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チュートリアル
第十一話
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スライムが あらわれた!
しかしスライムは
まだ こちらに きづいていない!
マルメロの こうげき!
スライムに 2の ダメージ!!
マルメロの こうげき!
スライムに 1の ダメージ!!
スライムの こうげき!
マルメロは ひらりと みをかわした!
マルメロの こうげき!
そう、たぶんゲームならそんな感じ――
「どりゃああああ!」
ぐしゃ、という音とともにスライムの体がくだけちった。
何度殴りつけても形状を変えるだけだったスライムが、その一撃とともに体内に浮いていた球体のコアごと潰れ、鮮やかな赤い色をまき散らしたのだ。
人間の血液のようだった。
ゲームで目にしたような戦闘シーンとのあまりのギャップに、卒倒しそうになる俺。
対するマルメロは、俺にしてやったりと笑みを浮かべた。
「ほら、倒せた」
目を血走らせ、顔に赤い液体を塗り付けたその姿は、さながら映画で見た殺人鬼のようだった。
「はは……」
これは、俺には無理だ。
モンスターの命を奪うという残酷さ以前の問題だ。あの素早い動きのスライムに対応できる自分の姿が想像できない。
この世界のスライムは、ゲームで見たようなちゃちゃなもんじゃない。動きが尋常じゃないほど速く、繰り出す突進は空を切る音が聞こえるほどだった。それなりに質量もある体だ。当たればきっとただじゃすまないだろう。
(高校球児が投げる硬式ボールぐらいの威力はあるんじゃね……?)
しかし、すばやい動きから繰り出されるタックルを巧みにかわしていたマルメロにはもっと驚いた。
「てかすごいな……お前、モンスター狩りってしたことあるのか?」
「あるよ。昔はこのあたりで普通に狩ってた」
それは、うれしい誤算だよ。
でもそれならなんであんな落ちぶれてしまったのだろう。
ふと沸いた疑問、しかしそれは目の前に転がっているものを見つけて吹き飛んだ。
スライムの残骸のそばに転がる、青い鉱石。魔石だ!
しかも転がっている魔石は、二つある。
マルメロはあれ?と不思議がっていた。
「なんか魔石が二つある。もしかしてコアが二つあったのかな? めずらし」
ハンドラーの、入手できるお金が二倍になる能力が利いている。
別に隠す必要もないのでマルメロには正直に話すことにした。
「へぇ、そんなのあるんだ。すごいじゃん」
反応は薄かった。
いやでももう、すごいのはマルメロの方なのだが!
俺のことなんてどうでもよくなった。マルメロはすごい。
「ただの薄汚れた子供じゃなかったんだな……」
「なんか言った?」
「マルメロがすごい奴だって言ったんだ」
「へへぇ、でしょっ!」
マルメロはすごい。
心の中でも崇めておこう。
そしてもう余計なことは考えるな。マルメロはマルメロだ。
臭くてもいいじゃないか。
「でもこれなら、一匹ずつ狙っていけば狩れそうだな」
「あ、でもスライム以外は無理だよ。あと、なるべく忍び足で不意を突かないと」
「そ、そうか。それならなるべく身を潜めて行動するしかないな。俺にできることってあるか?」
「モンスターと戦ったことがないならなるべく戦闘にはかかわらない方がいいよ。あたしもフカミを守りながら戦う自信はないし、魔石を逃さず拾ってくれると助かるかな」
まじで、そんなことしかできないのか。まあ、そうだよな……。
とにかく二人で役割を決めて行動することにした。
マルメロにはなるべく戦闘に集中してもらい、俺は魔石を拾う。なんか気分は野球部の球拾いみたいだが、小さい魔石を見逃して稼ぎを無駄にしてしまうリスクをなくす上でも意味のある役割らしい。
「普段ならもうちょっと大っぴらに動けるんだけど、なにせ防具がないからね……」
マルメロはそう言って謙遜していたけど、スライムを処理する姿は、惚れ惚れするほどだった。
彼女はいっぱしの冒険者なのだ。
それから日が暮れるまで、息をひそめながら獲物を探し、孤立しているスライムに戦いを挑み続けた。
「よし、今日はこれぐらいで引き上げよう。あんまり遅くなると換金所が混雑するからね」
「お、お疲れさま」
マルメロの提案で、遅くなる前に帰ることになった。
俺にできるのはここでもマルメロをねぎらうことぐらいである。
「フカミもお疲れさま。魔石拾うの大変だったんじゃない?」
「いや、大丈夫だよ。マルメロのおかげでスライムが一匹もこっちにこなかった」
「慣れてるからこんなもんだよ。それじゃあ町に帰ろう」
マルメロの優しい気遣いが胸にひびく。
なんでこんないい子なんだ? いや、こんないい子だったか?
なんだか頭が混乱してきた。
とにかく犬のしょうべんみたいな臭いがするだなんて思っててごめんなさい。
町へと向かう道中、俺は何度も心の中でマルメロに謝り続けた。
しかしスライムは
まだ こちらに きづいていない!
マルメロの こうげき!
スライムに 2の ダメージ!!
マルメロの こうげき!
スライムに 1の ダメージ!!
スライムの こうげき!
マルメロは ひらりと みをかわした!
マルメロの こうげき!
そう、たぶんゲームならそんな感じ――
「どりゃああああ!」
ぐしゃ、という音とともにスライムの体がくだけちった。
何度殴りつけても形状を変えるだけだったスライムが、その一撃とともに体内に浮いていた球体のコアごと潰れ、鮮やかな赤い色をまき散らしたのだ。
人間の血液のようだった。
ゲームで目にしたような戦闘シーンとのあまりのギャップに、卒倒しそうになる俺。
対するマルメロは、俺にしてやったりと笑みを浮かべた。
「ほら、倒せた」
目を血走らせ、顔に赤い液体を塗り付けたその姿は、さながら映画で見た殺人鬼のようだった。
「はは……」
これは、俺には無理だ。
モンスターの命を奪うという残酷さ以前の問題だ。あの素早い動きのスライムに対応できる自分の姿が想像できない。
この世界のスライムは、ゲームで見たようなちゃちゃなもんじゃない。動きが尋常じゃないほど速く、繰り出す突進は空を切る音が聞こえるほどだった。それなりに質量もある体だ。当たればきっとただじゃすまないだろう。
(高校球児が投げる硬式ボールぐらいの威力はあるんじゃね……?)
しかし、すばやい動きから繰り出されるタックルを巧みにかわしていたマルメロにはもっと驚いた。
「てかすごいな……お前、モンスター狩りってしたことあるのか?」
「あるよ。昔はこのあたりで普通に狩ってた」
それは、うれしい誤算だよ。
でもそれならなんであんな落ちぶれてしまったのだろう。
ふと沸いた疑問、しかしそれは目の前に転がっているものを見つけて吹き飛んだ。
スライムの残骸のそばに転がる、青い鉱石。魔石だ!
しかも転がっている魔石は、二つある。
マルメロはあれ?と不思議がっていた。
「なんか魔石が二つある。もしかしてコアが二つあったのかな? めずらし」
ハンドラーの、入手できるお金が二倍になる能力が利いている。
別に隠す必要もないのでマルメロには正直に話すことにした。
「へぇ、そんなのあるんだ。すごいじゃん」
反応は薄かった。
いやでももう、すごいのはマルメロの方なのだが!
俺のことなんてどうでもよくなった。マルメロはすごい。
「ただの薄汚れた子供じゃなかったんだな……」
「なんか言った?」
「マルメロがすごい奴だって言ったんだ」
「へへぇ、でしょっ!」
マルメロはすごい。
心の中でも崇めておこう。
そしてもう余計なことは考えるな。マルメロはマルメロだ。
臭くてもいいじゃないか。
「でもこれなら、一匹ずつ狙っていけば狩れそうだな」
「あ、でもスライム以外は無理だよ。あと、なるべく忍び足で不意を突かないと」
「そ、そうか。それならなるべく身を潜めて行動するしかないな。俺にできることってあるか?」
「モンスターと戦ったことがないならなるべく戦闘にはかかわらない方がいいよ。あたしもフカミを守りながら戦う自信はないし、魔石を逃さず拾ってくれると助かるかな」
まじで、そんなことしかできないのか。まあ、そうだよな……。
とにかく二人で役割を決めて行動することにした。
マルメロにはなるべく戦闘に集中してもらい、俺は魔石を拾う。なんか気分は野球部の球拾いみたいだが、小さい魔石を見逃して稼ぎを無駄にしてしまうリスクをなくす上でも意味のある役割らしい。
「普段ならもうちょっと大っぴらに動けるんだけど、なにせ防具がないからね……」
マルメロはそう言って謙遜していたけど、スライムを処理する姿は、惚れ惚れするほどだった。
彼女はいっぱしの冒険者なのだ。
それから日が暮れるまで、息をひそめながら獲物を探し、孤立しているスライムに戦いを挑み続けた。
「よし、今日はこれぐらいで引き上げよう。あんまり遅くなると換金所が混雑するからね」
「お、お疲れさま」
マルメロの提案で、遅くなる前に帰ることになった。
俺にできるのはここでもマルメロをねぎらうことぐらいである。
「フカミもお疲れさま。魔石拾うの大変だったんじゃない?」
「いや、大丈夫だよ。マルメロのおかげでスライムが一匹もこっちにこなかった」
「慣れてるからこんなもんだよ。それじゃあ町に帰ろう」
マルメロの優しい気遣いが胸にひびく。
なんでこんないい子なんだ? いや、こんないい子だったか?
なんだか頭が混乱してきた。
とにかく犬のしょうべんみたいな臭いがするだなんて思っててごめんなさい。
町へと向かう道中、俺は何度も心の中でマルメロに謝り続けた。
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