俺の知ってるゲームとは違うんですがそれは

ヒトヨヒトナリ

文字の大きさ
11 / 13
チュートリアル

第十一話

しおりを挟む
 スライムが あらわれた!

 しかしスライムは
 まだ こちらに きづいていない! 

 マルメロの こうげき!
 スライムに 2の ダメージ!!

 マルメロの こうげき!
 スライムに 1の ダメージ!!

 スライムの こうげき!
 マルメロは ひらりと みをかわした!

 マルメロの こうげき!

 そう、たぶんゲームならそんな感じ――

「どりゃああああ!」

 ぐしゃ、という音とともにスライムの体がくだけちった。
 何度殴りつけても形状を変えるだけだったスライムが、その一撃とともに体内に浮いていた球体のコアごと潰れ、鮮やかな赤い色をまき散らしたのだ。
 人間の血液のようだった。
 ゲームで目にしたような戦闘シーンとのあまりのギャップに、卒倒しそうになる俺。
 対するマルメロは、俺にしてやったりと笑みを浮かべた。

「ほら、倒せた」

 目を血走らせ、顔に赤い液体を塗り付けたその姿は、さながら映画で見た殺人鬼のようだった。

「はは……」

 これは、俺には無理だ。
 モンスターの命を奪うという残酷さ以前の問題だ。あの素早い動きのスライムに対応できる自分の姿が想像できない。
 この世界のスライムは、ゲームで見たようなちゃちゃなもんじゃない。動きが尋常じゃないほど速く、繰り出す突進は空を切る音が聞こえるほどだった。それなりに質量もある体だ。当たればきっとただじゃすまないだろう。

(高校球児が投げる硬式ボールぐらいの威力はあるんじゃね……?)

 しかし、すばやい動きから繰り出されるタックルを巧みにかわしていたマルメロにはもっと驚いた。

「てかすごいな……お前、モンスター狩りってしたことあるのか?」
「あるよ。昔はこのあたりで普通に狩ってた」

 それは、うれしい誤算だよ。
 でもそれならなんであんな落ちぶれてしまったのだろう。
 ふと沸いた疑問、しかしそれは目の前に転がっているものを見つけて吹き飛んだ。
 スライムの残骸のそばに転がる、青い鉱石。魔石だ! 
 しかも転がっている魔石は、二つある。

 マルメロはあれ?と不思議がっていた。

「なんか魔石が二つある。もしかしてコアが二つあったのかな? めずらし」

 ハンドラーの、入手できるお金が二倍になる能力が利いている。
 別に隠す必要もないのでマルメロには正直に話すことにした。

「へぇ、そんなのあるんだ。すごいじゃん」

 反応は薄かった。
 いやでももう、すごいのはマルメロの方なのだが!
 俺のことなんてどうでもよくなった。マルメロはすごい。

「ただの薄汚れた子供じゃなかったんだな……」
「なんか言った?」
「マルメロがすごい奴だって言ったんだ」
「へへぇ、でしょっ!」

 マルメロはすごい。
 心の中でも崇めておこう。
 そしてもう余計なことは考えるな。マルメロはマルメロだ。
 臭くてもいいじゃないか。

「でもこれなら、一匹ずつ狙っていけば狩れそうだな」
「あ、でもスライム以外は無理だよ。あと、なるべく忍び足で不意を突かないと」
「そ、そうか。それならなるべく身を潜めて行動するしかないな。俺にできることってあるか?」
「モンスターと戦ったことがないならなるべく戦闘にはかかわらない方がいいよ。あたしもフカミを守りながら戦う自信はないし、魔石を逃さず拾ってくれると助かるかな」

 まじで、そんなことしかできないのか。まあ、そうだよな……。
 とにかく二人で役割を決めて行動することにした。
 マルメロにはなるべく戦闘に集中してもらい、俺は魔石を拾う。なんか気分は野球部の球拾いみたいだが、小さい魔石を見逃して稼ぎを無駄にしてしまうリスクをなくす上でも意味のある役割らしい。

「普段ならもうちょっと大っぴらに動けるんだけど、なにせ防具がないからね……」
 
 マルメロはそう言って謙遜していたけど、スライムを処理する姿は、惚れ惚れするほどだった。
 彼女はいっぱしの冒険者なのだ。

 それから日が暮れるまで、息をひそめながら獲物を探し、孤立しているスライムに戦いを挑み続けた。

「よし、今日はこれぐらいで引き上げよう。あんまり遅くなると換金所が混雑するからね」
「お、お疲れさま」

 マルメロの提案で、遅くなる前に帰ることになった。
 俺にできるのはここでもマルメロをねぎらうことぐらいである。

「フカミもお疲れさま。魔石拾うの大変だったんじゃない?」
「いや、大丈夫だよ。マルメロのおかげでスライムが一匹もこっちにこなかった」
「慣れてるからこんなもんだよ。それじゃあ町に帰ろう」

 マルメロの優しい気遣いが胸にひびく。
 なんでこんないい子なんだ? いや、こんないい子だったか?
 なんだか頭が混乱してきた。
 とにかく犬のしょうべんみたいな臭いがするだなんて思っててごめんなさい。

 町へと向かう道中、俺は何度も心の中でマルメロに謝り続けた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...