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チュートリアル
第十話
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パーティを組むには二人の冒険者カードを酒場に持ち寄って手続きを行う必要があるという。
そのため俺たちは再び酒場へとやってきていた。
女の子の名前を知ったのは、彼女から冒険者カードを預かった時だった。
マルメロ、という名前が淡い水色のカードの中央に記載されている。
なんだか、丸っこい名前でちょっと面食らった。
たしか花の名前だっただろうか。
とはいえ、マルメロの方は俺にはまるで興味がないんだろう。
むしろ敵意にも近い視線を向けられてしまっている。
「なにじろじろ見てるんだよ!」
「いや、ごめん……」
そんなに警戒しなくても、と思うが……
それにしても、こちらから名前を教えるタイミングを完全に逃してしまった。
彼女の俺への警戒心は、まだ強い。こんなので一緒にモンスター狩りなんてできるのだろうか。
自分とマルメロのカードをまとめてエマに差し出して手続きをしている間、マルメロは俺のことを背後からずっと睨んでいた。
「解散したい場合はもう一度来てください。同様の手続きを行います」
二枚の冒険者カードはすぐに戻ってくる。
すると、そのカードの色が二つとも灰色に染まっていることに気づいた。
困惑している俺にエマが教えてくれた。
「色が変わるのはリーダーにあたる冒険者カードに合わさるように色彩が変化するためです。
はい、これでお二人は同じパーティメンバーということになりますが、長く手を組むならパーティ名を決めていただいた方がよろしいかと思います。その方が依頼時にもハクが付きますしね」
アドバイスありがたいが、あいにくとこの少女とは即席のパーティなので長く手を組むつもりはない。
ってそんなことよりも早くこのカードをマルメロに返さないとまた怒られそうだ。
「いや、今は――」
「いいじゃない、せっかくだからなんか名前つけたら?」
は? なぜだ?
さっきまでそれほどノリノリでもなかった少女――もといマルメロがなぜか俺に向かって笑みを浮かべた。
まるで旧来の友人のような表情を向けられ、少し混乱する。
そんな俺の様子に気づくことなく、マルメロはカウンターに乗り出してエマに詰め寄っていた。
「フカミトオルって言うんだ、へんな名前」
今さらかよ。
というかマルメロに言われたくない。
「じゃあマルとゆかいな仲間たちにしよう」
つか、適当すぎるだろ。
「たち、ってなんだよ。俺しかいないだろ」
「これから増えるかもしれないじゃない」
だとしてもリーダーは俺なんだから、俺がその他大勢の一人みたいになるのはどうなんだ?
とはいえ……まあどうせ即席だし、それ以上は口を挟まないことにした。
「名前登録しました。それにしてもマルメロさんがパーティですか。どういう心境の変化ですか?」
「いいじゃん。このおっさんがあたしにタダで武器を用意してくれるっていうから、とりあえずものは試しってやつだよ」
「へぇ、そうなんですか。そんな愚かな人がいるとは驚きですね」
愚かって……。
しかしなぜかエマも俺に優しそうな笑みをこちらに向けている。
一体どういう意図なのか、はかりかねる表情である。
「それじゃあ手続きは終わりです。外に出るつもりならお気をつけて。武器を身に着けていれば守衛から呼び止められることはありませんが、あまり遠くには行かない方がいいですよ。モンスターの群れにはお二人じゃ到底対応できませんから」
忠告はしましたからね。と珍しく語気を強めに言ってきた。
どちらかというと俺の目の前で無邪気に笑っているマルメロよりも、俺に警告している様子だ。
「まずは店に行って武器を調達するんだよね?」
「ああ」
「なら出発!」
マルメロが出口に向かって走り出した。
ごわごわの長い髪を揺らしながら走っていく後ろ姿は、まるで散歩を喜ぶ犬そのものである。
なんかあいつ、ちょっと雰囲気が変わった気がする。
この短期間に何か心境の変化でもあったのか?
「トオルさん、ちょっと」
去り際にエマが俺の耳に顔を近づけてきた。
一瞬名前を呼ばれてドキリとするが、別に深い意味はないだろう。
「なんです?」
「お人よしもたいがいにした方がよろしいですよ。冒険者なんてのはごろつきや盗人の集まりみたいなものなんですから、安易に他人を信じてたらろくな目に会いません」
「いや……まあ……」
そりゃあごもっともだが、俺も他人に頼らざる得ない立場なのだ。
適当に話をそらそう。
「ところでエマさんは……マルメロのことよく気にかけてますよね」
そういえば昨日の二人のやり取りの時はなんとも思わなかったが、やりやすい仕事を裏でマルメロに根回ししたりとかって、結構な問題行為じゃないか?
実際マルメロは依頼を失敗してるわけで、エマにとっては迷惑極まりない存在のはずだ。
するとエマはバツが悪そう俺の背中を押して、出口方面に追いやる。。
「マルメロさんが待ってます。ほら、行ってあげてください」
「あの子のことよく知ってるんですか?」
「……さあ、本人に聞いてみらたどうです。もしかしたらトオルさんならなんで浮浪者みたいになっちゃったのか話してくれるかもしれませんよ」
意味深な回答。
それ以上は何もいいたくないのか、エマは不自然に口を噤んでしまった。
どうやら何も話すつもりはないらしい。
「フカミおそいよ! 行くの? いかないの!?」
こちらに向かってマルメロが叫び声をあげている。
なんだか腑に落ちないものを感じたが、今俺に必要なのはとにかく金だ。
武器を買えば、俺の持ち金は6ゴールドになってしまう。
つまりこの後ゴールドが得られなければ、俺は今日、宿を追い出されるかもしれない。
マルメロのもとに向かう。
入口で立ち止まっていた彼女は、なぜか俺を見てニヤニヤしていた。
急に、なんか、態度が軟化しすぎではないか?
それが何を意味するのか、この時の俺はまだ気づけなかった。
そのため俺たちは再び酒場へとやってきていた。
女の子の名前を知ったのは、彼女から冒険者カードを預かった時だった。
マルメロ、という名前が淡い水色のカードの中央に記載されている。
なんだか、丸っこい名前でちょっと面食らった。
たしか花の名前だっただろうか。
とはいえ、マルメロの方は俺にはまるで興味がないんだろう。
むしろ敵意にも近い視線を向けられてしまっている。
「なにじろじろ見てるんだよ!」
「いや、ごめん……」
そんなに警戒しなくても、と思うが……
それにしても、こちらから名前を教えるタイミングを完全に逃してしまった。
彼女の俺への警戒心は、まだ強い。こんなので一緒にモンスター狩りなんてできるのだろうか。
自分とマルメロのカードをまとめてエマに差し出して手続きをしている間、マルメロは俺のことを背後からずっと睨んでいた。
「解散したい場合はもう一度来てください。同様の手続きを行います」
二枚の冒険者カードはすぐに戻ってくる。
すると、そのカードの色が二つとも灰色に染まっていることに気づいた。
困惑している俺にエマが教えてくれた。
「色が変わるのはリーダーにあたる冒険者カードに合わさるように色彩が変化するためです。
はい、これでお二人は同じパーティメンバーということになりますが、長く手を組むならパーティ名を決めていただいた方がよろしいかと思います。その方が依頼時にもハクが付きますしね」
アドバイスありがたいが、あいにくとこの少女とは即席のパーティなので長く手を組むつもりはない。
ってそんなことよりも早くこのカードをマルメロに返さないとまた怒られそうだ。
「いや、今は――」
「いいじゃない、せっかくだからなんか名前つけたら?」
は? なぜだ?
さっきまでそれほどノリノリでもなかった少女――もといマルメロがなぜか俺に向かって笑みを浮かべた。
まるで旧来の友人のような表情を向けられ、少し混乱する。
そんな俺の様子に気づくことなく、マルメロはカウンターに乗り出してエマに詰め寄っていた。
「フカミトオルって言うんだ、へんな名前」
今さらかよ。
というかマルメロに言われたくない。
「じゃあマルとゆかいな仲間たちにしよう」
つか、適当すぎるだろ。
「たち、ってなんだよ。俺しかいないだろ」
「これから増えるかもしれないじゃない」
だとしてもリーダーは俺なんだから、俺がその他大勢の一人みたいになるのはどうなんだ?
とはいえ……まあどうせ即席だし、それ以上は口を挟まないことにした。
「名前登録しました。それにしてもマルメロさんがパーティですか。どういう心境の変化ですか?」
「いいじゃん。このおっさんがあたしにタダで武器を用意してくれるっていうから、とりあえずものは試しってやつだよ」
「へぇ、そうなんですか。そんな愚かな人がいるとは驚きですね」
愚かって……。
しかしなぜかエマも俺に優しそうな笑みをこちらに向けている。
一体どういう意図なのか、はかりかねる表情である。
「それじゃあ手続きは終わりです。外に出るつもりならお気をつけて。武器を身に着けていれば守衛から呼び止められることはありませんが、あまり遠くには行かない方がいいですよ。モンスターの群れにはお二人じゃ到底対応できませんから」
忠告はしましたからね。と珍しく語気を強めに言ってきた。
どちらかというと俺の目の前で無邪気に笑っているマルメロよりも、俺に警告している様子だ。
「まずは店に行って武器を調達するんだよね?」
「ああ」
「なら出発!」
マルメロが出口に向かって走り出した。
ごわごわの長い髪を揺らしながら走っていく後ろ姿は、まるで散歩を喜ぶ犬そのものである。
なんかあいつ、ちょっと雰囲気が変わった気がする。
この短期間に何か心境の変化でもあったのか?
「トオルさん、ちょっと」
去り際にエマが俺の耳に顔を近づけてきた。
一瞬名前を呼ばれてドキリとするが、別に深い意味はないだろう。
「なんです?」
「お人よしもたいがいにした方がよろしいですよ。冒険者なんてのはごろつきや盗人の集まりみたいなものなんですから、安易に他人を信じてたらろくな目に会いません」
「いや……まあ……」
そりゃあごもっともだが、俺も他人に頼らざる得ない立場なのだ。
適当に話をそらそう。
「ところでエマさんは……マルメロのことよく気にかけてますよね」
そういえば昨日の二人のやり取りの時はなんとも思わなかったが、やりやすい仕事を裏でマルメロに根回ししたりとかって、結構な問題行為じゃないか?
実際マルメロは依頼を失敗してるわけで、エマにとっては迷惑極まりない存在のはずだ。
するとエマはバツが悪そう俺の背中を押して、出口方面に追いやる。。
「マルメロさんが待ってます。ほら、行ってあげてください」
「あの子のことよく知ってるんですか?」
「……さあ、本人に聞いてみらたどうです。もしかしたらトオルさんならなんで浮浪者みたいになっちゃったのか話してくれるかもしれませんよ」
意味深な回答。
それ以上は何もいいたくないのか、エマは不自然に口を噤んでしまった。
どうやら何も話すつもりはないらしい。
「フカミおそいよ! 行くの? いかないの!?」
こちらに向かってマルメロが叫び声をあげている。
なんだか腑に落ちないものを感じたが、今俺に必要なのはとにかく金だ。
武器を買えば、俺の持ち金は6ゴールドになってしまう。
つまりこの後ゴールドが得られなければ、俺は今日、宿を追い出されるかもしれない。
マルメロのもとに向かう。
入口で立ち止まっていた彼女は、なぜか俺を見てニヤニヤしていた。
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それが何を意味するのか、この時の俺はまだ気づけなかった。
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