると口を開いた。
「あ、俺、騎士団の皆さんに失礼なこと言って……すみませんでした。アヤーネちゃんが怪我した時は俺がちゃんと治療するから」
はい、素直でよろしい。
「また被害者が1人増えたね」とカミラが小さい声で呟いた。
隣でシャーリーとシモンヌが頷いている。
何の被害者だろう? 首を傾げる私の頭にリベルトがポンポンと手を乗せた。
そんな私達を見ながらデンナー隊長がルーカスさんとアデライナス様に向けて声をかけた。
「そう言うことで、悪いがアヤーネはうちの新人騎士だ。魔導師団に渡す訳にはいかない。乗馬の講師はヘンドリック王子殿下にお願いしよう。ヘンドリック王子殿下、うちの新人騎士をお願いいたします」と言ってヘンドリック王子に騎士の礼を取った。
えっ、この場合の私の意志は無視なのか?
こうして私はヘンドリック王子に乗馬を習うことになったのだった。
その時にヘンドリック王子の側近の1人に冷たい視線で睨まれているとは知らずに……
今回入団したのは28名。
入団テストのブロック分けごとに並んでいるので私達女子4人はバラバラになった。
でもリベルトとは一緒だ。
なんてたって同じブロックの対戦相手だものね。
そうそう、入団テストで使用したネームプレート、これがとても優れものだった。
これがそのまま身分証となり、様々な指示もネームプレートに表示されるとのこと。
支給された騎士団の制服の胸ポケットにちょうど収まるサイズでこれさえあれば、王宮のどこでも出入り自由。もちろん、悪用されないように特定個人仕様の術式が施されている。
国王様とマシュー団長のお言葉が終わり退場した後、第三部隊の隊長さんから今後の日程が発表された。
第三部隊の隊長さんの名前はダミアン・デンナーさん。
右頬に傷がある明るい茶色の短髪に緑の瞳の美丈夫だ。
明日から二週間、午前中は騎士団と王宮内の規定、マナーの研修、休憩を挟んで午後からは剣術の訓練をするそうだ。
ちょうど二週間後に開催される勇者様と愛し子様の御披露目会に標準を合わせてカリキュラムを作ったらしい。
要は新人騎士も警護につけるように教育をすると言うことだ。
うーむ、当日はアヤカとアヤーネの二役か……
まあ、その時に考えよう。
ちなみに王宮騎士団は第五部隊まであるそうだ。
第一部隊、第二部隊は、勇者召喚を期に悪鬼王討伐部隊として日夜訓練に明け暮れ、第三部隊、第四部隊は王宮、王都の警備を担当。
第五部隊は特殊部隊と言われる国王直下の部隊らしい。
リベルト情報では少数精鋭で人数も不確定の上、任務も謎とのこと。
そんな説明を聞いていると、入り口が何だか騒がしくなった。
目を向けると黒いローブ姿の5人組がゾロゾロと入って来た。
1人だけフードを被っている。
「なんだ? 魔導師団か?」
リベルトのその言葉に私も頷いた。
先頭にいるのは魔導師団副団長のルーカスさんだ。
一瞬、ドキリとしたが、アヤカの時とアヤーネの時の魔力のオーラは若干違いがあることがリリアン様の鑑定で立証済みなので慌てることはない。
たぶん、祝福のブレスレットが意図的にそうしてくれているようだ。
まあ、魔力のオーラ自体、相当の魔力保持者じゃなきゃわからないらしいけど、魔導師団は普通の人じゃないからね。
魔導師団の5人は入り口側の壁沿いに一列に並び第三部隊の隊長に一礼してその場に留まった。
ただの見学かな?
医師団のジュール様やリリアン様、寮の管理人さんも壁沿いに入団式を見学してるものね。
そんな中再び入り口が騒がしくなった。
何だろう? また見学者が増えるのかな?
複数の衣擦れの音と『聖女様』というフレーズが聞こえてくるような……
入り口の喧騒を物ともせず、入団式を遂行すべく、デンナー隊長が一際大きな声を上げた。
「あー、諸君の中で乗馬が出来ない奴はいるか?」
その言葉に私はいち早くピンと手を上げる。
それと同時に、入り口に現れた聖女のサーヤ様が私を指さし、叫んだ。
「いたわ! あの子よ! あなた、今日から私の護衛に付いてちょうだい!」
へ? 私のこと? 私は手を上げたままサーヤ様に視線を向けた。
「ちょっと、待ってくれ、我々魔導師団の方が早くこの場にいて様子をうかがっていたんだ。交渉権はこちらの方が先だ」と、言いながらルーカスさんがゆっくりとこちらに歩いてきた。
黒いローブの5人組に圧倒されサッと道を開ける新人騎士達。
そこへ、サーヤ様を追いかけてきたと思われる獣人国のヘンドリック王子と側近の2人も現れた。
「サーヤ! 勝手に何を言っているんだ」
ヘンドリック王子はそう言いながらサーヤ様の腕を掴もうとしたが、サーヤ様は一目散に私を目掛けて走って来た。
とっさにリベルトが私を守るように立ちはだかり、私は状況がまったく読めずに右手を上げたまま固まった。
えっと、これってどんな状況?
手は下ろしても良いよね?
乗馬が出来ないのって私だけみたいだし……
ちょっと、はずかしい……
「いったい何の騒ぎだ。今は騎士団の入団式の最中だぞ。礼儀をわきまえてくれ。ヘンドリック王子殿下もよろしいですね」
そういいながらデンナー隊長は魔導師団と獣人族の王子様達に囲まれた私とリベルトのもとにやって来た。
「ダミアン・デンナー隊長、入団式を中断させて申し訳ない。しかしながらこちらが得たい情報がことごとく秘匿となっていたので入団式に潜入するしかなかったんだ」
そう言ってルーカスさんは頭を下げた。
「デンナー隊長、俺達も邪魔するつもりは無かったんだ。すまない。ほら、サーヤも謝りなさい」とヘンドリック王子が言った。
「どうしてよ! だって私はこの子に会いたくていろいろ調べたのに情報を隠していたのは騎士団の方でしょう。私は聖女という立場から狙われているのよ。入団テストで襲撃事件があったばかりなんだから。心置きなく生活するために強い護衛が必要なの!」
「あの襲撃事件で狙われていたのは私だぞ。聖女様ではない」
そう言って黒いローブのフードをすっと外したのは目も覚めるような美男子だった
私はリベルトの背中からひょっこりと顔を出し観察した。
綺麗なアーモンド型のアメジストの瞳、サラサラのパープルがかった銀色の髪、スッと通った鼻筋はとても上品で、唇は薄すぎず厚すぎず、まるで口紅をつけてるかのような綺麗なピンク色。
も、もしかしてアデライト様?
女性の時より身長が20センチ以上は高いし、体格もいわゆる細マッチョ的な感じだ。
えっと、男性のときは確か、アデライナス様だっけ?
サーヤ様もアデライナス様を見てポカンと口を開けている。
「アデライナス・カルノーだ。アデライトのほうが名が知られているがな。して、そなたは名はなんという?」
ポカンとしているサーヤ様に目も向けずに私に向かってそう言うアデライナス様。
えー教えたくない。
あなたはついこの間まで私のライバルだったんだから。
男だと知った今も何となく釈然としないのだ。
だって、女の私よりも綺麗すぎるもの。
ムッと口を結び答えない私にアデライナス様はとろけるような笑顔を向ける。
残念ですね。それは普通のお嬢さんには有効な手ですが私には通用しません。
「秘密です」
「え?」
まさか自分の微笑みが通用しなかったのが信じられないとばかりにキョトンとするアデライナス様。
ふん、私の心をどん底まで落ち込ませた罪は重いのだ。
そして私はサーヤ様に向き直ってさらに口を開いた。
「聖女様、申し訳ありませんが、私は入団したばかりの新人騎士なのであなた様の護衛などはとても荷が重すぎます。乗馬も出来ない未熟者ですから」
「ぶっ、ワァハハハ! これは面白い。あ、いきなり笑ってすまない。俺はジャイナス国第一王子のヘンドリック・マース・ジャイナスだ。ヘンドリックと呼んでくれ。君の乗馬の講師は俺が引き受けよう。迷惑をかけたお詫びだ。どうだろうか、デンナー殿。聞くところによると、新人騎士をあと二週間で仕上げるとか。それでは、1人に割く時間はないのではないか? 確か、名前はアヤーネだったかな? 思えば、君とは入団テスト初日に手合わせをした縁がある」
げっ、覚えてたか。
って言うか、なに名前バラしてるんですか王子様。
「そうか、名前はアヤーネというのか。その役目は私が引き受けよう。一国の王子殿下にそのような事はさせられない」と私から視線を外さずにアデライナス様が言った。
いやですよ。アデライナス様に教えを請うなんて。
こうなったら自力で乗馬の技術を習得してやる。
自転車が乗れるんだ、馬だってなんとかなるだろう。
そう言おうと口を開きかけたところでルーカスさんの声が割って入った。
「アディ殿、ここへは乗馬の講師の話をしに来た訳ではありませんよ。私は魔導師団副団長のルーカス・シナルディと申します。アヤーネさんを魔導師団に勧誘しに来ました。アヤーネさんの才能は騎士団にはもったいない。こう言ってはなんですが、騎士団ではあなたの力を上手く引き出すことが出来ないでしょう。是非とも魔導師団に入団して欲しい」
魔導師団に入団?
出来ませんよ。
そんな恐ろしいこと。
ばれる確率があがるじゃないですか。
あ、でもオル様のそばにいられることは利点だな。
そんな事を考えているといつの間にかシモンヌ、シャーリー、カミラが私の周りに集まって来ていた。
気づけば、他の新人騎士達も魔導師団を睨みつけながら殺気立っているような……
そんな中、ダミアン・デンナー隊長が不敵に笑いながら声をあげた。
「ほう、騎士団にはもったいないだと? かねがね思っていたが、魔導師団の方々はどうも我々騎士団を軽んじているところがあるな。自分達は騎士団より上と思っているのか?」
すると、ルーカスさんとアデライナス様の後ろに控えていた魔導師団員がボソッと呟いた。
「実際上だ。これだから剣を振り回すしか能がない奴らは話が通じない」
あっちゃー!しっかり聞こえてますよ。
騎士団には獣人族が結構いるんだから。
案の定リベルトのケモ耳もピンと緊張している。
この魔導師団員の一言で先ほどよりも殺気が強まっているよね。
ものすごい険悪なムードだ。
なんだか責任を感じる……
私は余計な一言を呟いた魔導師団の青年をじっと見つめながら問いかけた。
「あの、魔導師団って何するところですか?」
あまりにも呑気な質問に一瞬、その場の空気が緩んだ。
「え? それは魔術の研究や魔導具の開発したり、獣鬼の討伐に騎士団と合同で出動したり、あと、治癒部隊は討伐から帰還した騎士を医師団と共に治療したりする」
「へえ~、じゃあ、魔導師団がいれば安心ですね。獣鬼の討伐にも協力してくれるし、怪我をしても医師団の皆さんと直してくれるんですね」
「ああ、そうだ。我々がいなければ騎士団は活動出来ない」
「そうですか。じゃあ、魔導師団は単独で獣鬼の討伐にも行くんですね?」
「え? い、いや、我々は単独で行くことはない。あくまで後方支援担当だ」
「なるほど、危ないことは騎士団任せってことですね。では、騎士団がいないとこの世は獣鬼だらけになってしまいますね?」
「うっ、そ、それは……」
「結局、どっちが上とか下とか関係ないんですよ。お互いが必要なんです。それに、私の力は騎士団でこそ発揮できると思います。こう見えても私強いんですよ? あ、でも私が怪我したときは治療、よろしくお願いしますね」
そう言って私はにっこりと笑顔を向けると先ほどの青年が顔を赤くして俯いた。
そして意を決したように顔をあげると口を開いた。
「あ、俺、騎士団の皆さんに失礼なこと言って……すみませんでした。アヤーネちゃんが怪我した時は俺がちゃんと治療するから」
はい、素直でよろしい。
「また被害者が1人増えたね」とカミラが小さい声で呟いた。
隣でシャーリーとシモンヌが頷いている。
何の被害者だろう? 首を傾げる私の頭にリベルトがポンポンと手を乗せた。
そんな私達を見ながらデンナー隊長がルーカスさんとアデライナス様に向けて声をかけた。
「そう言うことで、悪いがアヤーネはうちの新人騎士だ。魔導師団に渡す訳にはいかない。乗馬の講師はヘンドリック王子殿下にお願いしよう。ヘンドリック王子殿下、うちの新人騎士をお願いいたします」と言ってヘンドリック王子に騎士の礼を取った。
えっ、この場合の私の意志は無視なのか?
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