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第一幕 二 「ねえ、貴方ももしかして探偵さん?」
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二
「皆様、もうしばらくお待ち下さい。」
ヒョウとリンが室内に入ると、扉の外から男の機械的な声が響き、扉が閉められる。
互いの話に夢中な男二人は気付いていないが、女だけは新たな客の入室に気付き視線を向けた。
「ねえ、貴方ももしかして探偵さん?」
二人の男たちとの談笑の輪から離れ、女が好意的な笑みを浮かべて近づいてくる。
「貴方も、と言うことは、貴方達も探偵なのですね?」
「一応ね。」
美人と言うよりは可愛らしい顔。年齢は二十代、背も高すぎず低すぎず、スタイルもまあまあ。とっつき易く好意的で、笑顔の似合う顔だ。活発な印象を与えるショートカットとパンツスーツ、ヒールの低いパンプスは行動的な性格を表現しているようだ。探偵というイメージからはかけ離れているが、本人も自覚はあるのだろう。それが、一応という返事に繋がっているようだ。
「私は横山琉衣。あんまり有名じゃないけど、細々と探偵やってます。あの二人みたいに自慢するような事件の話なんかはないけど、地道で堅実な調査と女の勘が売りなの。よろしくね。」
自己紹介というよりは、自己アピール。女・琉衣は笑顔とともに友好の証として手を差し出した。
だが、ヒョウは差し出された手を一瞥しただけで無視した。
「私は凍神ヒョウです。」
あまりにも素っ気ない自己紹介。整いすぎた顔は、冷たさだけを感じさせる。能面のように張り付いた微笑も、今は表に出ていなかった。
「あれ?握手とかは嫌い?まあ、いいや。そっちの可愛い子は、凍神さんの何?」
差し出した後、行き場のなくなった手をめげずにしまうと、琉衣は笑顔のままヒョウの隣に視線を移した。
「助手のリンです。リン、横山サンにご挨拶を。」
「リンです。」
ヒョウの背後に隠れて相手を窺うように、リンは挨拶をした。
「失礼。リンは人見知りをしましてね。」
簡潔な説明。会話は弾みそうもない。
それでも、琉衣は笑顔を崩していなかった。
「へーえ、可愛いね。ホントに可愛い。お人形さんみたい。ビスクドールとか。ああいう感じ。肌も真っ白だし、髪の毛も細くてキレイ。」
きゃっきゃっと、高い声を上げて喜んでいる琉衣。マイペースで、あまり他人の反応を気にしない性格らしい。赤ちゃんや可愛いペットを見ては喜ぶタイプの女だ。
「リンちゃんか・・・。お姉さんと遊ばない?」
琉衣はリンに合わせるように腰を屈めると、とっておきの笑顔でリンに手を差し出した。
しかし、リンはヒョウのスーツの裾を掴んだまま背中に隠れてしまった。
「あっ、ごめん。人見知りするんだよね。怖かったね、私。」
屈んだ腰を伸ばし、少しリンと距離を取る琉衣。
そこで、ようやくリンがヒョウの背中から顔を出した。
琉衣はリンに手を振ると、視線を上げて会話の相手をヒョウに変更した。
「そうそう。凍神さんも探偵なんだよね。凍神さんは、あの二人みたいに何かスゴイ話とかあるの?連続殺人とか、犯人との一騎打ちとか。私、あんまり同業者に詳しくなくて。あっ、もしかして、凍神さんは高名な名探偵さんだったりするの?」
「いえ、別に。」
謙遜したのではなく、興味のなさそうな返事。ヒョウには自己をアピールする気も、手柄話を嬉々と聞かせる気もないらしい。
ヒョウの返事に、琉衣はいささか不満そうだった。
「えーっ。嘘だぁ。凍神さんって、何かスゴイ探偵さんっぽいのに。私の勘では、あっちの二人の探偵さんと同じくらいか、それよりもスゴイ感じがしてるのに。」
琉衣が喚きながら、二人の男を指し示す。
琉衣とヒョウの会話はあまり噛みあっていないが、部屋の奥の男二人の会話は弾んでいるようだった。時折笑い声やジェスチャーなんかも混じる。
「そうかぁ。天は二物を与えないのかな?凍神さん、ありえないくらいキレイだもんね。それカラコンだよね?初めに見たとき、ナニ人?って感じで、日本語通じるかも不安だったんだよ、実は。」
琉衣は少し頬を染めながら見上げるようにして、ヒョウのサファイアの双眸を覗き込んだ。カラーコンタクトかどうか確かめているのだろう。
「けど、そんなにキレイだったら、それだけでスゴイよね。犯人もまいっちゃいそうだし。何か聞かれたら余計なこと色々喋っちゃいそうだし。あっ、男の人にキレイとかって、よくなかった?褒め言葉のつもりだったんだけど。」
「いえ、別に。」
一方的に喋り続ける琉衣と、話に興味も持たずに聞き流しているヒョウ。両者は対照的だ。
「皆様、もうしばらくお待ち下さい。」
ヒョウとリンが室内に入ると、扉の外から男の機械的な声が響き、扉が閉められる。
互いの話に夢中な男二人は気付いていないが、女だけは新たな客の入室に気付き視線を向けた。
「ねえ、貴方ももしかして探偵さん?」
二人の男たちとの談笑の輪から離れ、女が好意的な笑みを浮かべて近づいてくる。
「貴方も、と言うことは、貴方達も探偵なのですね?」
「一応ね。」
美人と言うよりは可愛らしい顔。年齢は二十代、背も高すぎず低すぎず、スタイルもまあまあ。とっつき易く好意的で、笑顔の似合う顔だ。活発な印象を与えるショートカットとパンツスーツ、ヒールの低いパンプスは行動的な性格を表現しているようだ。探偵というイメージからはかけ離れているが、本人も自覚はあるのだろう。それが、一応という返事に繋がっているようだ。
「私は横山琉衣。あんまり有名じゃないけど、細々と探偵やってます。あの二人みたいに自慢するような事件の話なんかはないけど、地道で堅実な調査と女の勘が売りなの。よろしくね。」
自己紹介というよりは、自己アピール。女・琉衣は笑顔とともに友好の証として手を差し出した。
だが、ヒョウは差し出された手を一瞥しただけで無視した。
「私は凍神ヒョウです。」
あまりにも素っ気ない自己紹介。整いすぎた顔は、冷たさだけを感じさせる。能面のように張り付いた微笑も、今は表に出ていなかった。
「あれ?握手とかは嫌い?まあ、いいや。そっちの可愛い子は、凍神さんの何?」
差し出した後、行き場のなくなった手をめげずにしまうと、琉衣は笑顔のままヒョウの隣に視線を移した。
「助手のリンです。リン、横山サンにご挨拶を。」
「リンです。」
ヒョウの背後に隠れて相手を窺うように、リンは挨拶をした。
「失礼。リンは人見知りをしましてね。」
簡潔な説明。会話は弾みそうもない。
それでも、琉衣は笑顔を崩していなかった。
「へーえ、可愛いね。ホントに可愛い。お人形さんみたい。ビスクドールとか。ああいう感じ。肌も真っ白だし、髪の毛も細くてキレイ。」
きゃっきゃっと、高い声を上げて喜んでいる琉衣。マイペースで、あまり他人の反応を気にしない性格らしい。赤ちゃんや可愛いペットを見ては喜ぶタイプの女だ。
「リンちゃんか・・・。お姉さんと遊ばない?」
琉衣はリンに合わせるように腰を屈めると、とっておきの笑顔でリンに手を差し出した。
しかし、リンはヒョウのスーツの裾を掴んだまま背中に隠れてしまった。
「あっ、ごめん。人見知りするんだよね。怖かったね、私。」
屈んだ腰を伸ばし、少しリンと距離を取る琉衣。
そこで、ようやくリンがヒョウの背中から顔を出した。
琉衣はリンに手を振ると、視線を上げて会話の相手をヒョウに変更した。
「そうそう。凍神さんも探偵なんだよね。凍神さんは、あの二人みたいに何かスゴイ話とかあるの?連続殺人とか、犯人との一騎打ちとか。私、あんまり同業者に詳しくなくて。あっ、もしかして、凍神さんは高名な名探偵さんだったりするの?」
「いえ、別に。」
謙遜したのではなく、興味のなさそうな返事。ヒョウには自己をアピールする気も、手柄話を嬉々と聞かせる気もないらしい。
ヒョウの返事に、琉衣はいささか不満そうだった。
「えーっ。嘘だぁ。凍神さんって、何かスゴイ探偵さんっぽいのに。私の勘では、あっちの二人の探偵さんと同じくらいか、それよりもスゴイ感じがしてるのに。」
琉衣が喚きながら、二人の男を指し示す。
琉衣とヒョウの会話はあまり噛みあっていないが、部屋の奥の男二人の会話は弾んでいるようだった。時折笑い声やジェスチャーなんかも混じる。
「そうかぁ。天は二物を与えないのかな?凍神さん、ありえないくらいキレイだもんね。それカラコンだよね?初めに見たとき、ナニ人?って感じで、日本語通じるかも不安だったんだよ、実は。」
琉衣は少し頬を染めながら見上げるようにして、ヒョウのサファイアの双眸を覗き込んだ。カラーコンタクトかどうか確かめているのだろう。
「けど、そんなにキレイだったら、それだけでスゴイよね。犯人もまいっちゃいそうだし。何か聞かれたら余計なこと色々喋っちゃいそうだし。あっ、男の人にキレイとかって、よくなかった?褒め言葉のつもりだったんだけど。」
「いえ、別に。」
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