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55.東ヨーロッパの王政復古

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1943年4月から5月にかけてデュッセルドルフで約1か月の激しい市街戦の結果、西側連合軍がデュッセルドルフを占領した。
西側連合軍とソ連軍は東西からさらに侵攻を続け、ソ連はニュルンベルク、連合軍はシュトゥットガルトを攻略しようと、兵力を集中させていた。シュトゥットガルトは現在ではドイツ最大の工業都市になっており、ここが落とされると武器弾薬を新たに製造することができなくなり、ドイツ軍全体への補給の7割が途絶えてしまう。そのため、アイザックはシュトゥットガルトを防衛できなければドイツに挽回の機会は二度と訪れないと考えている。しかし、既にドイツは連合軍とソ連に包囲されており、敗戦色が濃厚になっているため、降伏の条件についてソ連ではなく、西側連合軍側に交渉の余地がある旨打診している。だが、マンハッタンやロンドンの惨状を知っている西側連合軍側はドイツへの憎悪から、交渉のテーブルに着くつもりはなく、ドイツの申し入れを完全に無視していた。
軍の被害についてはドイツよりも連合軍やソ連軍の方が遥かに多いのだが、イタリア、ドイツだけではソ連、アメリカ、イギリス、カナダ、ヨーロッパ解放同盟には国力で及ばず、兵器の性能差による戦術的な勝利を積み重ねているにも関わらず、西側連合軍とソ連軍は圧倒的な物量でドイツの内部まで押し込まれ、現在は国家存続の危機を目前にしている。
そして、今までポーランドから動かなかった日本軍が4月から中国、ソ連とは行動を共にせず、単独での動きを見せ始めた。
4月中旬には日本から陸軍の増援が10個師団到着し、日本軍単独でハプスブルク家の末裔を王に据えて、チェコ、スロバキア(チェコ・スロバキアを分割)、ハンガリー、オーストリアをポーランドと同様にそれぞれドイツからの解放と同時に王国として独立した。
日本政府は独立した各王国に対して通商友好条約と安全保障条約を締結し、50年間の日本軍の駐留を公式に承認させた。ヨーロッパに大日本帝国の軍事拠点を築いたことで、戦後に遥がソ連共産党書記長を引退したあとも、ソ連に東ヨーロッパを侵攻させないための措置でもある。しかし、兵員の少ない日本陸軍だけでは各国に駐留することは難しいため、各国に陸軍省が100%出資の警備会社を設立し、日本の退役軍人と現地の民間人を雇用して、日本軍駐屯地や大使館などの警備等は主に警備会社に委託することになった。
日本が独立させた各王国が自国の軍隊の再建を果たすまでは、日本軍が同盟国の防衛を負担しなければならない。そのため、日本からの兵器の輸出と同盟国軍の将校の教育に力を入れる方針に決まっていた。
一方、人民解放軍はオーストリアを通ってイタリア北部に進軍し、イタリアのフィレンツェから北側を占領し、ドイツとイタリアの物理的な分断に成功した。
中国は占領したイタリア北部を中国の領土とすることを宣言。日本とソ連、また日本が解放した東欧5か国がこの宣言を承認した。中国は人民解放軍の基地を北イタリアに複数建設し、基地の周りには基地建設をするために中国から連れてきた労働者の仮設住宅が複数建てられた。更にその労働者を相手に商売をするために中国から来た商人が露店を始め、基地を中心にイタリア北部には複数のチャイナタウンができた。

対して、満州と朝鮮半島からの引き揚げで大損を経験している日本軍は、解放した地域を主権国家として独立させて、大日本帝国へ併合することはしなかった。
日本も保安上の問題から、基地の建設は日本の大手ゼネコンに委託したうえで、労働者も現地の住民ではなく日本国籍を有するものだけで工事をする契約になっている。
ただ、好景気で人手不足の日本からわざわざ作業員を相手にヨーロッパまで商売に来る日本人はほとんどいなかったので、日本軍の基地の周りには日本人街はできなかった。その代わり、どういう訳か日本軍駐屯地の周りにもチャイナタウンができた。
もちろん新たなマーケットを求めて日本から進出してくる日本企業もいくつかあったが、基本的に人手不足なので管理職や技術者のみが日本から派遣され、従業員の大半を現地で採用する方針を取っていた。しかし、こちらにも何故か中国人労働者が大量に中国から送り込まれ、現地の人間よりも低賃金で雇用できるので、結局ほとんど中国人スタッフになっていた。
ヨーロッパで新領土の獲得でもしない限り中国の今回の出兵は完全に大赤字になるため、日本とソ連はイタリア北部の中国の領土化の承認と、大量移民は黙認する方針にしているが、新領土からの周辺国への不法入国は徹底的に規制するよう中国に要請し、北イタリアとオーストリアの国境にはオーストリア人の国境警備隊を配置し、移民の流入を監視した。
また、イタリア北部の中国の占領地域では地元住民と中国人移民の間でトラブルが頻発し、暴行や殺人等の凶悪事件も急増した。ただ、人民解放軍が治安維持のため多数動員されているので、暴動までには発展していない。
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