俺の知ってるゲームとは違うんですがそれは

ヒトヨヒトナリ

文字の大きさ
10 / 13
チュートリアル

第十話

しおりを挟む
 パーティを組むには二人の冒険者カードを酒場に持ち寄って手続きを行う必要があるという。
 そのため俺たちは再び酒場へとやってきていた。

 女の子の名前を知ったのは、彼女から冒険者カードを預かった時だった。

 マルメロ、という名前が淡い水色のカードの中央に記載されている。
 なんだか、丸っこい名前でちょっと面食らった。
 たしか花の名前だっただろうか。
 
 とはいえ、マルメロの方は俺にはまるで興味がないんだろう。
 むしろ敵意にも近い視線を向けられてしまっている。

「なにじろじろ見てるんだよ!」
「いや、ごめん……」

 そんなに警戒しなくても、と思うが……

 それにしても、こちらから名前を教えるタイミングを完全に逃してしまった。

 彼女の俺への警戒心は、まだ強い。こんなので一緒にモンスター狩りなんてできるのだろうか。
 自分とマルメロのカードをまとめてエマに差し出して手続きをしている間、マルメロは俺のことを背後からずっと睨んでいた。

「解散したい場合はもう一度来てください。同様の手続きを行います」

 二枚の冒険者カードはすぐに戻ってくる。

 すると、そのカードの色が二つとも灰色に染まっていることに気づいた。
 困惑している俺にエマが教えてくれた。

「色が変わるのはリーダーにあたる冒険者カードに合わさるように色彩が変化するためです。
はい、これでお二人は同じパーティメンバーということになりますが、長く手を組むならパーティ名を決めていただいた方がよろしいかと思います。その方が依頼時にもハクが付きますしね」

 アドバイスありがたいが、あいにくとこの少女とは即席のパーティなので長く手を組むつもりはない。
 ってそんなことよりも早くこのカードをマルメロに返さないとまた怒られそうだ。

「いや、今は――」
「いいじゃない、せっかくだからなんか名前つけたら?」

 は? なぜだ?
 さっきまでそれほどノリノリでもなかった少女――もといマルメロがなぜか俺に向かって笑みを浮かべた。
 まるで旧来の友人のような表情を向けられ、少し混乱する。
 そんな俺の様子に気づくことなく、マルメロはカウンターに乗り出してエマに詰め寄っていた。

「フカミトオルって言うんだ、へんな名前」

 今さらかよ。
 というかマルメロに言われたくない。

「じゃあマルとゆかいな仲間たちにしよう」

 つか、適当すぎるだろ。

「たち、ってなんだよ。俺しかいないだろ」
「これから増えるかもしれないじゃない」

 だとしてもリーダーは俺なんだから、俺がその他大勢の一人みたいになるのはどうなんだ?
 とはいえ……まあどうせ即席だし、それ以上は口を挟まないことにした。

「名前登録しました。それにしてもマルメロさんがパーティですか。どういう心境の変化ですか?」
「いいじゃん。このおっさんがあたしにタダで武器を用意してくれるっていうから、とりあえずものは試しってやつだよ」
「へぇ、そうなんですか。そんな愚かな人がいるとは驚きですね」

 愚かって……。
 しかしなぜかエマも俺に優しそうな笑みをこちらに向けている。
 一体どういう意図なのか、はかりかねる表情である。

「それじゃあ手続きは終わりです。外に出るつもりならお気をつけて。武器を身に着けていれば守衛から呼び止められることはありませんが、あまり遠くには行かない方がいいですよ。モンスターの群れにはお二人じゃ到底対応できませんから」

 忠告はしましたからね。と珍しく語気を強めに言ってきた。
 どちらかというと俺の目の前で無邪気に笑っているマルメロよりも、俺に警告している様子だ。

「まずは店に行って武器を調達するんだよね?」
「ああ」
「なら出発!」

 マルメロが出口に向かって走り出した。
 ごわごわの長い髪を揺らしながら走っていく後ろ姿は、まるで散歩を喜ぶ犬そのものである。
 なんかあいつ、ちょっと雰囲気が変わった気がする。
 この短期間に何か心境の変化でもあったのか?

「トオルさん、ちょっと」

 去り際にエマが俺の耳に顔を近づけてきた。
 一瞬名前を呼ばれてドキリとするが、別に深い意味はないだろう。

「なんです?」
「お人よしもたいがいにした方がよろしいですよ。冒険者なんてのはごろつきや盗人の集まりみたいなものなんですから、安易に他人を信じてたらろくな目に会いません」
「いや……まあ……」

 そりゃあごもっともだが、俺も他人に頼らざる得ない立場なのだ。
 適当に話をそらそう。

「ところでエマさんは……マルメロのことよく気にかけてますよね」

 そういえば昨日の二人のやり取りの時はなんとも思わなかったが、やりやすい仕事を裏でマルメロに根回ししたりとかって、結構な問題行為じゃないか?

 実際マルメロは依頼を失敗してるわけで、エマにとっては迷惑極まりない存在のはずだ。
 するとエマはバツが悪そう俺の背中を押して、出口方面に追いやる。。

「マルメロさんが待ってます。ほら、行ってあげてください」
「あの子のことよく知ってるんですか?」
「……さあ、本人に聞いてみらたどうです。もしかしたらトオルさんならなんで浮浪者みたいになっちゃったのか話してくれるかもしれませんよ」

 意味深な回答。
 それ以上は何もいいたくないのか、エマは不自然に口を噤んでしまった。
 どうやら何も話すつもりはないらしい。

「フカミおそいよ! 行くの? いかないの!?」

 こちらに向かってマルメロが叫び声をあげている。
 なんだか腑に落ちないものを感じたが、今俺に必要なのはとにかく金だ。
 武器を買えば、俺の持ち金は6ゴールドになってしまう。
 つまりこの後ゴールドが得られなければ、俺は今日、宿を追い出されるかもしれない。


 マルメロのもとに向かう。
 入口で立ち止まっていた彼女は、なぜか俺を見てニヤニヤしていた。

 急に、なんか、態度が軟化しすぎではないか?

 それが何を意味するのか、この時の俺はまだ気づけなかった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...