勇者のおまけも大変だ!【改稿版】

見崎天音

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第二章 騎士団編

第32話 お披露目会とデビュタント④

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デンナー隊長へのパフォーマンスも無事に終了。
 さあ、急いでアヤカとしてオル様のところに戻りますか。
 途中、ものすごい嫌な視線を感じ振り返った。

 目が合ったのは40代位と思われる男性だった。
 水色の髪に緑色の瞳。
 神経質そうな細面の顔は、まあまあ整っているが気味が悪いほどにやついている。

「これはこれはアヤカ様、今日は一段とお美しいですな」

 誰?

 私の疑問に万能タブレットが反応する。

 名前:ナザリオ・ランディル ランディル公爵家当主

 ランディル公爵家?
 どこかで聞いたことがあるような・・・

「その節は、我が娘が失礼をしました。しかし、お子様だと思っていたアヤカ様がこのように美しい大人の女性とはね。娘の非礼を改めてお詫びしたいのでこちらで是非、お話しを」

 そう言って私の手を握りしめた。
 あ! まだ子供の姿の時に私に水の玉を投げつけてきたメリンダ嬢の父親だ。

 うっ、気色悪い。

「いえ、もう過ぎたことですのでお気になさらないで下さい」

 そう言ってなんとかその手を振りきろうと四苦八苦していると、ご令嬢達に囲まれたイーサン様が通りかかった。

「アヤカ様、お久しぶりです」

 イーサン様! 突然のイーサン様の登場にランディル公爵の手が緩んだ。

「まあ、イーサン様。ご無沙汰してます」そう言いながらランディル公爵の手を振り切りイーサン様に駆け寄った。

 むちゃくちゃご令嬢達に睨まれましたがここは許していただきましょう。

「ランディル公爵様。申し訳ありません。イーサン様と愛し子同士のお話がありますのでこれにて失礼いたします」

 そう言うと、イーサン様も状況を把握したらしく話を合わせてくれた。

「あ、君達申し訳ないね。私達は、愛し子同士の話があるからこれで失礼するよ」

 ごめんなさい。
 イーサン様。
 せっかく、モテモテのところ。
 イーサン様を伴って飲み物エリアの先にある柱の陰に隠れる。
 ふぅ、助かった。

「イーサン様、ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、私も助かりましたよ。ご令嬢達を傷つけずにどうやって断ろうか頭を悩ませていたとこだったので」

 そうなんだ。
 モテる人も大変なんだね。

「あの男性、ランディル公爵と言いましたっけ? ずっとアヤカ様を嫌らしい目つきで見ていたので私も気になってはいたんです。何もなくて良かったです」

「ずっと? そうなんですか。見られていることも気づかなかったです」

「私も今日は少し気が張りつめているので気が付けたんですがね。実は神殿の月読みの聖者がトランス状態に入ったんです。そろそろ神託が降りているかもしれないので様子を見に行こうと思っていたところです」

 神託が?
 気になる……。
 私も後で神殿に行ってみよう。
 今から神殿に行くと言うイーサン様と別れて、今度こそオル様の待つテラスに向かう。

 目的のテラスに出れる吐き出し窓の前で、なぜかミリアさんとディランさんが立ちはだかっていた。

「あ、アヤカ様! えっと、のど渇きませんか? 渇きましたよね?」

「ミリア、あちらの方でアヤカ様の好きそうなフルーツジュースがあったぞ。ご案内してはどうだろう」

「さすがディランさんだわ。さあ、アヤカ様、参りましょう」

 え? なになに?

 喉は渇いてませんよ?

 なぜかがっちりとミリアさんに腕を掴まれ連れて行かれそうになる私の耳にビビアナ様の声が聞こえた。

「私はオリゲール様の婚約者ですのよ!」

 ん? オル様の婚約者?

 聞き捨てならないその言葉にミリアさんの腕をほどき、テラスに出た。

 突然現れた私にその場にいたオル様、ビビアナ様、ベロニカ様、ハビー様が一斉に驚きの顔をした。

「誰がオリゲール様の婚約者なんでしょうか? 私にも教えて下さいませんか?」

「あら、アヤカ様。ちょうど良いところにいらっしゃったわ。私の婚約者にこれ以上ちょっかいをかけないでくださいまし」

「ビビアナ嬢、僕のアヤカに変なこと言わないでもらおうか。君と婚約した覚えはない。母上とは行き違いがあったことは言ったはずだ。それにその事は今日君のエスコートをする事で納得したはずだ」

 今まで聞いたことのない冷たい声で言い放つオル様の言葉にビビアナ様は悔しそうに唇を噛んだ。

「こんな子のどこが良いの?! 私の方が何倍も綺麗よ! 突然現れたあなたにオリゲール様を奪われるなんて我慢なりませんわ。あなたなんて居なくなれば良いのよ!」

 ビビアナ様はそう言うと私に向かって手を振り上げた。
 とっさに目をつぶったが一向に頬が打たれる気配がない。
 ソッと目を開けると、振り上げたビビアナ様の腕をオル様が掴んでいた。

 た、助かった。

「ビビアナ嬢。わが国の国王陛下が後見する名付けの愛し子、及び我が想い人たるアヤカに対する暴挙、見過ごすことはできないぞ」

「お、お待ち下さい、オリゲール様。ビビアナ様の非礼はこのライバン国第一王女である私がお詫びいたします。私に免じてこの場はお許し下さい。私がきちんと言い聞かせますゆえ。アヤカ様もどうかお願い致します」と頭をさげた。

 一国の王女様に頭を下げられてはこちらも引くしかない。
 それにしてもビビアナ様ってあんなに気性の荒いご令嬢だったっけ?
 初対面のときの印象はおっとりとした感じだったんだけど。
 当のビビアナ様は青い顔をして呆然としていた。
 心ここにあらずのビビアナ様の肩を抱きながらベロニカ様はその場を後にした。

「アヤカ、大丈夫か?」
 オル様はそう言うとソッと私を抱きしめた。

 優しいオル様の魔力に包まれてバクバクと音を立てていた心臓が次第に落ち着いてきた。

 オル様はこの騒動を自分の口から説明したいとそのままテラスの椅子に私を誘導した。
 なぜかハビー様も一緒にその場に残って腰を下ろした。
 私の手を握りしめながらオル様が口を開いた。

「実は、ライバン国に親善外交に訪れた僕の両親にビビアナ嬢は以前この国に親善留学をした際に僕と想いを通わせていた、帰国のために泣く泣くお互いに想いを断ち切ったと母上に吹き込んだらしい。もちろん、そんな事実はない。ちょうどその時にアヤカの事をしたためた僕の手紙が届いたようなんだが、そこにはアヤカを花嫁として迎えたいと書かれていた」

 え? そんな前から?

「驚いたかい? 僕にとってはアヤカの年齢なんて関係ないんだ。8歳でも18歳でも。アヤカだから愛しているんだ。君に初めて会ったあの時から僕は君に恋をした。君以外の女性なんて考えられない。だから本当は18歳だったということも特に両親に伝えていなかった」

 だけどオル様のご両親、特にお母様は焦ったようだ。
 それはそうか、自分の21歳になる息子が8歳の女の子と結婚をしたいと言ってきたんだものね。

 そこでビビアナ様の登場ってことか。
 ちょうどお披露目会でライバン国の王子と王女を招待するのに便乗してビビアナ様も連れて来てしまえば息子の嫁問題も解決すると。

 しかし、この国に到着した後、8歳だと思っていた私が18歳だったこと、ビビアナ様とオル様が想いを通わせていた事実はなかった事からお母様は間違った選択をしたことを悟ったらしい。

 なる程、その話を聞けば、オル母が必死にお茶会に私を招待した理由が頷ける。
 あの時、きっとそこらへんの事情を私に説明したかったに違いない。
 でもハビー様が乱入した上に、ベロニカ様とビビアナ様まで呼んでしまったのでそのままになってしまった。

 その後はオル母とオル様、ビビアナ様とベロニカ様を交えて話し合った結果、今日のお披露目会でオル様がビビアナ様のエスコートをしてくれることを条件にけりが付いたはずだった。

 それなのに先ほどのビビアナ様の奇行には皆、驚いたようだ。
 なぜか、オル様が自分を婚約者としてエスコートをしてくれていると頭の中で変換されたようだ。

「あの様子は少し心配だな。またアヤカに手を出されては困るな。ビビアナ嬢のことを両親と陛下に報告してくるよ。アヤカは、ミリアとディランから離れないでくれ。おい、ハビーも証人として来てくれ」

 そうハビー様に声をかけるとオル様は私をギュッと抱きしめたあと立ち上がった。

 ああ、後ろ姿までなんて素敵なんだろうと思いながら見送った。




 衝撃的なビビアナ様との対決のあと、いよいよお披露目会がお開きとなった。
 私はリリアン様とミリアさんと手分けして会場の出口でデビュタントのご令嬢達に化粧水の試供品を配っていた。

 リリアン様もミリアさんも『アシストレンジャー』の一員と言うことでご令嬢達から絶大の人気だ。

 リリアン様もミリアさんもなんだかファンクラブみたいなのがあるようで驚いた。

 ご令嬢達の口から『ミリアレンジャー』とか『リリアンレンジャー』なる言葉が時々聞こえてくる。

『アヤカレンジャー』と呼ばれないのが少し寂しい。

 王都の街で『アシストレンジャー』の立ち位置を一度リサーチしてみよう。
 まあ、皆さんとても喜んでくれて嬉しい限りだ。

「アヤカ様、あと20個ほど足りませんね。在庫はアヤカ様の休憩室にあるんですよね? 私、取ってきますね」そう言ミリアさんに私は声をかけた。

「いえ、大丈夫です。私が行って来ます。転移で行った方が一瞬ですから」

 会場の出口は馬車の乗り場に一番近い扉が解放となるため私の休憩室とわりと距離があるのだ。
 素早く認識阻害の術をかけその場を離れると化粧室の一室から休憩室へ転移する。
 部屋に転移したとたん後頭部に衝撃を受けた。
 うっ、な、なに……?

 痛みを感じる間もなく、私の意識はそのままフェイドアウトしたのだった。


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